111.第5章「映画とテレビでトップをめざせ!不良性感度と勧善懲悪」
第5節「東映ゼネラルプロデューサー岡田茂・映画企画の歩み⑩千葉真一JACアクション映画 中編」
10.千葉真一、JACアクションスター育成
(3)アクションスター真田広之誕生
5歳から劇団ひまわりで子役として活躍していた下沢広之(真田広之)は、東映東京撮影所(東撮)にて1966年10月公開鷹森立一監督『浪曲子守唄』に主演千葉真一の息子役で出演します。
この映画は「逃げた女房に未練はないが、お乳欲しがるこの子がかわいー」で知られる一節太郎のヒット曲「浪曲子守唄」をテーマに作られた作品で、曲同様にヒットしました。
3作続くシリーズとなり、千葉と下沢の関係が深まります。
下沢は千葉が活躍するTBS系『キイハンター』にも子役として出演しました。
アクションスター千葉真一に憧れた下沢は、1973年に中学進学と同時に千葉が1970年に設立したジャパン・アクション・クラブに入所します。
JACに入所した下沢は、1974年、東撮の石井輝男監督『直撃!地獄拳』にて主演する千葉真一の少年時代の役を演じました。
〇京都撮影所(京撮)・1978年1月公開『柳生一族の陰謀』深作欣二監督:萬屋錦之介主演
高校入学後、学業に専念するために芸能活動を一時休止していた下沢は、1978年1月公開深作欣二監督『柳生一族の陰謀』の忍者ハヤテ役オーディションに応募、千葉の強いプッシュもあり合格し、映画界に再デビューします。
この映画で下沢は、千葉真一の「真」と千葉の本名である前田の「田」の字を組み合わせた「真田広之」という千葉命名の芸名を使います。
真田の繰り出す数々の忍者アクションを観た人々は、そのスピード感、跳躍力、体を張った危険なスタントに驚きました。
『柳生一族の陰謀』にてJACを中心とした忍者アクションパートの殺陣を担当した殺陣師菅原俊夫は、下半身の安定、殺陣のキレ、足運びのうまさ、身体能力、勘の良い動きなど、真田の才能を絶賛しています。
また、幼い頃から日舞を学び、若くして立ち居振る舞いや礼儀作法も極めた努力家真田の真摯な姿勢を高く評価しました。
そして、この作品での活躍にて新人アクションスター真田に注目が集まります。
〇京撮・1978年4月公開『宇宙からのメッセージ』深作欣二監督:ビック・モロー主演
続いて真田は、4月公開深作欣二監督『宇宙からのメッセージ』に宇宙暴走族シロー・ホンゴー役で出演しました。
1978年、アメリカで大ヒットしている『スター・ウォーズ』の日本公開を前に、東宝は正月にSF特撮大作『惑星大戦争』を公開します。東映も負けじと企画した宇宙SF大作が『宇宙からのメッセージ』でした。
当初はSF特撮を数多く作ってきたテレビ事業部を中心に企画が進められましたが、岡田茂の指示で大型ステージを持つ京都撮影所(京撮)にて深作欣二が監督することが決まります。
そしてプロデューサーとして、当初の企画を考えたテレビ特撮の平山亨、初めて東映作品にプロデューサーとして参加する岡田裕介、角川映画『人間の証明』のにも参加したプロデューサーサイモン・ツェー、京撮の杉本直幸、伊藤彰将たちが指名されました。
東北新社や東映太秦映画村も出資して予算をかけたSF大作は、国内興行では予想より低い成績に終わりましたが、ユナイテッド・アーティストが全米で配給し大ヒットしました。
☆京撮・テレビ朝日(ANB)系『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』(1978/07/08~1979/01/27):真田広之主演(☆主演作)
映画『宇宙からのメッセージ』公開後、続編としてテレビ朝日(ANB)系にて『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』が放映され、ゲン・ハヤト(まぼろし)役真田広之が初主演を飾ります。
この作品は、石森章太郎原作のSF特撮ドラマで、東映テレビ事業部長の渡辺亮徳(よしのり)が主導し、元京撮助監督だった平山亨が『南総里見八犬伝』をモチーフに企画しました。
脚本は、大ヒットした『仮面ライダー』の脚本家伊上勝が手がけています。
京撮の時代劇スタッフと東撮の特撮スタッフが共同して京撮で作った異色のSFチャンバラアクションは視聴率的には振るいませんでした。
この作品の劇場版が、1978年7月の東映まんがまつりで公開されました。
〇京撮・関西テレビ(KTV)『柳生一族の陰謀』(1978/10/03 ~ 1979/06/26):千葉真一主演
大ヒットした映画『柳生一族の陰謀』は、関西テレビ(KTV)の製作で京撮にてテレビドラマ化されます。
服部兵馬役で第1話に出演した真田は、第27話から39話まで(1979/4/3~6/26)佐助役としてセミレギュラー出演しました。
真田は、1979年4月、日本大学芸術学部に入学します。
学業の傍ら8月公開中島貞夫監督『真田幸村の謀略』に三好伊佐入道役、12月公開の角川春樹事務j所製作・斎藤光正監督・千葉真一主演『戦国自衛隊』に武田勝頼役、翌1980年7月公開キティ・フィルム製作・相米慎二監督・鶴見辰吾主演『翔んだカップル』の星田役、などの映画に出演しました。
(4)JAC真田広之アイドル人気爆発
〇京撮・ANB系『柳生あばれ旅』(1980/10/14 ~ 1981/04/07):千葉真一・勝野洋主演
真田は1980年10月から放送開始のANB系千葉真一・勝野洋主演『柳生あばれ旅』に根来の忍者・又平としてレギュラー出演します。
『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』以来のテレビのレギュラー出演で、真田の人気は徐々に上がって行きました。
☆京撮・1980年11月公開『忍者武芸帖 百地三太夫』鈴木則文監:真田広之映画初主演作
その人気の高まりを受け、11月、『柳生あばれ旅』の合間を縫って撮影された真田の初主演映画『忍者武芸帖 百地三太夫』が公開されます。
京撮では1978年1月に公開された『柳生一族の陰謀』の大ヒット以来萬屋錦之介が主演する重厚な時代劇大作の製作を続けていましたが、その勢いに陰りが見えてきました。
東映ゼネラルプロデューサーの岡田茂は、これに代わる新しい時代劇の新スターを作るべく、京撮企画者日下部五朗に人気急上昇中のJAC真田広之を主役した忍者時代劇の企画作りを命じます。
そこで日下部はスター作りの名手鈴木則文監督を起用し、アクション時代劇『忍者武芸帖 百地三太夫』を企画しました。
脚本に途中参加した鈴木は、かつて東映の躍進の原動力となった『笛吹童子』をモチーフに、チャンバラ娯楽映画の復活を狙います。
そして、若い女性をターゲットに、真田の鍛えられた肉体美が躍動する大アクションを考えました。
そのため、日下部はJAC総帥の千葉を殺陣師上野隆三とは別にアクション監督という日本映画初のポジションに就け、アクション演出を任せます。
千葉は、志穂美悦子をはじめとするJACの主要メンバーを総出演させ、忍者アクションの創設者宍戸大全と提携し、従来の忍者アクションにカンフーアクションやワイヤーワークを取り入れた新しい忍者アクションの確立を目指しました。
この作品の主題歌『風の伝説』を歌った真田は、伏見城のロケーションにて25メートルの天守閣の上から地面に向かってダイビングする荒業を披露します。
千葉自身も真田に敵対する大ワル・不知火将監を演じ、重厚な殺陣演技で真田を支えました。
11月の公開直前、真田の初主演作は訴求ターゲットの違う中島貞夫監督『さらば、わが友 実録大物死刑囚たち』との併映が決まります。
2本立て公開は興行的に苦戦しました。
しかし、真田の人気が高まった1982年1月、この映画はジャッキー・チェン主演『龍拳』の併映で再映され、大ヒットします。
〇京撮・1981年6月公開『魔界転生』深作欣二監督:沢田研二主演
ANB系『柳生あばれ旅』などに出演を重ねる真田は、1981年6月公開、角川春樹事務所と東映が共同製作した深作欣二監督・沢田研二主演『魔界転生』に起用されました。
伊賀の霧丸役で出演した真田は、華麗な激しいアクションでこの映画を盛り上げます。
また、沢田演じる天草四郎とのラブシーンなど重要な役を務め、俳優としての存在感も高めました。
この映画は大ヒット、真田の人気は更に拡大します。
〇1981年7月「リポビタンⅮ」CM「ファイト一発」出演
また、この年7月から真田は、「ファイト一発」でおなじみの大正製薬「リポビタンD」のCMに『柳生あばれ旅』で共演した勝野洋と出演、お茶の間に広く知れ渡りました。
☆1981年8月公開『吼えろ鉄拳』鈴木則文監督:真田広之主演第2作
新しいスターを育てたい岡田茂は、急上昇する真田人気に目を付け、スター作りに定評のある鈴木則文を再び脚本及び監督に起用し、日下部五朗に命じて真田の第2弾主演映画の企画に取り組ませました。
鈴木は、かつて実録ヤクザ映画で一世を風靡した菅原文太をコメディ色の強い『トラック野郎』で再ブレイクさせた経験から、真田のために爽やかな現代アクション劇『吼えろ鉄拳』の脚本を作ります。
前主演作はブルース・リー調のまじめなアクション映画でしたが、主演第2作はコメディ要素も入れたジャッキー・チェン調の作品で、鈴木は香港ロケも行い、真田の身体をフルに使ったド派手なアクションを演出しました。
この作品には、前作同様に志穂美悦子を始め、黒崎輝などJAC若手メンバーが総出演し、真田のアクションを盛り上げます。
また、当時過激な反則技で大人気の悪役レスラー「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャーが出演しました。
ブッチャーは、これまでの悪役イメージと異なるお茶目な用心棒スパルタカスとして話題作りに貢献します。
他にも有名プロレスラーグレート小鹿も出演、ジャイアントスィングで真田を振り回しました。
アイドルとして主題歌『青春の嵐(ハリケーン)』を歌った真田は、香港の2階建てバスの上での格闘などこの作品でも身体を張った命がけのスタントを繰り広げます。
ラストシーンではヘリコプターからの決死のダイビングも披露しました。
この作品には、コメディ要員として、若き日の大木こだま師匠も出演しています。
真田主演『吼えろ鉄拳』は、1981年8月、大人気アイドル歌手松田聖子映画主演デビュー作『野菊の墓』(沢井信一郎監督)と同時公開されました。
松田聖子目当ての男性ファンと真田広之目当ての女性ファン、二つの違うファン層がそれぞれ映画館に押し寄せ大ヒットします。
この作品でアイドル人気に火が付き、真田広之は休む間もなく映画、テレビに次々と出演して行きました。
次回は、ますます人気拡大する真田広之と、それに続くJACアクションスターたちの活躍をご紹介いたします。