アイドルの握手会に向かう電車で片想いの女の子と彼氏に会っちゃった話
学生時代、ももいろクローバーZに胸を撃ち抜かれました。
当時の僕は、進路も決まらず彼女もおらず、お先真っ暗な日々を過ごしていたのです。そこであんなに元気でパワフルでコミカルなパフォーマンスを見せつけられてしまったら、依存するに決まっています。
そんな中、CDを買えば某都内で、彼女たちの握手会に参加できることを知り、速攻で購入。
もう、笑顔が止まらない! 踊るココロ止まらない!
運命の日、電車に乗り込みます。あと1時間くらいで推しの百田夏菜子さん含む5人に会えるんだ、握手ができるんだ。いったい何を話そうか、、、いや話すなんておこがましいか、、、緊張して変な感じになるより、ただ応援しています、で彼女たちのお顔や手のひらの温もりを記憶に焼き付けることに集中した方がいいかも、、、なんて頭の中でグルグル思考していると、
「◯◯さん!」
かつて好きだったサークルの後輩の女の子に声をかけられて心臓が止まりました。
その後ろには彼氏がいます。彼氏もサークルの後輩です。「どもっすー」と頭を下げています。
なんでももクロに会いに行く日に好きだった女と彼氏に声かけられないといけないんだよおおおおおおおと暴れ回りたいですが仕方ありません。
その女の子も彼氏も、僕がその女の子を好きだったということは知らないのです。僕がどうやってデートに誘おうか悩んでる間に、二人は付き合い出してしまったので。
「◯◯さんはどこに行くんですか?」
僕の気持ちなんて一つも知らずに、あどけなく女の子が質問してきます。
くそっ、こいつらがラブラブデートする中、僕はアイドルに救われに握手会かよ。……いや、いやいやそんな卑下してはいけない、アイドルとの握手会は一般人のラブラブデートなんかより尊いんだ、このカップルが一生経験できないような尊い光を、僕は今から浴びにいくんだ。
「あ、いやー、まあオタク趣味なんだけどさ、ももクロだよ。ももクロの握手会」
嘘をつこうか迷ったけど、堂々と言うことにしました。
後輩カップルが顔を見合わせます。
「ほんとですか!? 今からあたしたちもいくんですよ!」
え、
ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!
「えーじゃ一緒にいきましょ! ◯◯さんもももクロ好きだったの知らなかったですー、誰推しなんですか?」
「か、夏菜子だけど、、、」
「あ、俺もっす! やっぱリーダー、海老反りジャンプっすよねー!」
俺の好きだった女の彼氏と、推しが被るんかい!!!!!!!!!
めっちゃめちゃな感情になりながらも、仕方なくももクロの話をしながら電車に揺られます。好きな曲、好きな振り付け、バラエティで面白かったとこ、、、。普通に盛り上がっちゃいました。
会場は凄い人だかりです。3人で最後尾に並びます。
僕は好きだった女の子の彼氏と喋りながら、頭の中がグルングルンになっています。
くそ、こいつ彼女いるのに僕と同じように夏菜子に握手してもらって幸せ〜とかやるのかよ。それで僕はひとりぼっちでお家に帰るのに、こいつは僕の好きだった女の子とももクロの感想語り合いながら帰って、きっと夜はお家でおせっせ、、、、。
うぎゃああああああああああああああああ
僕は列に並ぶのをやめました。
「どうしました?」と首を傾げる後輩カップル。
「え、いや、、、。すまん、ここからは、別行動で、、、」
握手会をひとりで集中したいから、、、。
息も絶え絶えで、僕は完全にキモオタになっていました。
「確かにー! そりゃそうですね! じゃあまた今度、学校で会った時にでも感想語り合いましょ!」
「あと、俺らがもうちょっと後ろで並ぶから大丈夫です! 先輩が前にいって下さい!」
そう笑って、カップルは列から外れてくれました。
そうなんです。
二人とも、とってもいいやつなんです、、、。
最高の後輩なんです、、、。
さすが俺が好きになった女と、その彼氏。
さすがももクロを好きになった女と、その彼氏。
でもずりいなあカップルの幸せもドルオタの幸せも同時に手にしやがってよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!
ヤケクソのバーサク状態になった僕は、ももクロに会う緊張も動揺もすっかりなくなっていて、あんなに何を喋るか、それとも喋らないかなんて悩んで悩んで考えていたのに
「夏菜子さん好きです大ファンです『走れ』の時のウインクやって下さい!!!!!!」
と数秒の間に絶叫早口でのたまって、百田夏菜子さんがにっこりウインクしてくれて天にも昇る気持ちでした!!!!!!!!!!
好きだった女の子と彼氏のお陰で勇気が足りたよ少しのきっかけが足りたよ動き出した僕の体、走れ!走れ!走れー!!!!!!!!!!!!!!!!!
うおおおおおおおお
完