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【閲覧注意】事後強盗罪の成否について~R5司法試験問20ア・R5予備試験問13ア~

こんにちは、あるいはこんばんは。
とげぬき法律事務所弁護士の寺岡です。

標題の問いにつき質問があったので個人的な見解を述べる。
なお、アガルートとは一切関係ない個人の見解ですのであしからず。
また、質問に回答するために調べたものの、各種予備校の解答速報を見ると引っ張られて考えちゃう気もするので、アガルートの公式動画含めあえてチェックはしていない点もご容赦。

問題文は以下。司法と予備共通ゆえにどちらか一方を見れば足りる。

https://www.moj.go.jp/content/001400112.pdf

(第20問ア)

https://www.moj.go.jp/content/001399906.pdf

(第13問ア)
乙がAからカードを奪った行為は、窃盗罪の実行に着手した後、Aに暴行を加えてこれを奪取したことになるから、乙に事後強盗既遂罪が成立する。

先に一言。この肢1つにあまりに多くの論点があり、限られた制限時間の中で論理的に全てを検討するのは困難すぎる。そしてこの記事は4000字を超えるので心して。

また、見たくない人もいるだろうから、無理して見ないように(タイトルに閲覧注意と入れておいたけども)。

1 窃盗罪の実行に着手した

「窃盗が」
既遂・未遂を問わないところ、少なくとも、実行の着手が必要ということになる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/925/090925_hanrei.pdf

同決定(以下「R4決定」)によれば、
うそ&路上に赴いた時点で窃盗の実行の着手あり
ということになる。

本問は、

うそ&A方を訪ね&封筒に入れるよう求めた

のだから、判例の事案よりもさらに、時間軸が進行している。
したがって、窃盗罪の実行の着手はありと判断されるだろう。

R4決定をどれだけの受験生が追えているだろうか。半分はいるかなある。しかし、最判H30を知っていれば「意外と着手時期って早いんだな!」という感覚は持てたかもしれない。そうすると、
・R4知ってる人
・R4知らないけどH30知ってる人
は、気が付くことが出来たのかも?

2 居直り強盗との異同

 ”バレて殴ったんだから居直り強盗ではないか?”
 ”結果、単純強盗ではないか?”
という論点もあろう。

ポイントは何のために殴ったか、である。
「…行為者が暴行・脅迫を加えた目的によって区別される」
(橋爪隆『刑法各論の悩みどころ』(有斐閣))第206頁

「窃盗犯人が、財物の占有をまさに取得しようとする段階(あるいはなかば取得した段階)で被害者に発見され、占有を確実なものとする手段として暴行・脅迫を加えたといいうるのであれば、その限りで強盗罪となり、それは事後強盗罪…ではない」
(井田良『講義刑法学・各論』(有斐閣-第2版)第257頁)

「乙は、逮捕を免れるとともに本件計画どおりにカードを手に入れるため、Aを手拳で多数回殴り」
という問題文を見ると逮捕免脱目的もあれば、占有取得にも向いた目的もあるように見える。
事後強盗罪と見るなら、
・先に逮捕免脱が記載されていることから主たる目的は逮捕免脱目的(つまり占有確保に向いてはいない)
・「Aにカードを封筒に入れるよう求めた」だけであって、まだ取得段階の一歩手前にすぎない
・「A」は、「乙の態度を不審に思った」だけであって、「被害者に発見」されたわけではない
という理屈になるだろうか。

居直り強盗と見るなら、
・占有取得にも向いている以上、居直り強盗を否定する理由にはならない
・窃盗の実行の着手がある以上、「封筒…」時点で既に取得段階に移行している
・典型的な居直り強盗でも、「なんか知らん人がいる?誰だおまえは!」と必ずしも「窃盗犯人」と確定的に認識するわけではなくそれでも居直り強盗になるのだから、「不審」であっても「被害者に発見」されている
という理屈になるだろうか。

さて、私見では、事後強盗罪になるかと思われる。
例えば、木村光江先生の書籍には、
「財物を奪取した後に…暴行・脅迫を加えるいわゆる居直り強盗の場合…」(木村光江『刑法』(東京大学出版会-第4版)第270頁)
という記載がある。つまり、財物奪取を居直り強盗の前提としている。
また、前掲橋爪先生の書籍には、
「もっぱら逮捕を免れる目的で暴行・脅迫に出ていれば、当然に事後強盗罪が成立する」という記述もある。

本件で、仮に、既に乙の手元にカードがあったなら(完全な占有があるかはともかく)、これを奪われんとするために殴れば居直り強盗の余地も出てくるのかもしれない。しかし、そうした事情はないし、逮捕免脱目的がある以上、端的に事後強盗罪ということではいいのではないだろうか。

視点を変えて、1項強盗と事後強盗の関係はどうだろう?

つまり、1項強盗×のときに事後強盗は使えるのか、それとも好きなほうを使えばよいのか。前掲「講義刑法学・各論」(第266頁)に記載はあるが、どちらの考え方もあるという点にとどまり、特に判例が引用されているわけでもない。
が、メタ的考察で恐縮だが、

わざわざ逮捕免脱目的を問題文に出したのはなぜか?

と考えると、”ここは事後強盗前提でいいからね””引っ掛けポイントは別のところにあるからね”というメッセージにも感じる。(否、単にいじわる問題なだけかもしれないし満点防止とかそういう目的もあるかもしれない。)

※ちなみにR3の短答では、”事後強盗と見せかけて居直り強盗だからね”という趣旨の問題が出ているが、ご丁寧に「…発見されたため、この機会に乙に暴行を加えて金品を奪おうと考え」と記載されている。

というわけで、一旦ここも居直り強盗ではなく事後強盗として考えておくこととする。

3 事後強盗は「既遂」か(窃盗は既遂となったか)~既遂と見る余地はあるのだろうか~

事後強盗の既遂・未遂は、窃盗の既遂・未遂で決まる。そして、窃盗が既遂かどうかは、占有を確保したかどうかで決まる。

通常想定されている窃盗既遂の事後強盗の例というのは、

泥棒に入り、タンスを開けたら100万円出てきたのでポケットに入れた。
出て行こうとしたら見つかったので、逮捕を免れるため殴った。

という場合。つまり、

占有確保(窃盗既遂)→(逮捕免脱目的による)暴行・脅迫

という流れである。

これに対し、本問は、

実行の着手あり(しかしまだカードの占有は確保してはいない)→(逮捕免脱目的&占有取得目的)による暴行・脅迫→この後に(カードを奪って)占有確保

という流れである。

なるほど、本問の場合、窃盗未遂→暴行・強迫→占有確保と見ることができるのではないか?それなら窃盗は未遂ゆえに事後強盗も未遂ということになるから、×(選択肢的に言えば、2)となる。というか素直に考えたらこうなる。

一方、前掲「講義刑法学・各論」266頁には、
「暴行・脅迫を行ったとしても、結局、財物を取得できなかったというときには、…未遂犯が成立することになる。」
とある。また、前掲「刑法」第272頁には、
「事後強盗罪の既遂・未遂は、財物奪取の有無による」
とある。
※ただし、「どの時点での占有確保が必要か」という文脈ではなく、「免脱を果たしたかどうかや暴行・脅迫で既遂が決まるわけではないからね」という文脈で書かれている点には注意。

井田先生の記載を、
「暴行・脅迫により、財物を取得できれば、(「窃盗が」も既遂と考えることが出来るから)既遂となる」
と解釈する余地はないだろうか。また、木村先生の記載も「最終的に財物を得れば既遂」と解釈する余地はなかろうか。

かかる解釈が可能だとすると、平たく言えば

”殴る前の時点で占有を確保していなくとも、ぶん殴った後、最終的に占有を確保できれば、窃盗につき既遂といえ、結果、事後強盗罪も既遂といえる”

という論理が成り立つのではなかろうか。
感覚的にはすんごく変な感じ。
”殴ってとったんだから「窃取」じゃなくて「強取」だろ”という感覚。

一方で、ぶん殴る前に占有を確保してなければ窃盗既遂とはいえない(したがって、事後強盗も未遂にしかならん)ということになると、条文上の疑義が生じる気もしないでもない(ここは寺岡が勝手に言ってるだけ)。
事後強盗は、
①「取り返されることを防ぎ」
②逮捕免脱目的
③罪跡隠滅目的
と3つがあるわけだが、事前の占有確保を明示的に求めているのは①だけである(「財物を得て」が掛かってるのは①だけ。②③にかかるなら、「、」が入るはず)。したがって、②③は、もともと占有確保をしていないケースを想定している。
そして、”②につき、もともと占有を確保してないケースを想定しているはずなのに、そのようなケースは全部未遂だ”ということであれば、条文構造も変わっていたのではなかろうか。じゃあ、どんな条文になるんだと言われるとピンとはきてないけども。

以上の解釈を前提とすると、本問も、最終的にカードを奪っている以上、「窃盗」につき、既遂罪と考えることができる…のか?。いや、やっぱり変な感じ。

4 まとめ

つらつらと書いてみたが、考えれば考えるほど難しい。
Ⅰ 実行の着手あり ←これは多分そう
Ⅱ 居直り強盗ではなく事後強盗 ← 7~8割そうかなあ
Ⅲ 事後強盗未遂ではなく既遂 ← 自分で書きながらうーん…

結果、回答は〇(選択肢的にいえば1)ということもできるのかもしれない。

しかし、初見の直感は2(Ⅲが引っかかる)。この記事も2時間以上かけて書いているが、正直わからん。

何か根拠ないかなと再度、前掲橋爪先生の第198頁を読んでみる。
すると、
「学説では…行為者が最終的に財物を確保することができたか否かによって既遂・未遂を区別する見解も主張されているが…このような解釈は現行法の理解としては困難であろう。」

あれ、これじゃねーか?
つまり、「最終的に確保できたか」という視点は学説にすぎず、橋爪先生は、判例を紹介した後に、この「学説」を紹介している。ということは「最終的に確保できたか」という視点は、判例とは異なることを前提としている、と。

であれば、やっぱり素直に考えて、「窃盗は未遂のままだろう」「だから事後強盗罪は未遂だろう」ってことなのかなあと今は思っている。

つまり、解答は2かな

ここもメタ視点で言えば、「時間もないだろうし肢を切れる方向で問題を用意していた(つまり誤りを探してほしい)だったのかなあ。」という気もする。一方、それだと「実行の着手の判例を知らない受験生が、『まだ着手ないだろ、×だな』と思って2を選んだ場合にたまたま正解してしまう」というねじれ現象?が起きる。それはそれでなんというか…。じゃあやっぱ1?うーん…。

いずれにせよ

「こんな問題、あの時間内で自信持って解けるかぁ!!!」

と思うので、間違えても構わんかと(とはいえ、受験生からしたらここで合否が決まることもあるわけだから、ふざけんなという気持ちだろうけども)。

以上です。受験生の皆さん、改めてお疲れ様でした。

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