【台本】「チェリードール」（男１女６ ※兼役可）

〈時間〉２０分.

悪徳教師に恋をした少女の死。
怒りを胸に潜めて幕を上げる、学友少女たちの復讐ドラマ。
今作は『劇中劇』をモチーフにした『復讐劇』です！

※【声劇】の場合
女性の人数が６人に達しない場合は、女生徒Ａ〜Ｅは兼役してください。
ト書は飛ばしても、誰かが言うでも どちらでも大丈夫です。

〈登場人物〉
♀雫　　　　中峰雫（18）…女子校に通う高校３年生。演劇部 部長
♂西島　　　西島春人（30代）…雫の担任の男性教諭。インテリ系イケメン
♀女生徒Ａ　雫のクラスメイト（※兼役可）
♀女生徒Ｂ　雫のクラスメイト（※兼役可）
♀女生徒Ｃ　雫のクラスメイト（※兼役可）
♀女生徒Ｄ　雫のクラスメイト（※兼役可）
♀女生徒Ｅ　雫のクラスメイト（※兼役可）

※商用利用時は、ご連絡お願いします。
※台本の無断改変・無断転載などはご遠慮ください

〈本文〉
―――桜園 女子高等学校
◯教室のドアが開き 出席簿を手にした西島春人（３２）が入る

西島　　　朝のホームルームはじめるぞ…！？

◯息をのむ西島
◯女生徒全員が おかっぱ頭で着席し、西島をじっと見ている

西島　　　おい、お前ら なんだよ そのおかっぱ頭は…
　　　　　宮里きのうまで金髪だったよな/

◯生徒の一人である中峰 雫（１８）が号令をかける。

雫　　　　起立っ！！！

◯女生徒全員が 一糸乱れず同時に立ち上がる

西島　　　何の真似だよ これは（出席簿をめくって）
　　　　　中峰…お前今日 日直じゃないだろ？
雫　　　　先生。中峰って誰ですか？
西島　　　はぁ？
雫　　　　……
西島　　　どういうつもりだ、中峰/
女生徒Ａ　先生ー、早く出席とってください
西島　　　あっ、あぁ…えーっと、相沢恵（あいざわ めぐみ）

◯沈黙

西島　　　相沢恵！

◯沈黙

西島　　　相沢っ！　黙ってないで返事しろよ！
女生徒Ｂ　先生、私、相沢じゃありませーん
西島　　　はぁ？　お前、何言ってんだよ…

◯女生徒 全員が無言で睨む
◯目をそらす西島

西島　　　もう良いっ！
　　　　　相沢と あと中峰は、ホームルーム終わったら職員室に来い。
　　　　　良いな？　次、井川加奈子（いがわ かなこ）！

◯沈黙

西島　　　（ため息）おい 井川。お前も返事しないつもりか？
女生徒Ｃ　だって私 そんな名前じゃないしー
西島　　　（出席簿を床に叩きつけ）じゃあお前たちは一体誰なんだよ！？
雫・女生徒Ａ〜Ｅ（同時に）ハヤマ リカ
西島　　　（青ざめて）葉山梨花だと…？　何の冗談だよ…
　　　　　全員アイツと同じおかっぱ頭にして、何が目的だ！？
女生徒Ｄ　せんせ〜い。黒板見てくださーい
西島　　　黒板だと…

◯黒板に赤いチョークで書かれた『チェリードール　第三幕』の文字

西島　　　『チェリードール　第三幕』…？　誰だ！？
　　　　　こんな落書きした奴は！？
女生徒Ｅ　落書きじゃなくて劇のタイトルですよ
西島　　　は？ 演劇だと…？
雫　　　　はじめっ！

◯全員が机から原稿用紙の束を取りだし 一斉に立ち上がる

西島　　　（後退り）はっ…えっ、なっ…
女生徒Ａ　『（原稿用紙を見て）こけしは女子校に入学早々、
　　　　　一人の男性教諭を好きになりました』
西島　　　おい、何やってる…今ホームルーム中だぞ！？
女生徒Ｂ　『こけしにとって初めての恋でした』
女生徒Ｃ　『しかし女子生徒が男性教師と付き合うことなんて許されません』
女生徒Ｄ　『決して実ることのない禁断の恋だったのです』
西島　　　こけしってまさか 葉山梨花のことか…？
女生徒Ｅ　『それでもこけしは自分の気持ちを言葉にして、
　　　　　先生に伝え続けました』
雫　　　　『「先生、好き…」』
西島　　　……
雫　　　　先生？ どうしたのですか？　あなたのセリフですよ？
西島　　　中峰雫っ！？　これはお前たち演劇部の仕業か！？
雫　　　　（周りの生徒に）続けて
女生徒Ａ　『先生がこけしの気持ちに応えることはありませんでした』
西島　　　ふざけるなよ
女生徒Ｂ　『だが！』
西島　　　こんなことして演劇部が廃部になっても良いのか！？
女生徒Ｃ　『けれど！』
西島　　　やめろ
女生徒Ｄ　『しかし！』
西島　　　やめろ！
雫　　　　『こけしが３年生になった春のことでした』
西島　　　やめろー！！
女生徒Ｅ　『こけしを５階の理科室に呼び出して、先生は こう言いました』
西島　　　……
雫　　　　先生。またセリフをお忘れですか？
西島　　　おれは…忘れてなんかいない…
雫　　　　舞台の上でセリフが飛ぶなんて最悪ですね。
　　　　　しょうがないから私が代読（だいどく）します
西島　　　代読だと……おれが言ったことまでどうしてお前が/
雫　　　　『「僕も君のことが好きだ」』
女生徒Ａ〜Ｅ『「好きだ！」』
西島　　　……
女生徒Ａ　『先生はこけしを抱きしめました』
女生徒Ｂ　『するとこけしの目から透明の涙がこぼれ落ちました』
西島　　　……
女生徒Ｃ　『それから二人は逢瀬（おうせ）を重ねました』
女生徒Ｄ　『やがて唇を重ね』
女生徒Ｅ　『何度も体を重ね』
女生徒Ａ　『愛を確かめ合いました』
女生徒Ｂ　『こうして大きな』
女生徒Ｃ　『丸い』
女生徒Ｄ　『甘い』
女生徒Ｅ　『柔らかい』
女生徒Ａ　『瑞々（みずみず）しい』
女生徒Ｂ　『禁断の果実が実ったのです』
西島　　　……
女生徒Ｃ　『それなのに』
女生徒Ｄ　『それなのに！』
女生徒Ｅ　『それなのに！！』
雫　　　　『パンッ！（果実の破裂音）』

◯生唾を飲み込む西島

女生徒Ａ　『先生には婚約者がいたのです』
西島　　　（絶句）そんなことまで…
女生徒Ｂ　『秘密を知ってしまったこけしは』
女生徒Ｃ　『先生を理科室に呼び出して こう言いました』
女生徒Ｄ　『「先生、別れよう」』
女生徒Ｅ　『だけど先生は首を横にふり こう言いました』
西島　　　……
雫　　　　（ため息）いい加減にしてくださいよ
　　　　　なんで自分が言ったセリフを覚えてないんですか？
西島　　　だから！ おれは何ひとつ/
雫　　　　セリフが違う！
西島　　　！？　お前…（憎しみ）
雫　　　　あ？ 先生…（西島の耳元で囁くように）発情しちゃった？
西島　　　中峰ー！！！！！

◯中峰の胸ぐらをつかむ西島

西島　　　良いか、お前ら。こんなことが許されると思うなよ。
　　　　　お前たち全員の親を呼びだしてな
　　　　　二度と学校に来れなくしてやるからな！
　　　　　覚悟しとけよ
雫　　　　ふっ…

◯制服を脱ぎ始める雫

西島　　　なっ、お、お前、どういうつもりだよ…
女生徒Ａ　（西島に）好きなんでしょ？
西島　　　は？
女生徒Ｂ　女子高生の体が
西島　　　ふざけんなよ。おれは教師だぞ
女生徒Ｃ　教師があんな写真撮っていいんだー
西島　　　…何？
女生徒Ｄ　忘れたの？
女生徒Ｅ　みーんな忘れちゃったの？
西島　　　何がだ…
雫　　　　（裸の姿で）思い出せないようなので
　　　　　私が代わりに言って あ・げ・る
西島　　　……
雫　　　　『「別れるのなら、お前の写真をばらまくぞ』」
西島　　　違う…あ、あれは/

◯パンッ！と手を叩く雫
◯原稿用紙を手にした女生徒全員が、西島の周りを一糸乱れず行進する

女生徒Ａ　『その写真は理科の実験室で撮られたものでした』
西島　　　やめろ…
女生徒Ｂ　『その写真には裸の少女が写っていました』
女生徒Ｃ　『みずみずしい肌に、膨らみはじめた甘い乳房（ちぶさ）。
　　　　　おかっぱ頭の処女の裸体（らたい）』
西島　　　もう やめてくれ…
女生徒Ｄ　『先生と呼ばれた悪魔の皮をかぶった男は』
女生徒Ｅ　『無垢で純粋な少女を』
雫　　　　『己（おのれ）の欲望のまま 汚（けが）したのです』
西島　　　やめろって言ったんだろー！！

◯西島、雫の頬を平手打ちする

雫　　　　…やめませんよ。復讐の幕が下りるまでは…

◯ニヤリと笑う雫
◯黒板を見て青ざめる西島

西島　　　『チェリードール』…これは……
　　　　　葉山梨花と俺の物語なのか

◯雫を中心とした女生徒全員が、西島を丸く取り囲む

女生徒Ａ　『少女は男を理科室に呼びだして こう言いました』

◯西島、タバコと百円ライターを取り出す

西島　　　黙れ…
女生徒Ｂ　『「別れてくれないなら先生の婚約者に全て話します」』
西島　　　（タバコに火がつかない）黙れよ…
女生徒Ｃ　『激昂（げきこう）した男は少女につかみかかり』
女生徒Ｄ　『少女は逃げようと必死に抵抗して』
女生徒Ｅ　『そのまま揉み合いになって』
西島　　　くそっ、火が…
雫　　　　…あっ、先生。
　　　　　観劇中の喫煙は ご遠慮願えませんか？
西島　　　黙れって言ってんだよ！

◯西島、百円ライターを壁に投げつける
◯その衝撃でライターが爆発する
◯飛び散った破片が 数名の女生徒の体にかする
◯血を流す者もいるが、誰一人として表情を変えない…

西島　　　狂ってる…
雫　　　　ドーン！

◯教卓を倒す雫

西島　　　……
女生徒Ａ　『男は少女を窓から突き落としたのです』

◯女生徒全員が窓際の後ろの席を見る
◯西島もつられて席を見る
◯机の上に、おかっぱ頭の少女が描かれた木彫りのこけし
◯こけしに描かれた少女が一瞬まばたきする

西島　　　（後ろに跳ね上がって）ひぃ！
　　　　　な、なんだ、そのこけしは…？
　　　　　誰だっ！？　葉山の机にこけしなんて置いたのは！？
女生徒Ｂ　こけし？　何言っているんですか ただの花瓶ですよ？
西島　　　は、花なんてどこにも/
雫　　　　ねぇ、先生？
　　　　　どうして少女は殺されなきゃいけなかったのですか？
西島　　　…違う
雫　　　　どうして少女は自殺したことになったのですか？
　　　　　どうしてそんな おとぎ話になってしまったのですか？
西島　　　違う！ 俺じゃない。おれは殺してなんかいない！
　　　　　頼む。信じてくれ…
雫　　　　（殺意）お前が。葉山梨花の人生の幕を下ろしたんだろ
西島　　　（絶叫）わぁー！！！

◯半狂乱で廊下に飛びだす西島
◯廊下には木彫りのこけしが一列に並んで置かれている
◯全てのこけしの頭から赤い液体がたれる

西島　　　（口をおさえて）ゔっ！

◯後ずさりで教室に戻ってくる西島

雫　　　　（拍手）
女生徒Ａ〜Ｅ（拍手）

◯女生徒全員が拍手で西島を迎え入れる
◯後ずさりする西島は そのまま開いた窓から地面に落ちる…
◯ドサッ！
◯一斉に拍手が鳴り止む…
◯制服を着る雫

雫　　　　梨花…これで良かったんだよね
女生徒Ｂ　雫！？ これ見て！
雫　　　　…何？
女生徒Ｂ　先生が廊下に落とした財布なんだけど
　　　　　写真が入っていて…
雫　　　　婚約者の？
女生徒Ｂ　ううん。梨花と先生が一緒に写っているやつ
雫　　　　え…？
女生徒Ｃ　ねぇ写真の日付！
雫　　　　うそ…
女生徒Ｃ　この日って 梨花が窓から突き落とされた前日だよね？
女生徒Ｄ　うん、間違いないよ
女生徒Ｅ　梨花 幸せそう…
女生徒Ｃ　こんな二人の笑顔…
　　　　　梨花…先生のこと本当に好きだったんだね
女生徒Ｄ　たぶん…先生も…
女生徒Ｅ　二人はずっと愛し合っていた。とか…？
雫　　　　そんな…
女生徒Ｂ　…雫。梨花は本当に 先生に殺されたの？
雫　　　　え…？
女生徒Ｂ　この台本は 雫が書いたんだよね？
雫　　　　あ…
女生徒Ｂ　同じ演劇部で親友の梨花からずっと相談を受けていた…
　　　　　雫が書いた物語なんだよね！？
雫　　　　…ちがう
女生徒Ｂ　…え？
雫　　　　書いたのは私じゃない

◯窓から教室にむかって風がふく
◯舞い上がる何枚もの原稿用紙に隠れて ニヤリと笑う女生徒Ｘ

（終）