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【台本】「深夜3時のBAR TIME」(男1女1)

〈時間〉20分.

お酒がないBARを舞台に繰り広げられる
酔っぱらい女性客と変態バーテンの二人芝居です!

〈登場人物〉
♂男    男(30代)…BARのマスター。紳士という名の変態
♀エリ   新海エリ(20代後半)...OL。酔っぱらい客

※商用利用時は、ご連絡お願いします。
※台本の無断改変・無断転載などはご遠慮ください。

〈本文〉
―――BARの店内
◯『ピィー!』と、どこからか笛の音が鳴り響く
◯入り口の重く古びた扉が開く…

男    いらっしゃいませ
エリ   (酔っぱらって)うぃ〜、まだやってるぅ? マスター
男    さきほど開店したところです
エリ   え? 今、3時だよ!? このBAR深夜3時開店なの!?
     そんなんじゃ、お客さん来ないでしょう〜
男    いいえ。ちゃんと(あなたが)来ましたよ
エリ   (笑って)あはは。来ちゃったー!
男    ご来店、ありがとうございます

エリ(N)武蔵野市吉祥寺9丁目の路地裏に、深夜3時から開店する
     BARがありました。このBARにはお酒も料理も置いていない。
     売っているのは、ちょっと変わった商品でした。
     まさかそれが、あなたの物だったなんて…
     この時の私、深海エリはそれを知るすべもなく
     ただただちょっとだけ、ほろ酔い気分だったのです/

男    うわ。ベロンベロンだ
エリ   ぐへ〜〜〜。酒だ、酒だ、酒をのませろ
男    ずいぶんと飲まれたようですね
エリ   ううん、全然たりなーい! もっともっと飲みたいのに、
     さっきまでいたお店 追い出されちゃった
男    そうですか
エリ   だって、頼んだ赤ワインがなかなか来ないから。
     カウンターにあった赤ワインのボトル勝手に開けて
     ラッパ飲みしたの
男    よくある話ですね
エリ   そしたらさ、さすがにキツくて〜。
     口に入れたワイン全部だしちゃったのよね。
     隣に座っていたお客さんの頭の上に
男    …よくある話ですね
エリ   それで、二度と来るなって追い出されちゃったの。お客さんに
男    お客さんに!? 店主じゃなくて? よくある話ですね
エリ   そう! よくある話なのに。
     どうして私がこんな目にあわなきゃいけないわけー?
男    (小声で)迷惑な客だな
エリ   そうなの! 迷惑な客だったの!
     だいたい白いワイシャツが赤に染まったぐらいであんな怒る?
     オシャレじゃん! むしろ感謝されても良いくらい。
     そう思わない?
男    そう…思います
エリ   でしょー! 良かった、話の分かるマスターで
男    (乾いた笑い)はい〜
エリ   今日は どうしても飲みたいの。嫌なことを思い出しちゃうから
男    嫌なことと言うのは?
エリ   えーっと…
男    これは失礼致しました。
     初対面のお客様に 無神経なことを聞いてしまって
エリ   ううん。こんな夜は誰かに話したくなるから。それに
男    それに?
エリ   マスターとは初対面な気がしないの
男    そうですか? それでは是非、私に話してみてください
エリ   え、聞いてくれるの?
男    喜んで

◯店内にBGMが流れる(適当なタイミングでF・O)

エリ   20年前の今日ね。私は父と山に魚釣りに行ったんだけど、
     足を滑らして川に落ちてしまったの。私泳げなくて溺れちゃって。
     そしたら父は…
男    …お父様は?
エリ   私を見殺しにした
男    ……
エリ   近所の中学生が助けに来てくれなかったら、私は死んでた
男    ……
エリ   なーんて、なんてね。もう昔の話さー。よくある話でしょ?
男    いえ。そんなことは…
エリ   じゃあ そういうことで、ワインちょうだい。赤ね
男    ありません
エリ   えっ!?
男    ありません
エリ   じゃあ そういうことで、ワインちょうだい。白ね
男    え? 赤じゃないんですか?
エリ   そうよー! でもないんでしょ? 早く白いワインを持って来て、
     グラスで良いから
男    ありません
エリ   は? ワイン無いの? もうビールで良いわ
男    ありません
エリ   ええ? 何だったらあるの? ウィスキー? 焼酎? カクテル?
     モッコリ!?
男    モッコリー!?
エリ   …マッコリよ
男    マッコリをモッコリと呼んだのは、あなたで三人目です
エリ   そんなんいいから! なんでも良いから酒もってこーい!
男    ありません。ウチはお酒を置いていないので
エリ   どういうこと? ここBARよね。
     お酒を売らないで、一体何を売っているって言うの?
男    思い出です
エリ   …思い出?
男    以前は美味しいワインやカクテルを
     お客様に飲んでいただきました。
     けれど店は全く繁盛せず、父でもある先代のマスターは
     無理がたたってこの世を去りました。
     それから私は酒も料理もやめて
     このシステムを始めることにしたのです!
エリ   それが…思い出?
男    (重々しく)はい
エリ   ……
男    それでは、どうぞ。こちらのチャーハンをご覧ください
エリ   チャーハン!? あるじゃない、料理
男    よーく ご覧ください。食品サンプルです!
     その名も、えちえちチャーハン!
エリ   んん、なにこれ!? よく見ると、おっぱいじゃん!
男    はい。
     お椀型に盛られた二つのチャーハンの隙間に大きなソーセージ。
     ソーセージの端にはそれぞれ、刻み海苔と マヨネーズ
エリ   やばぁ
男    そしてチャーハンの頂上(てっぺん)には
エリ   頂上(てっぺん)言うな
男    小さくてまん丸い乳首(チクビィ)!
エリ   乳首ィ言ってるじゃん! このピンクは明太子じゃないの?
     ちゃんと濁して言いなよ。仮にも客商売なんだから
男    いかがですか?
エリ   あなたさ、こんなモノ作って何が楽しいの?
男    (動揺)わ、私のじゃありません!
エリ   じゃあ誰の?
男    それは、こちらの商品を購入した方にしか言えませんね
エリ   いらないわよ、こんな食べもできないエッロいチャーハン
男    えちえちチャーハンです。六本木に行けば食べれますよ
エリ   だから いらないって。え、実在するの!?
男    気になりますか〜?
エリ   は?
男    こちらの商品にどんな思い出がつまっているのか
エリ   この食品サンプルのチャーハンを買ったら、
     その思い出とやらが聞けるって言うの?
男    はい。それがウチのBARのシステムです
エリ   んー、いくら?
男    二千円です
エリ   原価? 材料費かしら? まぁ良いわ。
     ちょっと面白そうだし ちょうだい!
男    かしこまりました」

◯指を『パチンッ!』と鳴らす男
◯店内にBGMが流れる(適当なタイミングでF・O)

男    こちらのチャーハンの食品サンプルの持ち主。名前は、橘雅人。
     彼がこのチャーハンと出会ったのは、
     大学生の時に所属していたサークルの飲み会の時でした
エリ   ほぉ
男    彼は同じサークルの一個上の先輩に恋をしていました。
     しかし、この飲み会の最中に知ってしまったのです。
     先輩には さらに二個上の 金髪ロン毛の彼氏がいたのです
エリ   あら〜
男    彼は荒れました。荒れ狂いました。どれだけ荒れたかって言うと
     居酒屋の壁に貼ってあったおすすめメニュー。
     口にだすのも恥ずかしいネーミングを声を大にして叫ぶほどです
エリ   えちえちチャーハンでしょ。あんた 何度も言ってるよ
男    えちえちチャーハン5つください!
エリ   5つ!? 唐揚げでもそんなに頼まないよ!
男    きっと彼は失恋のショックを癒したかったのでしょう
エリ   チャーハンでどうやって?
男    そしてテーブルに運ばれてきました。
     サークルのメンバー総勢5人がいるテーブル席に!
エリ   え? たった5人!? ってことは一人一皿このチャーハン!?
男    彼はまさにハーレムだと思いました
エリ   こんなモノに癒されたのだとしたら、病気よ
男    お椀型に盛られた二つのチャーハンの隙間に
     大きなソーセージ。
     ソーセージの端にはそれぞれ、刻み海苔と マヨネーズ
エリ   さっきも聞いたな
男    そしてチャーハンの頂上(てっぺん)には/
エリ   はいはい、小さくてまん丸い
男    魚肉ソーセージ!
エリ   明太子はどこいったの!?
男    さぁ。どちらでも良いでしょそんなことは。
     そして彼は、
     愛用のガラケーでチャーハンの写真を撮りまくりました
エリ   他のサークルのメンバーはどんな顔して見ているのよ
男    もうその時には、彼一人でした
エリ   みんな帰ったのね。辛すぎでしょ
男    彼はそのまま泣きながら、ひたすら割り箸の先っちょで、
     魚肉ソーセージを気が済むまでツンツンつついた後…
エリ   きっしょ
男    5人前のチャーハンを一人で平らげました! そうっ!
エリ   うっわ……(ドン引き)
男    (息切れ)いかがでしたか?
エリ   酔いがさめたし、食欲も失せたわよ
男    ボン、キュッ、ボーン!

◯食品サンプルをゴミ箱に捨てる男

エリ   えー!? 捨てた!? それゴミ箱よね!? 良いの!?
     橘雅人って人の大事な思い出なんじゃ。
     てか、食べ物を粗末にしちゃダメじゃ無い!?
男    良いんです。こちらは食品サンプルなので。
     そもそも彼はあの日の失恋を教訓にするべく、
     サンプルというフィギュアに形を変えて
     部屋に飾っていただけなので
エリ   とことん気持ち悪い男ね。橘ってやつ
男    ふっ。つくづく人の思い出なんてゴミばかりだ!
エリ   それを言っちゃ、元も子もないような。
     もう普通にお酒や料理を売れば/
男    それではこちらの商品はいかがでしょうか?
エリ   なにその白い棒…綿棒じゃないね。
     先っぽの穴に、歯形みたいなのがくっきり見えるけど
男    これはチュッパチョプスの棒です!
エリ   チュッパチョプスって、あの有名な棒つきキャンディ?
     でも おかしいわね。そんな名前だっけ
男    当店自慢の おすすめ商品ですよ。
     こちらのチュッパチョプスの棒は
エリ   いくら?
男    一万円です
エリ   一万円? まぁ良いわ
男    (驚いて)良いの?
エリ   ここまできたらまともな思い出聞いてみたいし。
     それに私 これでも広告会社で働いてるから
     給料だけは良いのよね
男    ありがとうございます。では

◯指を『パチンッ!』と鳴らす男
◯店内にBGMが流れる(適当なタイミングでF・O)

男    こちらのチュッパチョプスの棒の持ち主。
     名前は……橘雅人
エリ   また橘!?
男    はい。彼は大学を卒業後 社会人になり、来る日も来る日も
     汗水たらして外回り営業をしていました
エリ   そう。立派なサラリーマンになって安心したわ
男    そんなある日。セミの鳴き声が響き渡る炎天下の下で
     彼の喉は渇きに渇いていた。
     けれど周りを見渡しても自動販売機どころか
     公園の蛇口すら見当たらない。そんな彼の目に映ったのは、
     まさに砂漠に突如現れたオアシス。そう、コンビニの看板でした
エリ   いちいち表現が大袈裟なのよね
男    彼は走った。コンビニに向かって走った。全力で!
     途中ですれ違った チュッパチョプスのイラストが描かれた
     Tシャツを来た巨乳の女性にも、目もくれずに走った!
エリ   んん?
男    その巨乳が身につけていたチュッパチョプスのイラストが、
     二つの谷の間で揺れていたのを一ミリも見ようともせずに
     橘雅人は走った!
エリ   しっかり見てるじゃん!
男    そして彼はコンビニに駆け込んで買ったのです! そう。
     この棒つきキャンディ・チュッパチョプスを!
エリ   水じゃないの!? 飴って、余計のど渇きそうだけど!
男    そして むしゃぶるように舐め尽くしました
エリ   もしかしてこの歯形、巨乳を想像しながら噛んだんじゃ
男    彼は言いました。
     水では満たされないオアシスが そこにはあったと
エリ   ねぇ。その人。橘雅人は、一体今どこで何しているの?
     絶対に変態でセクハラで どこかに捕まっているんでしょ?
男    それはですね(笑いだす)
エリ   なに?
男    (笑って)モッコリって
エリ   はぁー! だから、それを言うならマッコリでしょ!
男    これは失礼いたしました。レディに向かって、むふっ
エリ   ったく…ふふっ。でも、なんか楽しいかも。
     くっだらない思い出しかないのに。
     お酒以外で こんな楽しい気分になったのは久しぶり。
     ぜんぶ下ネタだけど
男    ありがとうございます。
     『BARの一番の魅力はお酒や料理じゃない』っていうのが
     父の口癖でしたから
エリ   素敵なお父さんね
男    はい
エリ   良いなぁー。私の父なんて…
男    大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが
エリ   だめだな。早く忘れたいのに、あの日のこと
男    あの日、ですか…?
エリ   ねぇ、他にはないの? 思い出! 
     タチバナ マサト以外の思い出!!
男    ありますよ、こちらに
エリ   (驚愕)!? それは…
男    いかがなされましたか?
エリ   どうして…どうしてそれを あなたが持っているのよ!?
男    それは企業秘密です
エリ   だって、その笛は/
男    こちらの笛が? 何か?
エリ   …さようなら

◯扉に向かうエリの足音
◯『ピィー!』と笛をふく男
◯立ち止まるエリ、そして足音が止まる…

男    あなた この笛の音を聞いて
     このBARに来たのではありませんか?
エリ   違う
男    本当は、この笛にまつわる思い出話が聞きたくて
     ウズウズしているのではありませんか?」
エリ   違う!
男    ……
エリ   その人の思い出は、いらない
男    そうですか
エリ   あなたは知ってるんだよね? その人が誰か?
     どんなことをしたのか
男    はい。よーく知っております
エリ   じゃあなんで? その笛の思い出を聞いて私が喜ぶと思うの?
男    それは分かりません。
     ただ、よくも悪くもあなたよりは真実を知っているかと
エリ   はー? その笛の持ち主は私の父。私を見殺しにした人!
     それが真実なの!
男    ……(ふーん)
エリ   しかも見殺しにした挙げ句、私と母を見捨てて失踪した。
     お母さんは女手一つで私を育てるため、働いて働いて働いて。
     アイツが失踪した翌年 疲れ果てたお母さんは
     横断歩道を赤信号で渡ってトラックに跳ねられた…
男    ……
エリ   それから私は 誰も自分を知らない場所で
     一人ぼっちで生きて来たの…
男    ……
エリ   そんな最低な思い出しかないその笛に、
     一体何があるっていうの!?
男    130円
エリ   はぁ!?
男    あの日何が起こったのか。
     知りたいのなら こちらの笛を買って下さい。
     お値段は130円と、お手ごろ価格です
エリ   そんなやっすい思い出なんだ…バカにしてるの?
男    持ち主の方による希望価格です。
     それに値段が高い物だからといって
     必ずしもお金に見合った価値があるとは限りません。
     逆もしかりです
エリ   130…
男    はい。130円です
エリ   払うわ

◯コイン(小銭)がカウンターの上で跳ねる

男    ありがとうございます。
     こちらの笛の持ち主。名前は深海透。
     深海エリ、あなたのお父様です。
     深海透さんは小学生の娘からもらったこの笛を
     いつもお守り代わりに持ち歩いていました
エリ   ……
男    よっぽど、あなたからもらえたのが嬉しかったのでしょう。
     彼は、娘も奥様も心の底から愛していた/
エリ   噓よ! どうしてそんなデタラメな話をするの?
     アイツは私もお母さんも見捨ててどっか行っちゃったのよ!
     愛してるわけないじゃない!
男    (語気を強めて)あなたのお父様は失踪したんじゃありません!
エリ   どういうこと?
男    お父様は川で溺れて、この世を去ったのです
エリ   っ!?(絶句)

◯指を『パチンッ!』と鳴らす男
◯店内にBGMが流れる(適当なタイミングでF・O)

男    あなたとお父様が山に魚釣りに行った日
     あなたは川に落ちて流されてしまった。
     その時 慌てたお父様は川に飛び込んであなたを助けようとした。
     だけど、あなたのお父様はカナヅチでした。
     あなたが泳げないのは、お父様ゆずり。そうですよね?
エリ   はい…
男    それでも あなたを助けたい一心で、
     あなたを追って川に飛び込んだ!

◯川に飛び込む音

男    お父様は溺れながらも、ポケットから笛を取り出した。
     そして助けを呼ぶため 手足をバタバタさせながら
     必死に笛を吹き続けた。
     その笛の音に気付いた近所の中学生が
     あなたが溺れているのを見つけて助けに来た。
     しかし中学生が見たのはあなただけだった。
     きっとあなたのお父様は中学生が来るのが見えて
     安心して力尽きたのでしょう
エリ   何それ、そんなの絶対噓よ!
     お母さんは あの人はどっか遠くに行ったって/
男    (遮って)そういうことにしたのでしょう。あなただけには!
エリ   ……
男    あなたの命を助けようとしてお父様が命を落としたなんて、
     まだ幼いあなたには言えなかった。
     いずれあなたにも本当のことを話すつもりだったと思います。
     けれど、お母様は…
エリ   そんな…
男    この笛は、あなたの命を救った笛です。まさにお守りです。
     たとえ値段が安くても
     お金では絶対に買えない想いが詰まっているのです!
エリ   この笛を、お父さんが…
男    はい。だから、決してやっすい思い出だなんてことは
エリ   ……あの
男    はい
エリ   笛…吹いてみても良いですか?
男    どうぞ。その笛はもう、購入したあなたの物です
エリ   思いっきり。吹いてみても良いですか?
男    ええ。あなただけのBAR TIMEですから

◯「ピィー!」「ピィー!」と、エリが吹く笛の音が鳴り響く

エリ   お父さん…(涙)
男    あっ。ハンカチ、ハンカチ。
     (匂いをかいで)ちょっとくさいけど、まっ、いっか。
     (イケメン風に)これ、使えよ
エリ   誕生日…
男    はい?
エリ   私の誕生日なの。1月30日は…
男    あ、1月30日で130円。あなたの誕生日は 今日でしたか。
     それはそれは、お誕生日おめでとうございます
エリ   良かった。私は ひとりぼっちじゃなかった
男    喜んでいただき なによりです
エリ   マスター、ありがとうございました
男    いえいえ。
     まぁ店としてはたいした売り上げにはなりませんが/
エリ   んあ!?!?!?
男    んあ?
エリ   どっかで見た顔だと思ってたんだよな。
     川で溺れた私を助けてくれた中学生って、あなたよね?
男    違います
エリ   ええ?
男    他人の空似です
エリ   そんなことない。あなたの名前だって覚えてる。
     ていうか、思い出した
男    やめて下さい
エリ   あなたの/
男    (焦って)やめて、本当にやめて
エリ   名前は/
男    まじで? お願い!
     あっ、そこでワイン買って来るから!/
エリ   タチバナ マサトー!
男    あぁ〜〜〜(くずれ落ちる)
エリ   まさか命の恩人が、変態だったなんて
男    変態って言わないで。これでも紳士を目指しているので
エリ   いや、無理があるって
男とエリ (笑う)
エリ   あの時は命を救ってくれて、本当にありがとうございました
男    いえいえ、あなたの命を救ったのはそちらの笛であって
     あなたのお父様です
エリ   はい。そして、あなた
男    (嬉しそうに)はい
エリ   でもどうして 私がお父さんにあげた笛をあなたが持っていたの?
     しかも希望価格って どういうこと?
男    当店で扱っている商品は
     全て亡くなった方から買い取った物なのです。
     本当は企業秘密ですけど
エリ   は? それって死んだ人から物を買ってるってこと?
男    (重々しく)はい

◯沈黙

エリ   まっ、またまた〜。そんな訳ないじゃん!
     だったらさ、あなたも死んでるってことになるのよ!
男    1千万です!
エリ   1千万!?
男    はい。それが知りたいのなら このBARを買って下さい。
     私とこの店の思い出を
エリ   ……良いわ!
男    うそー?
エリ   カードで良い?
男    いやいやー。ここを売ってしまったら私には行く所がありません。
     それにこのBARには とてつもなく大きな秘密が/
エリ   大丈夫よ
男    な、何が?
エリ   私がこのBARを守るから
男    はい?
エリ   この店も あなたとあなたのお父さんとの思い出も、
     私が守ってみせる。
     私とお父さんとの思い出を大切に守ってくれたみたいに。
     絶対にあなたのことを忘れない。だから話して。
     あなたと このBARの思い出
男    本気ですか?
エリ   明日からこのBARのマスターは、わ・た・し」
男    (笑う)かしこまりました

◯指を『パチンッ!』と鳴らす男
◯店内にBGMが流れる(適当なタイミングでF・O)

エリ(N)まさか私がBARのマスターになるなんて。
     人生何が起こるか分かりませんね。
     それでも今は、最高の気分です!
     だから私が生きているのか。それとも死んでいるのか とか。
     そんな野望なことは聞かないでよね。それはまた別の物語で。
     (楽しそうに)この話は高くつくわよ〜

◯扉が開き、ベルがカランコロンと鳴る

エリ   あっ、いらっしゃいませー!

(了)


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