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【視察レポート】日本の”次世代シリコンバレー”神山まるごと高専が示す、教育イノベーションの姿

こんにちは、まちづくりにDXで革新をもたらすトグルホールディングス HRユニットシニアディレクター・UT-LAB運営責任者のYoshieです。
今回は、IT企業Sansan株式会社のCEOである寺田親弘さんが理事長を務め、「テクノロジー×デザインで、人間の未来を学ぶ学校」として2023年に開校した神山まるごと高専の施設見学の様子をレポートします。


2025年1月16日、代表の伊藤嘉盛とUT-LAB運営マネージャーの佐藤とともに、神山まるごと高専を訪ねた。羽田から徳島空港まで飛び、そこからさらに車で山道を登っていく。人口約5000人の徳島県の山間部、神山町。緑深い山々に囲まれ、清流が流れる静かな町だ。

OFFICEを川辺から眺める

清流を眼下に見ながら進むと、やがて特徴的な2つの建物が目に入ってきた。川を跨ぐように建つHOMEとOFFICE。HOMEは旧神山中学校の校舎をリノベーションした寮生活の舞台。一方のOFFICEは、神山杉をふんだんに使用した、川に面したガラス張りの低層建築だ。

学びと暮らしが交わる空間で

最初に案内されたHOMEの学生食堂では、大きな窓から溢れる光と中庭の緑が私たちを迎えた。

地産地食をコンセプトに、地元の食材を活かした給食を試食。地元の大工さんが作った机や、学生が地域の方と制作した椅子が温かみを添える。使用する食器も、プラスチックではなく、しっかりとした素材感のあるものばかりだ。

明るい光が差し込む食堂 手作りの家具も空間に温かみを添える
地産地食をポリシーとした給食
図書館では木と本の香りが漂い、多様なジャンルの選書が並ぶ

OFFICEに移ると、開放的な空間が広がる。意図的にゆとりを持たせた廊下では、そこかしこで学生たちが議論を交わすためにあえて広い廊下にしているという。ガラス越しに見える川の流れと、木の温もりが調和した自然光溢れるゆったりとした心地よい空間が、自ずと創造性を刺激する。

神山の自然豊かな環境
神山杉をふんだんに利用した空間は温もりと機能性・デザイン性を兼ね備えている
ガラス張りの教室と広い廊下 アクティブラーニングを実践するための仕掛けがある

3つの軸で描く新しい教育

この学校の特徴は、「テクノロジー」「デザイン」「起業家精神」という3つの軸を掲げ、これらを有機的に結びつけ、全ての学校生活を設計している点だ。プログラミングやAI、データ分析。デッサンやUI/UX、3DCG制作。問題解決力やリーダーシップ、レジリエンス。
さらに英語教育を含めたリベラルアーツまで。新時代の教育を予見するようなカリキュラム構成となっている。

壁一面のホワイトボードに「死ぬまでにやりたいこと」を英語で

「ここは小さな社会、あなたは大人」

案内してくれたスタッフの言葉が印象的だ。教師ではなく「スタッフ」と呼び、3ヶ月に1回の1on1ミーティングを実施。フラットな関係性の中で、学生たちは成長していく。プロモーション動画を作成し、視察ツアーを実施するのも全て現役の学生たち、学生だからといって子供扱いするのではなく、「大人」として扱う風土が根付いている。

教育機会の革新的な提供ー学費実質無償

この学校の特筆すべき点の一つが、学費の実質無償化だ。
本来一人当たり年間200万円を要する学費を、100億円規模の基金の運用益を原資とした給付型奨学金でカバーしている。ソニー、mixi、ソフトバンク、Sansan、デロイト、セコムなどといった先進企業11社が賛同し、1社10億円の資金提供をした。これにより、経済的な障壁を取り除き、意欲ある学生たちに等しく教育機会を提供することを実現した。
その資金調達、運用による教育機会の革新的提供はぜひ見習いたい。

挑戦を支える仕組み

年間800万円の予算枠を有する「チャレンジファンド」は、学生たちの「やりたい」を形にする。学生は、挑戦したいプロジェクトの事業計画を策定し、ピッチを行い、過半数の支持があれば予算が付く。中には、海外施設見学の渡航費用を実現した学生もいるという。また、全学生がスカラシップパートナー企業との活動を行い、実社会との接点も提供している。

起業家精神を育む

沖縄から来た1年生との対話で、特に印象的だったのは、起業家精神に関する話だ。「実は、デザインの授業で最も起業家精神が養われるんです」という言葉に、私は耳を傾けた。

「時間を区切って、とにかく描きなさいと言われる。完璧を求めすぎず、まずは描き出してみる。そうすると、案外できるんですよね」

時間の制約の中でアウトプットを出し続けること。それは起業の現場でも求められる重要な精神だ。完璧な計画を立てることよりも、まずやってみる、動き出すことの大切さ。16歳の彼は、まずは動くことが起業家精神の最重要ポイントであることを本質的に理解していた。

起業家メンタリティとして「βメンタリティ」(完成形でなくてもとりあえずやってみる精神)を大切にしている
手洗い場にもさりげなく起業家精神を育む一言

価値ある出会いの場として

「社会人や起業家と当たり前に会えることが、ここでの最も大きな価値です」

この言葉も、心に響いた。水曜日の「Wednesday Night」では、様々な分野の起業家たちがこの地を訪れ、トークライブやナイトセッションを通じて学生たちと交流する。

単なる講演ではない。食事を共にし、カジュアルな会話を重ねる中で、起業家たちが「等身大の存在」として学生たちの前に現れる。

「起業家の方々と実際に会って話すことで、『自分にもできるかもしれない』と思えるようになりました。テレビや本で見る遠い存在ではなく、身近なロールモデルとして接することができる。それが、ここでの大きな学びです」

この言葉に、私たちUT-LABの新たな可能性を見出した。社会人や起業家との出会いの場を作ること。それは、単なるネットワーキングの機会以上の、深い学びと気づきをもたらすのだ。

私たちの挑戦へ

コミュニティ運営事業に関わる身として、その立ち上げや運営の困難さに共感する。立ち上げの際に、運営メンバーが感じたという「正解がない」、「ハードルが高い」、「進捗が見えない」—そんな不安と向き合いながらも、高専としては2023年に約20年ぶりに新設し、確かな一歩を進め続ける姿に、大きな勇気をもらった。

私たちUT-LABも、オープンイノベーション施設として同じ志を持っている。新しい学びの場を創造し、挑戦する人々を支援、応援する。

特に、UT-LABメンバーら学生や若手研究者と、最前線で活躍する起業家や多様な方々との「当たり前の出会い」を作り出していくことに、より一層注力していきたい。ロールモデルとの出会いが、次世代のイノベーターを育てる。神山まるごと高専での学びは、そのことを強く教えてくれた。

帰り道、車窓に映る神山の山々を眺めながら、生き生きと学び、成長する学生たちの姿を思い返していた。
これからも、UT-LABは新たな挑戦の場であり続ける。未来を創る若者たちと共に、私たちも成長し続けていきたい。その決意を、この神山の地で新たにした。


UT-LABにおいては、次世代のイノベーターのために第一線でご活躍する知識人をお招きして創造性を刺激するトークセッションシリーズを定期的に開催しております。

今回は、茂木健一郎氏(脳科学者)× 渡邉正峰 氏(東大准教授)が登壇し、脳科学×工学が拓く“自己”の再定義と未来を語ります。

イベント紹介

UT-LAB INNOVATION DIALOGUE 003「What is consciousness? 脳をハックする未来――機械に意識は宿るのか?脳科学×工学が切り拓く“自己”の再定義と未来」が開催します。

📅 開催日時:2025年2月13日(木) 18:00~(17:30開場)
📍 会場:UT-LAB(最寄駅:東大前駅、本郷三丁目駅)
💰 参加費:無料
💡 注意点:ハイブリット開催予定で、現地参加は先着20名様まで!登壇者のトークセッション後、ネットワーキングセッション(交流会)を予定しております。(参加費1000円)
🚨 応募締め切り 2/11(火) 23:59
📨 参加申し込みフォーム  https://forms.gle/r3XeeEdFG8e4ZUSA9

UT-LABは、東大の目の前にあるAIを始めとする先端技術を活用し、社会課題を解決するプロダクト開発や起業家を育成するメンバーシップ制のオープンイノベーション施設。
365日24時間利用可能・スタイリッシュな次世代のオープンイノベーション拠点&コワーキンススペースです。
メンバー登録無料。現在、若手研究者や学生の方のメンバー募集しております。皆様のご参加をお待ちしております!

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最後までお読みいただきありがとうございました。




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