ゴブリン無宿
「オウ、ジイさんよう、金を出しゃそれで良いんだ。俺達は、何も楽しくってアンタみてえなジジイを苛めている訳じゃないんだぜ」
薄汚い革製の胸当てを着けた髭男が、半ば錆びた幅広の剣を手に凄む。野盗であろう男の後ろには、これもまた似た風体の男達が、二人と三人。総勢六人がニヤニヤ笑いを口元に浮かべながら、貧相な風体の枯れた老爺を取り囲んでいた。
「こんな辺鄙な田舎村には、旦那様方を満足させられるような蓄えなぞございません。どうか、お許しを」
訥々と見た目同様のしわがれ声で老爺は訴えるが、しかし、その目元と声音は、諦念を多分に含んでいる。恐らく彼奴らはこんな訴えに耳を貸すまい、と。
「ああん?そんなこっちゃ聞いてねえんだよ!村長さんよう!」
老爺の諦めの果ての想像に違わず、野盗連中は凄みを効かせる。
「チッ、構わねえ、どうせ、狩りに行ってる男衆が戻るまでは、まだ掛かる!適当に荒らしてズラかるぞ!」
「お、お止めくだされ」
「邪魔だ!ジジイ!」
引き留めようとする老爺は、乱暴に突き飛ばされ、地べたを転がる。そこをすかさず助け起こす影。
「何か、お困りのようでやすな」
「あ、アンタは」
老爺の眉間が困惑に歪む。そう。ソレは「ゴブリン」と呼ばれる亜人。昨晩、宿を求めてきたものの、亜人の少ない辺境の寒村故、邪険に扱い、ただ軒先を貸し与えただけ。決して助けの手を差し伸べてくれるようなことはない、はずだ。
「何だ、ゴブリンか?こんなもん飼ってんのか、この村は!」
「ーーーやつがれに任せて頂けやすなら、首六つ、綺麗に刈り取ってやれましょうや」
「んだとお!?亜人風情が!!」
野盗は激昂した。すぐさま右手の錆剣を振りかぶり。
「ーーーカヒュっ!?」
血が迸った。激昂した野盗の首は、怒りの表情のまま宙を舞う。
「ま、この程度の首ならひとつ銅貨一枚ってところでやしょう」
いつの間にか抜かれた白刃を逆手に構え、ゴブリンは、嘯いた。