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(2)老いたジャパン

 とても仲が良くて、たびたび飲みに行っている近所の人がいる。仮に「Zさん」としよう。Zさんは単なる飲み友達だが、友達と言うには違和感があるくらい年齢が離れている。彼はもう70だ。
 
 でも、仕事でつながりがあるわけでもなく、近所に住んでいて、誘い合って飲みに行くだけの関係。だから、知り合いのカテゴリーとしては「友達」で間違いないのだろうと思う。
 
 今年に入って、しかし、飲み屋に行ったのはたったの2回。あとはファミリーレストランで食事した程度。今年ももう半年すぎているというのに。時短で、しかも酒の提供がない期間が長いので、なかなか行けない。
 
 Zさんは、都知事選では自民党の誰それさんをお願いねと、何度か言ってきた。ぼくはそれを聞くたびに、とても不思議な気持ちになった。Zさん、昔から米軍基地の騒音に悩まされ、地元民の一員として市役所に掛け合っているのだ。また、地元の数々の飲み屋の常連なので、現政権の政策が腹立たしくて仕方ないようで文句を言っている。しかし、自民党推しなのだ。
 
 傍で見ていて、Zさんの嫌がることを自民党が進めている。でも、自民党の支持。つじつまが合わない。
 
 しかし、なんとなく分かる。Zさんの、選挙のお願いをするときの言い方が、この合理性のなさを説明してくれているのだ。
 Zさん、何も考えていないのだ。選挙のお願いのときも、地元の議員のアピールをするわけでもない。ただ単に、「○○さんよろしくね」と言うだけ。まるで、「トイレに行ってくるから、その間にビール頼んどいて」という感じと言えばいいのか。
 お願いという形式だけど、でもたいしたことでもないし、あなたに負担かけるわけでないし。それくらい、ちょっと頼むよ。そういった感じなのだ。
 
 Zさんは、賃貸アパートを3軒持っている。富豪ではないが、まぁ不労所得で生活は安泰だ。これを長く続けてきたし、これからも大勢に変化がないのがいい。そう明確に思っているわけではないだろうが、望んではいるだろう。そういった人間にとっては、惰性で現状を続けるのがベターなのだ。もう70。ベストへの冒険など意味がない。
 
 この列島は、こういった人たちの集団になってしまったのだろう。実際今回の都知事選でも、元商売人だったぼくのまわりは相変わらず自民党支持が多かった。あれほど問題ある場当たり政策をしながらも、第一党だった。
 
 ホントに、あの現政権がのさばっているのを見ていると、この国は『2代目社長の治める会社』のようなものだなぁと感じる。
 国民という社員は、それまでの経済成長期でがんばってそこそこ安定してしまって、そして老いてしまって、現況に不満があっても、まぁいいかと矛先をおさめてしまう。そして、これまでの過程を振り返って、「でもまぁ、なんとかなるだろう。つぶれることはないだろう」と楽観視している。
 
 こういった流れというのは、おそらく変えられないのだろう。それまでの大国が落ちぶれていくのと同じように、経済大国も、「まぁ大丈夫だろう」の総意とともに落ちていくのだろう。今のあの無能トップは、出るべくして出てきたのかもしれない。
 
 
 イギリスのパンクバンド、クラッシュの曲の中で「老いたイングランド」というものがある。歌詞から曲調から、七つの海を支配していた大国が並みの国に落ちていく哀愁をうまく表現している。名曲だ。
 またそのタイトルも、哀愁をわかせるに一役買っている。「老いたジャパン」あるいは、「老いた日本」では、不思議と哀愁がわかないのだ。

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砥城 佳太流@元豚モツ業者
駄文ですが、奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。