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スイス訪問記 #1
わたしが初めて西洋へ行ったのは、中学2年の夏休みだった。母の知り合いのアメリカ人の奥さんとスイス人のおじさん夫婦の家に3週間の滞在だった。海外へ電話といえば、コレクトコールしかなかった。滞在先のヌーシャテルがスイスのどこにあるのかすら知らなかった。今思えばそれくらい地図を開けば簡単に調べられたし、言語についてももう少し真剣に取り組んでもよかったのかもしれない。当時のわたしは、とにかく日本を脱出し、西洋の美術を生で見るということが、一番重要で、あとは何も考えていなかった。
将来どうしたらいいかをひたすら悩んでいた時期だった。何か美術に関わることがしたいと漠然と考えていた。とにかく、美術といえば「西洋」で、行くしかないのだと決めてたのだった。
チューリッヒ空港までおじさんとおばさんが迎えにきてくれたのをうっすら覚えている。わたしは車で爆睡をしてしまい、気がつけばヌーシャテルの家の前に着いていた。
海外に1人で行くことに出発前はあまり抵抗を感じなかったが、到着しておじさんとおばさんに会って、初めて気がついた。というか、我に返った。英語は全然喋れないし、読めない。ましてやスイスは何語なのかさえちゃんと知らなかった。
滞在中の記憶は20年以上経過した現在、非常に断片的ではあるが数々の衝撃があったことを思い出す。このままどんどん忘れていくのはもったいないような気がしたのでここへ記し残したいと思う。
チョコレートドリーム
ホームステイ先の家では枕元に大量の板チョコが置いてあった。おばさんにこれは食べていいのか、拙い英語でなんとか聞いたら(滞在中ずっと拙い英語なので語術の会話表見での注意書きは割愛する。)指でつまで口へ運ぶ動作と共に、舌鼓の音をたて、「お食べお食べ」といった感じでジェスチャーした。わたしのために用意しておいてくれたようだ。その時ちょうど夕食後歯ブラシをしてもう寝るところだったので、この国では寝る前にチョコを食べる習慣があるのか、最高の国だなと思った。親の目が届かないところで歯ブラシをした後の寝る前にチョコレートを食べる悪しき習慣を学んだ。
※しかしこれはただの勘違いの恐れも多いにあるのでスイスの習慣と思わない方がいいかもしれない。奥さんアメリカ人だし、アメリカの習慣か。いや、その家独自か、やはりただの勘違いかもしれない。
グットモーニングチーズ
ところかわれば当然朝食だって違うだろうと、今ならわかるけれど、当時の私はまだまだ舐めていた。というか特に気にも留めていなかった。スイスのチーズ帝国ぶり、チーズ愛とでもいうのだろうか。朝、おばさんが用意してくれた食卓にはケーキ屋さんで買うカットさせたケーキくらいのチーズが、ぐるっと時計のように(スイスだけに)透明の蓋が被さった皿に並んでいた。一つ一つのチーズを見ると、チーズの色、チーズの大きさ、チーズの種類に驚いた。朝からこんなにチーズを食べるのか。チーズの形や色もさることながら味がどれも違ってさらに驚いた。こんなに違う味ならいくら食べても飽きないのでは。母から聞かされていた(母も滞在したことがある)ため、チーズやチョコレートで毎日(絶対嘘)鼻血を出していたと聞いていたが、まんざらでもないのではないかと徐々に思い始めた。
ケーキのように盛られたチーズの詳細を何一つ記してなかったことに今更後悔する。記憶はぼんやりしているし、チーズの名前すら思い出せないのが本当に残念である。
そしてこれから毎日チョコレートとチーズを食べ、3週間の滞在で文字通り大きくなって帰国した。西洋の美術を生で見る、という優等生らしい大義名分をすっかり忘れ、チョコレートとチーズに溺れていくのであった。
つづく