龍と呼ばれた男。坂本
麻雀で勝つのは難しい。メンツを選別できなければ負けていくゲームである。いかに弱い人と打つか?といったゲームと言っても過言ではないと思う。
俺は馬鹿だった。俺をどこかで明確に負かせる奴を探していたように思う。
そして、「その男」は現れる。
名は坂本、龍の化身である。
社会人なりたての頃の俺は、麻雀に取り憑かれたようにセットをしていた。当時三神が持ち出した四季東風が面白すぎたからだ。鼻水垂らしながらニヤニヤと祝儀牌をツモる快感に身を捩らせていた。
四季のルールは7-2-3-6のチップ500イェンで、大学生季の〜社会人なりたてにとっては、かなりの高レートだった。その為セットに常に参加できるメンバーは麻雀で勝てる人だけになっていった。
俺は当時からフリー雀荘が苦手で、麻雀友達はセットで知り合った人しかいなかった。常に同じメンバーと同じルールでずーーーーっと遊んでいたのだが、新しい刺激を得るために新規メンバーを探すことにした。
ツイッターだったか…紹介だったか…どこで知り合ったのかもう記憶はないのだが、Hと言う人と知り合う事ができた。
年齢は俺より2つ上だったかな…背は180程でメガネをかけているが、俺と違って陰キャ感は全くのゼロ
どころか、外人顔もあってコミュ力抜群のもて男だ。
欠点は人生の半分をギャンブルと、もう半分を酒に割り振ってしまってる所だ。彼がギャンブルをやっていない姿を見たことがない。麻雀中も基本他のギャンブルをしてる。
ちなみに記憶力がかなり良く、麻雀の役も本を読んで一日でマスターするという天才っぷりだ。すげぇ。
メンバーも足りなくなってきた当時の俺は、Kを呼んでみることにした。
「Hさん今度新宿のポジションでセットするのですが良ければ参加しませんか?」
Hから
「ありがとう!是非参加したいです!」
と丁寧に連絡があり、セットの日程が確定した。
ポジションは歌舞伎町にあるピン東の店で、ゴジラを右に曲がった先のビルの中にある。
店の中は卓が5卓ほどありバーカウンターが入口から見て左手に見える。
3段程の階段を降り、さっと周りを見渡すとメンバーから声をかけられた。
…予約のお客様ですか?
…はい。
と答え、入口から死角に入る卓へ案内された。まだ卓には誰も着いていなかった。
座って待っていると、Hや友人達がぞろぞろとやってきた。
挨拶も簡単にすませ、さて、やりますか…と席へついた。
その日のセットはHを入れて5人で回すことになり、Kの後ろ見する機会があったので後ろで見ることにした。
スマホをいじりながら後ろで見ていると、気になる選択があった。確か…孤立牌の比較の問題で、Hの選択した打牌のよりも受け入れの良い牌があり(後ろ見なので不正確)それを指摘した。
とがわ「さっきのってKさんの切った方じゃなくて、こっち(指でトントン)切ったほうが良くないですかぁ?受け入れ広いと思うな〜うんうん」
Hは牌姿を思い返すように部屋の右上を見つめると
H「うーん確かにそうだね!ありがとう」
Hは、なにか言おうとして、ハハッと笑った。
俺はイキリ学生だった。小手返しに強打、打牌批判などして、自分強いですよ。とアピールしていたな…と思う。麻雀ってオーラで戦うじゃん?出るかなって思って…うん、まぁ、キモいだけだし、今もイキるけど。
始めて来たセットでこんなキショキショな事言われたら、寒すぎて2回目は来る事はないだろうと思う。
Hはその日2万イェンほど勝ち、予定があるからと先に帰った。
自分はそこそこ負けた。「マジでありえんわ…」とキレながら店を後にする。
セット仲間と飯を食っていると、Kからのラインが来た。
H「とがわくん。今日はありがとう!いやぁ〜とがわくんのセットはレベルが高いなぁ…」
「良かったら今度俺の友達とセットしてみない??」
と、お誘いがあった。
まさかの連絡だ。もしかしたら俺がウザすぎて連絡来ないかも…と思っていただけにこのスピード感でお誘いが来るとは…
とがわ「ええ、良いですよ?何日にしますか?」
へえ…こいつやれんじゃん。
と思いながら返信すると、水曜のこの日はどうだろう?と返信が帰ってきた。
自分の休日パターンは水曜・日曜で、Kも同じだった。お互いセットするには水曜が都合が良かった。
連絡を送った後に、誰が来るのか気になった。
もしかしてワンちゃんハメセットなんじゃないだろうか?イカサマされたりして…と不安になったからだ。
参加メンバーを聞くと…
坂本、w(仮名)が来ると伝えられた。
もちろんどっちも聞いたことなかったので、歌舞伎町メンバー経験があり、界隈について少し詳しい三神に話を聞くことにした。
三神「坂本…って人は知らないけどwは俺の知ってるwならヤバいね」
やっちゃったね〜と話し始めた。
三神曰く、歌舞伎町でw兄弟を知らない人はモグリだ…と。
特に、兄の方だとしたら化け物のように麻雀が強いぞ!と言われ、今からでも遅くないから行くのは辞めといたら?と、アドバイスしてもらった。
しかし…
せっかく初めて誘ってくれたのに、強いって聞いたから断るのもな…とも思ったし、何より新しく人が増えるのは良い事だよな…それに、俺の方が強いのを証明したい!
Hに、参加する。と連絡を送ると、ありがとう!😄と連絡が返ってきた。
全く知らないメンバーでのセット、自分を奮い立たせ、っしゃーやるぞ~!と気合いを入れる。w兄弟!?知らんわい!ハメられても勝てる!勝つしかない。
勝てると思えば、勝てると思った。そんな訳ないのに。
俺たちは、新宿たぬでセットする事になった。
wがまだ学生との事で学割が効くので安くセットする事ができるからだ。
たぬは新宿西口にある老舗でかなりの広さがある。
学生セットだと飲み物は無料だが、基本自分で用意してテーブルまで運ばなければいけなかったりするので、準備がめんどくさい。
ただ、それを差し引いてもアモスアルティマで打てるのと、とんでもない安さ(当時は確か一時間1人150円とか)だったので、学割りがある時は新宿で打つならたぬ一択だった。
たぬへ向かうエレベーターの中で三神にラインを送った。
とがわ 「今からHとwと打ってくるわ〜」
「歌舞伎町で有名なw?知らんわ。俺の名前を奴等に覚えさせてくるわ…!」
三神「了解。まあ、収支だけは気になるからどーなったか教えて〜」
「夜飯食いに行くか〜そん時教えて〜」
とがわ「了解〜まぁ、勝って焼肉でも行きますか!」
三神「いや、焼肉はいいや。やすべぇが良い」
三神を飯に誘うとやすべぇに行きたいとしか言わないので聞く意味はないな…と思った。
「無理」と送り、戦場へと足を踏み入れた。
入って右奥の卓にHが見えた。既に3人座っていたので小走りで卓に向かう。
卓の穴の空いてる位置にHが座っており、下家に座ってる男はかなり若く見える。壁際には猫目で、綺麗な刺繍の入ったセーターを着た男が姿勢良く座っていた。
席決めは全員しなくても良いよね。
と空いてる席に座った。この行為は最悪の愚行だった。麻雀は席が8割を占める運ゲーだ、そこを真剣に決めない時点で俺は…
落ち着いたところで挨拶をした。
とがわ「初めまして、とがわと言いますよろしくお願いします」
H以外の二人も若く同い年か少し上くらいで少し安心
した。
猫目の男「坂本と言います。よろしくお願いします」
「普段はポーカーをやる事が多いです」
にこっと笑いながら挨拶を返してくれた。物静かな感じかと思ったら、意外と明るい返事が返ってきた為少し戸惑った。
若い男性「wです〜初めまして〜」
wは、やはりかなり若く見える、年齢を聞くと俺と同い年であることがわかった。大学の飲みサーにいそうな彼を見ながらこいつがあの、w兄弟か…と警戒した。 フンッ軽く捻り潰せそうだな😤、とも思った。
俺は、遅くなってすいませんでした…と言いながら立ち上がり、全員分の飲み物や、おしぼり等を用意し、ゲームが始まった。
︙
Hの親でゲームが始まるとKから質問攻めが始まった。
H「とがわくんって家どの辺りなの?」
とがわ「山梨ですよ昭和町っていうイオンしかない国外に住んでます」
と言うと、予想通り、ええっそんな遠くから!?と皆驚いてくれた。
Hが、かなり話しかけてくれたおかげで自分も会話に参加しやすくなった。
俺は、坂本に聞きたいことがあり声をかけた。
とがわ「坂本さんは普段はどんな仕事されてるんですか?」
なんてことない素振りで
坂本「普段はマカオでポーカーをやっています」
「今はオフシーズンで日本に帰ってきてるんだよね」
と、教えてくれた。
とがわ「ポーカーやってるって言ってましたもんね!すっげー!」
「俺、ヨコサワチャンネルとか見てて、結構興味あったんですよ〜!稼げますか?」
坂本「んーでも今は中々難しいよ…」
「周りのレベルも上がったしね…この前負けたときは100万くらい負けたな〜」
と言っている坂本を見て、俺はどひゃ~と、少年のように目を輝かせた😳。ポーカーで生活、かっけぇ…
麻雀が始まると、打牌が早く先ヅモ気味な展開に翻弄された。
初めてのメンバーがいると俺の得意技である強打、不貞腐れ、打牌批判がし辛いこともあり、ジリ貧の展開が続いた。周りの打牌スピードについていけない俺は負けが続いた。
そんな中、坂本が少し長考し、
坂本「とがわ君が普段打っているルールはオープンってあるんだっけ?」
と、聞いてきた。
Hとwは、いつもアリでやってるんだよね…ということで、まあ良いかと許可した。
これが全ての間違いだった。
坂本「オープン」
と、手を開くと2345666mの形だった。
14725m待ちの最強リーチだ…
程なくして、7mを淀みなくパンッと引きツモ
坂本 「ツモ、オープンピンフ…」
「裏…2はハネ2ですー!やたー!」
結局この跳満が最後まで効き、坂本がトップになった。
俺の先制リーチは上手くいかず、まるでゴミだと言わんばかりに押され倒し、相手からのリーチ。当然のように掴む牌は相手の和了り牌…こんなんじゃ勝てないよ…
ゲームが進み思うように勝てない俺を見てKが笑った。
H「ねね…とがわくん。レート…あげない?」
俺は驚いた。俺は内心願ってもない話だ!とKの顔を見た。
H「そしたら2倍位にしよっか!」
坂本「3倍でも良いんじゃない?」「10倍位までなら受けられるよ〜!」
とがわ「え、10倍!?や、ごめんなさい、流石に1.5で…」
Hはレートが上がった事で興奮しながらいいねぇ〜と牌を卓に叩きつけている。
よし、こっから全力で打つ。ホントの本気で打つ。
局面が進み俺が3900点の3副露一向聴になると
H「オープン」
と手牌を開いた。待ちは36m
俺は宣言牌をポンし3m単騎に待ち取った。
Hがえー大丈夫??と笑いながら俺の手牌を覗き込んだ。当たり牌の3mがポツリと浮いているのを見て、なにか言いたげな顔をしている。
Hが違う!っとツモ切り、俺がサクッと牌を引くと
あっ
俺は白い顔でオープンへの振り込みは…?とHに聞くともちろん役満だよ。と教えて貰った。人生初の押し出しの役満だ。と全く意味のないスタンプラリーを押した気分になった。
そこからが早かった。「オープン」 「オープン」と、初めて食らうオープンの声に完全にボコボコにされ俺は、12万ほど負け帰る事になった。
俺は坂本にオープンをツモられた手牌を見ながら「タノシカッタデス」「マタアソンデクダサイ」
と伝えると、こちらこそ楽しかったです。また遊びましょう〜と言ってくれた。
坂本らは夜からポーカーや飲みの予定があるそうでそのまま全員解散となった。
寒空の下、三神に「負けました」と、連絡を送ると
三神「いくら負けたの!?」
と、画面越しにもわかるムカつく笑顔で俺がボコされた話を聞きたがっている。
8万くらいかなと少し嘘をついた。
だが、俺はまだ負けだと思っていなかった。
ツイてない、実力では負けてない、オープンは期待値が悪いはず…アイツラ運だけだ…チクショウと、自分の実力もオープンの強さもまるでわかっていないのに、意味のない反省を繰り返していた。
結果、俺は後のH達に5年間負け続けることになる事をこの時の俺はまだ知らない。
次回、「初めてのマイティフィーバー」、に続く。