【台本】「娘さんを僕にください　キラキラネーム 編」（男２女２）

〈時間〉１５分.

コントの定番「娘さんをください」です。
彼氏は娘と出会った日に、結婚指輪を買わされた。
そして結婚の報告に娘の実家にきたが、そこは住宅展示場のモデルルームだった。
やがて娘も両親も詐欺師だと発覚するが、彼氏にも何か魂胆がありそうで…。
騙し騙されのドタバタコメディ開幕！

〈登場人物〉
♂父　　　　父（60代）…サギ師。無骨（ぶこつ）な人柄
♀母　　　　母（50代）...サギ師。詐欺グループの親玉
♀娘　　　　花子（20代）…サギ師。おバカだが憎めない
♂彼氏　　　高橋（30代）...営業マン。のん気なお人よし

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〈本文〉
―――実家のリビング
◯娘とその彼氏が並んで座っている
◯そしてテーブルをはさんだ先に、娘の父と母が座る
◯父は腕を組み、彼氏は大量の汗をかき、ものすごい緊張感である…

彼氏　　　お父さん。どうか、娘さんを僕にください！
父　　　　どこの馬の骨か分からない男に、大事な娘をやれるか
彼氏　　　そこをなんとか、お願いします！
娘　　　　お父さん、私からもお願い。
　　　　　彼となら幸せな家庭を築ける自信があるの！
彼氏　　　（嬉しい）花子さん
母　　　　こんな誠実そうな人、他にいないわよ
娘　　　　困っている人をほっておけない優しすぎる人なの
父　　　　だから。それが気に食わないんだよ
母　　　　何が気に入らないって言うのよ
父　　　　よく見てみろ。目元に泣きぼくろがあるだろ
彼氏　　　え、ほくろ？
母　　　　そう言われてみると、確かに裏がありそうな顔してるわね
彼氏　　　あ、じゃあ外します。ほくろ
父　　　　なに、付けぼくろだったのか！？
母　　　　ますます怪しいわね
彼氏　　　そんな。僕はしがない営業マンですよ
娘　　　　そうだよ、パパ。ばかがつくほど、お人よしなの
父　　　　だろうな
母　　　　まぁ、良いんじゃない
父　　　　（ため息）この娘が選んだ相手だと心配ではあるが、わかった。
　　　　　お前たちの結婚を認めてやる
彼氏　　　良かった〜
娘　　　　お父さん、お母さん。ありがとう！　これ、見て

◯テーブルにダイヤの指輪を置く娘

母　　　　まぁ。大きなダイヤモンド！
父　　　　いくらしたんだ、その指輪？
娘　　　　定価は200万
父　　　　200万！？
母　　　　でかしたわ、さすが私の娘。血はつながってないけど
彼氏　　　え、そうなんですか？
父　　　　こら、余計なこと言うんじゃない。
　　　　　私だって血はつながっていないんだから
彼氏　　　なんと。何か事情があるんですね…
母　　　　万引き家族みたいなものよ
彼氏　　　予想をはるかに超えてきたな
娘　　　　もう、パパもママもぶっちゃけすぎ。
　　　　　ここに来る前に、彼にもらったの。結婚指輪
彼氏　　　花子さんのこと一生幸せにします！
父　　　　…本当に、この娘と結婚して良いんだな？
彼氏　　　え？
娘　　　　何言っているの、このオヤジは
彼氏　　　オヤジ？
娘　　　　えーと、。あ、そうだ。
　　　　　彼となら幸せな家庭を築ける自信があるの〜
母　　　　さっきと同じセリフ言ってるわよ
娘　　　　や、やべ
彼氏　　　やべ？　今、やべって言った？
娘　　　　幸せの幻聴だよ〜
彼氏　　　幸せの幻聴？　それは本当に幸せですか？
母　　　　なかなか、するどいわね
彼氏　　　え？
娘　　　　ほら、早く。その指輪を私にはめて
彼氏　　　う、うん！　似合うと良いなー

◯彼氏、娘の薬指に指輪をはめる

娘　　　　うわー、ぴったり。ダイヤモンドがキラキラ光って、まぶしい
彼氏　　　君の笑顔の方が、まぶしいよ。な、なんちゃって
娘　　　　もう〜。えーと、あのー…なになにったら
彼氏　　　ん、僕の名前覚えてないの？
娘　　　　安田さん
彼氏　　　高橋です
母　　　　名前なんてどうだって良いじゃない！
父　　　　この場でそんなことある？
母　　　　今日からここが、あなたたちの家よ
彼氏　　　こんな立派な新築一戸建てで新婚生活が送れるなんて。
　　　　　僕は世界一の幸せ者だ
娘　　　　うんうん。ほら、早く！　お父さん、あれだして
父　　　　ああ…
彼氏　　　あれって？
父　　　　どうも気がのらんな
母　　　　良いから、よこしな
父　　　　おい。やっぱり結婚はまだ早いんじゃないのか
母　　　　この期に及んで何言ってんのさ。
　　　　　（彼氏に）ほれ、ここに印鑑を押せ！

◯母、テーブルに契約書を置く

彼氏　　　あ、婚姻届ですね
父　　　　ばか、ちがう。よく見てみろ
彼氏　　　不動産売買契約書…契約書！？
　　　　　え、この家、僕が買うんですか！？
母　　　　そうよ
彼氏　　　こんな大金。僕には
娘　　　　闇金から借金して！
彼氏　　　闇金に借金！？　これも幸せの幻聴かな…
娘　　　　私、どうしてもこの家がほしいの
母　　　　立地も良いし、新婚にはピッタリなおウチよね
彼氏　　　でも…
娘　　　　借金は二人でコツコツ返していけばイイでしょ。
　　　　　ねっ、お願い。お礼は今晩タンスのなかでたくさんするから
彼氏　　　ん？
母　　　　もう花子ったら。タンスじゃなくてベッドでしょ
娘　　　　や、やべ
彼氏　　　やべ？　今、やべって言った
娘　　　　幸せの幻聴だよ〜
彼氏　　　さすがに耳鼻科に行った方が良い気がする
娘　　　　ベッドの中で、いっぱーいマッサージしてあげる。あ・な・た
彼氏　　　ははは、花子さん！？　ご両親の前で、もうしょうがないな〜
　　　　　安心して。言われた通り印鑑はもってきてるから

◯印鑑を取りだす彼氏
◯ニヤリと笑みをうかべる母と娘

父　　　　もうやめないか！
彼氏　　　え？
娘　　　　パパ？
母　　　　ちょっと、どういうつもり？
父　　　　（娘を見て）こいつとは、どこで会ったんだ？
彼氏　　　今朝、駅前の商店街でバッタリ。目が合って
父　　　　おかしいだろ。
　　　　　さっき会った奴と、その日のうちに結婚するなんて
彼氏　　　運命かと
娘　　　　デスティニー（運命）
父　　　　アンケート頼まれただろ？
彼氏　　　はい。突然『助けてください』って声かけられて
娘　　　　ヘルプミー（助けて）
父　　　　紙に名前と電話番号を書いたな？
彼氏　　　はい。でも住所はいいって
父　　　　『どんな言葉でプロポーズしたいですか？』とか
　　　　　そんな結婚に関する項目がいくつもあっただろ
彼氏　　　ていうか、そればかり
父　　　　アンケートに協力している最中、ずっとコイツに話しかけられたな
彼氏　　　よく喋る明るい子だなと思って。え、なんでそこまで
父　　　　デート商法だから、それ。詐欺だから！
彼氏　　　詐欺！？
父　　　　俺たちは詐欺グループだ
彼氏　　　あ、え、万引き家族って、そういうこと？
母　　　　あーあ。言っちゃったよ
彼氏　　　まさか花子さんが詐欺師だったなんて
娘　　　　大丈夫、まだ挽回できる。もうお父さん、どうしたの？
母　　　　え、正気？
父　　　　幸せの幻聴が聞こえたのか？
彼氏　　　呪いのビデオみたいな言い方
娘　　　　彼となら幸せな家庭を築ける自信があるの
彼氏　　　リピート再生されてる
父　　　　念のため、もう一度言うぞ。俺たちは詐欺グループだ/
娘　　　　パパ！　冗談やめてよ！
父　　　　お父さんって、呼ぶのか。
　　　　　パパって、呼ぶのか。どっちかにしろ！？
娘　　　　へ？
父　　　　キャラを統一しろって言ってんの。ブレブレなんだよ！
　　　　　しかも一回、オヤジとも言ったな
娘　　　　そうだっけ？
彼氏　　　言ったよ
父　　　　だいたい花子って名前は、なんだ。もっとマシな偽名つけろよな！
彼氏　　　え、山田花子じゃないの！？
母　　　　本名はエクレアって言うのよ
彼氏　　　うわ、本名の方が偽名っぽい
娘　　　　まぶしい？
彼氏　　　ダイヤモンドよりキラキラしてる
父　　　　だいたい君も君だぞ。こんな三流詐欺師の口車に引っかかりおって
　　　　　指輪を買わされた挙句、家まで契約させられそうになるとは
　　　　　不幸すぎて、見ちゃおれん！
彼氏　　　はぁ
父　　　　ここがどこだか分かってんのか？
彼氏　　　一応
父　　　　モデルルームだぞ！
　　　　　外に『住宅展示場』の旗が何本も立っていただろ！
　　　　　そんな場所に結婚の挨拶しにくるカップルがどこにいる！？
母　　　　ここを指定したのもエクレアよ
父　　　　お前に詐欺師の才能はない。足あらって、この人と結婚しろ！
娘　　　　えー
父　　　　こんなバカな奴は他にいない。きっとお前を幸せにしてくれる
母　　　　本気で言ってんの？
父　　　　当たり前だ。この家は、俺が買ってやる。よく見てろ。
　　　　　これが俺からの餞別だー！

◯契約書に印鑑を押す父

父　　　　どうだ！？
娘　　　　すごーい！
母　　　　まったく。バカはどっちよ
父　　　　なんだ？
母　　　　あんたはエクレア以上に詐欺師の才能がないってこと
父　　　　どういう意味、ですか？　ボス
彼氏　　　ではこちらの契約書、私の方で預からせていただきます
父　　　　へ？
彼氏　　　このあたり一帯の住宅は、全てウチが仲介している物件なんです
父　　　　あのー、先ほど営業マンだと…お仕事は何を？
彼氏　　　不動産屋です。駅前の商店街のとこで働いています
父　　　　なるほど。つまり俺は、君から家を買ったってこと？
彼氏　　　はい。ご契約ありがとうございます。
　　　　　ちなみにそちらの指輪はレンタルですので
娘　　　　仕事ができる人ってカッコいい。もう一回プロポーズして
父　　　　やめておけ。コイツ詐欺師よりタチ悪いぞ
彼氏　　　ふぅ。これで今月のノルマ達成です
母　　　　それはどうかしら？
彼氏　　　え？
母　　　　よく見てみな
彼氏　　　な！？
父　　　　ボス、一体どういうことですか？
母　　　　契約書に押された印鑑の名前よ
父　　　　印鑑、ハンコの名前…あー！？
彼氏　　　え、永久恋愛（えいきゅう れんあい）って、何それ？
娘　　　　あー！　それ、私のハンコ！？
彼氏　　　へ？
母　　　　永久恋愛って書いて、エクレアって読むんだよ
彼氏　　　ううっ…まぶしくて、目が開けられない
父　　　　これがキラキラネームの破壊力か
母　　　　ショックで目が開けられないだけでしょ
娘　　　　おかしいな。ポーチの中に入れてあったのに
父　　　　ボス。いつの間にすり替えたのですか？
母　　　　ほくろの時よ
父　　　　さすがだ
彼氏　　　じゃあ印鑑は、こちらのお嬢さんのもの
母　　　　そう。本人が押したものじゃないから契約は無効よ
彼氏　　　くそー、負けた。キラキラに負けた
母　　　　惜しかったわね。けどアンタ筋がいい。私のところに来ないか？
彼氏　　　ぜひ。営業の仕事には、もう飽き飽きしていたので
母　　　　ふふふっ、アンタ名前は？
彼氏　　　名前。高橋ですが…
母　　　　下の名は？　ほれ、名刺見せてみろ
彼氏　　　どうぞ（名刺を渡す）
母　　　　どれどれ。高橋、きし？
彼氏　　　騎士って書いて、ナイトと読みます
母　　　　めっちゃキラキラネームじゃん！
娘　　　　素敵
父　　　　ナイトとエクレア。運命ってあるのかもな
娘　　　　デスティニー？（運命）
母　　　　もうお前たち、おもしれーから結婚しちまえ
彼氏　　　エクレア…
娘　　　　ナイト…
彼氏　　　僕と結婚してください！
娘　　　　喜んで！
彼氏　　　お父さん。どうか、娘さんを僕にください！
父　　　　（涙目）あぁ。娘を頼んだよ
娘　　　　ファザー！（父）
母　　　　（彼氏に）契約書、もう一枚ある？
彼氏　　　ありますけど…

◯母に契約書を渡す彼氏

母　　　見よ！　これが私からの餞別だー！

◯契約書に印鑑を押す母

彼氏,父,娘　（感嘆）おー！！！
母　　　　どうや！？
彼氏　　　ん？　紗（さ）音（おと）琉（ね）…これ、何て読むんですか？
母　　　　シャネルよ
彼氏　　　シャネル！？
父　　　　エクレア超えの輝きだ
娘　　　　素敵
彼氏　　　シャネル！？！？

（了）