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テレビが苦手な私

苦手なことはたくさんあるけれど、好きで苦手になったわけじゃないものも中にはある。

テレビを観ることがその一つだ。

私はテレビをほとんど観ない。

幼い頃は何の気無しに観て楽しめていたけれど、中学生になったあたりから段々とテレビの前に行くこともなくなった。

明るい画面の中の人々の表情や声色、言動、そしてその背景にある感情。飛び交う笑い声。

番組は、それを私たち視聴者にどう捉えて欲しいのか。

それら全てに意識が向いてしまって、妙に肩に力が入り。以前は出来ていたはずの「楽しむ」方法が分からなくなってしまった。

そんなようになってしまえばテレビ離れはいよいよ加速し、ついにはテレビが付いていないとホッとするようになった。

しかし、家族で生活していればテレビはどうしたって視界に入ってくる。

気にはなるものの、消してなんて言えるわけもない。

なにより、テレビを観れなくなるような心境の変化に自分が1番ついて行けてないのもあった。

観ざるを得ないときは、ちゃんと周りに合わせよう。

食卓の場でも、家族団欒の場でも。
友人との会話のタネでも、アルバイト先でも。

皆が楽しそうにテレビの話題を口にすれば、私も合わせて笑い。相槌を打ち。

「それでそれで?」と聞き返せば、観ていない私にも分かるように、面白おかしくテレビの内容を皆が話してくれた。

そうやって皆の話を聞くたびに。

受け取り方が決められているような、画面越しの知らない人の話より。

見知った誰かの口から聞く気兼ねない話の方が、私は断然好きだと思った。

「脳のキャパが狭いんだろうなぁ…」

大学生になった頃に、しみじみと自分のことをそんなふうに考えたりした。

きっと、身の回りのことで精一杯で。テレビの中の世界を楽しむ余裕がなくなってしまったのだ。

関わる人への興味は溢れて止まらないくらいだけれど。

画面一枚隔てた知らない人には全くと言っていいほど興味が湧かなかった。

テレビがなくて困ることはない。

それでも。

テレビという娯楽を楽しめない自分は、ひどくつまらない人間のような気がして。

どうにもならないのに、なんだか寂しいと思った。

そして月日は流れ。

テレビが苦手な自分との折り合いも、だいぶついてきた今日この頃。

「俺、新しい家にテレビ持っていかないことにした」

という彼の言葉に、思わず面食らってしまった。

彼は私と違ってテレビをよく観る人だと思っていた。

実際お家にお邪魔すれば、ついていないことの方が稀だったし。

色んな種類の録画番組の中から観るものを選ぶ姿をみては。

色んなことに関心を持てる彼が羨ましいと何度も思って。

つまらない自分とは違うなと感じていた。

「小さいテレビだからPCと変わらないし」

別になくても困らないよ、と。

いつか私が思ったようなことを彼は言って、荷造りを再開した。

テレビを観るのが苦手だと、私が彼に話したことは一度もなかった。

ずっとテレビが流れっぱなしでも。

彼と一緒に居られるなら全然構わないと思ってた。


新しいお家では、洋楽のラジオが流れている。

聞いたことあるような、ないような。

でも耳に馴染む良い感じの曲。

彼はといえばお気に入りの椅子に座ってお気に入りの机でPCをいじったり。

私は彼のベッドに寝そべって、ぼんやり窓際の観葉植物を眺めていた。

広くて大きい部屋の、ぽっかり空いたスペースは。

テレビとソファを置いたら、ちょうど良さそうな空間だと思った。

「あのさー…」

「んー?」

画面を見つめたままの彼から言葉が返ってくる。

「テレビないの、寂しくない?」

私がそう尋ねれば、少し間を置いて

「えー?別に…」

と呟いた後。

まぁ、いつかは欲しくなるかもね。

と彼は付け加えた。

「そっかぁ」

ぼんやり彼の背中を見つめる。

私の欲しいもの。

きっと今、全部揃ってる。

ふとそう思った。

「結婚したら大きいテレビ買おっか」

突拍子もなく私がそう言うと、彼は笑った。

買って〜なんて茶化すものだから、私も釣られて笑う。

私はテレビを観るのは得意じゃないけれど。

大きなテレビの前でのんびりしてる彼と。

ベッドでゴロゴロしている私。

そんな生活も良いななんて、ちょっと思ったりしたのだ。

おぼろ

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会社員おぼろ
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