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財布の底に、むかし彼女にやりたかったサプライズがまだ残っていた話


7年くらい使っていた財布がとうとう壊れたので中身を全て出してみたら、クレジットカードやマイナンバーカードの裏の下の下から、見慣れない銀の正方形が出てきました。




なんだこれ? とひっくり返してみたら、

ヤッターメンの蓋でした。

ヤッターメンとは一口サイズのベビースターラーメンが小さな容器に入っている1個10円の駄菓子です。蓋の裏に当たりがついていたらもう1個もらえるという、味よりもクジを楽しむのがメインの駄菓子。


なんでこんなのが財布に入ってるんだろ?と考えたら、5年前に親戚の子供の小学3年生の男の子がお近づきの印にくれた事を思い出し、


そして僕は、それを彼女とのデートのサプライズに使おうと、肌身離さず財布に入れていたことも思い出したのでした。


彼女に行きつけのバーを紹介して、「マスターいつもの!」とかカッコいいじゃないですか。彼女とクラブ行く時にVIPルーム行ける事は内緒にしておいて、丁重にVIPルーム通されたらサプライズじゃないですか。


ああいう事を一度はやってみたかったのです。


でも僕は行きつけの店なんてないし何もVIPじゃないからそんな事は一度もできない。凡の凡の人間です。


だからデートで色んな街を歩く時にもしたまたま駄菓子屋さんを見つけたら、「ちょっと中に入ろう」と彼女を誘い、いきなり財布からヤッターメンの当たり券を取り出し、


「おばさん、ヤッターメン1個引き換え頼む。僕の大切な恋人にプレゼントしてやってくれ」


とサプライズをかまそうと思っていたのです。


「なにヤッターメンでそんなカッコつけてんのよ!」

そう彼女が笑ってくれると信じて。



このサプライズやりたかったけど、なかなか駄菓子屋って見かけないんだよな〜。懐かしい気持ちで、ヤッターメンの蓋の表と裏を眺めます。



そんなことを。


そんなことを、たとえボケでも「サプライズ」だと言い切ってしまうような間抜けな精神だから、経済状況だから、フラれたんだよな。



いきなり花束を渡したり、看板のない秘密のBARに連れて行ったり、今年の旅行は海外にしよう!と言ったり、そういうことじゃなく、俺のサプライズはヤッターメンだから。ヤッターメンの無料券だから。愛想を尽かされるんだよ。



そう考えたら彼女に申し訳なくって泣きそうになりました。


ふざけすぎて 恋が まぼろしでも
構わないと いつしか 思っていた



……新しい財布には、ヤッターメンの当たり券は入れません。


もうプレゼントしたい彼女はいないので。


俺にエモさと情けなさのサプライズをくれたヤッターメン。どうもありがとう。



この当たり券は、この当たり券をくれた、親戚の子供の男の子が大学生や社会人になった時に、お祝いがわりに渡してみようと思ってます。


たぶんめちゃくちゃウケると思う。




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トゲ(弱者エッセイ)
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