112.第5章「映画とテレビでトップをめざせ!不良性感度と勧善懲悪」
第5節「東映ゼネラルプロデューサー岡田茂・映画企画の歩み⑩千葉真一JACアクション映画 後編」
10.千葉真一、JACアクションスター育成
(5)真田広之、テレビ・映画で大活躍
〇東映京都撮影所(京撮)・関西テレビ(KTV)『影の軍団Ⅱ』(1981/10/06 ~ 1982/03/30):千葉真一主演
1980年、千葉真一主演KTV『服部半蔵 影の軍団』(1980/04/01~09/30)が東映京都テレビ・プロダクションにて制作され大ヒットします。
この作品はKTVにてシリーズ化され、翌1981年、同じく千葉主演『影の軍団Ⅱ』(1981/10/06~1982/03/30)が作られました。そして、今シリーズから元根来忍者の義賊・はやて小僧役で真田広之がレギュラー出演します。
このテレビドラマの大ヒットで真田の人気はますます拡大しました。
〇京撮・1981年11月公開『冒険者(アドベンチャー)カミカゼ』鷹森立一監督:千葉真一主演
続いて真田は、1981年11月公開千葉真一主演『冒険者(アドベンチャー)カミカゼ』に出演します。
かつてアラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラが共演したフランス映画『冒険者たち』を見た千葉がいつか映画化して主演したいと考えていた企画で、千葉と真田の人気が爆発したこの時実現したものでした。
千葉と真田はフランス映画のようなおしゃれな作品にするべく『冒険者たちのメロディー』というタイトルを考えましたが、岡田茂の決めたタイトルは『爆発!カミカゼ野郎』。結局『冒険者(アドベンチャー)カミカゼ』となります。
「冒険者たちのメロディー」という名称は、ベルギーのフランシス・ゴヤがクラシック・ギターで奏でる テーマ曲のタイトルとして残りました。
11月に『ぶっちぎり 横浜銀蝿』と同時公開され、まずまずの成績を残します。
☆京撮・1981年12月公開『燃える勇者 』圡橋徹監督・真田広之主演第3作(☆真田主演作)
真田人気はとどまることなく広がり、圡橋亨初監督作品『燃える勇者』に主演、翌12月に公開されました。
この作品には、『柳生あばれ旅』や「リポビタンD」CMで共演の勝野洋、真田に次ぐJACの人気スターとなる黒崎輝が出演しています。
2023年10月に逝去したもんたよしのりも俳優として出演するだけでなく、劇中にてもんた&ブラザーズで歌も披露しました。
12月、角川春樹事務所製作の薬師丸ひろ子主演相米慎二監督『セーラー服と機関銃』と同時公開されると、薬師丸人気もあり1982年度日本映画配収第1位となる大ヒットを記録します。
大ブレイクしたこの作品で真田のアイドル人気も一層拡大しました。
〇京撮・KTV『影の軍団Ⅲ』(1982/04/06 ~ 1982/09/28):千葉真一主演
高視聴率で終了した『影の軍団Ⅱ』(1981/10/06~1982/03/30)に引き続き、新たなシリーズとして『影の軍団Ⅲ』(1982/04/06 ~ 1982/09/28)が制作されます。
真田は、千葉演ずる多羅尾半蔵配下の忍者・暴れ独楽の佐助役として今作にもレギュラー出演しました。
そして、アイドル人気爆発の真田が、今シリーズのオープニング『誓い (JACのテーマ)』、エンディング『砂漠の都会に』を歌います。
☆香港・1982年4月公開『龍の忍者』ユアン・ケイ監督・真田広之主演
アジアでも人気が出て来た真田は、この年、ゴールデン・ハーベスト社出資にて香港シーゾナル・フィルム社が製作したユアン・ケイ監督『龍の忍者』に主演します。
外国映画に初主演した真田は、ここに海外での活躍の第一歩を踏み出しました。
国内では、1982年4月、東映の配給にて、他社製作のひかる一平主演『胸騒ぎの放課後』とともに公開されます。
〇松竹・1982年6月公開『道頓堀川』深作欣二監督:松坂慶子主演
また、真田は、松竹が6月に公開した松坂慶子主演の文芸作品『道頓堀川』に松坂の若き恋人役で出演しました。
久しぶりに松竹で監督する深作欣二の指導もあり、この作品でアクションを封印した真田は演技でも高い評価を受けます。
子役時代から長く映画・テレビに出演してきた真田は、アクション面だけでなく演技面でも一流の才能を身に着けていました。
〇京撮・ANB『柳生十兵衛あばれ旅』(1982/10/19 ~ 1983/04/26):千葉真一主演
真田は、千葉真一が柳生十兵衛役で主演した『柳生あばれ旅』(1980/10/14 ~ 1981/04/07)の続編『柳生十兵衛あばれ旅』(1982/10/19 ~ 1983/04/26)にも元根来衆又平として引き続きレギュラー出演します。
『影の軍団Ⅲ』に続きこの番組の撮影風景が見学できる東映太秦映画村の年間動員数は、爆発する真田人気もあり、この年260万人を超える最高の数字を記録しました。
(6)真田広之、角川映画初主演
☆京撮・1982年12月公開『伊賀忍法帖』斎藤光正監督・真田広之主演
東映は、1981年6月公開『魔界転生』に引き続き斎藤光正監督『伊賀忍法帖』を角川春樹事務所と共同製作しました。
真田は『伊賀忍法帖』にて初めて角川映画に主演します。
その相手役として「角川映画大型新人女優コンテスト」で優勝した渡辺典子が起用されました。
アントニオ猪木との名勝負でも知られる人気プロレスラーストロング小林もこの作品に出演し話題となります。
小林は、役名である金剛坊からこれ以降の芸名をストロング金剛と改称し、映画・テレビでも活躍しました。
この作品の衣裳デザインは世界的に有名な衣装デザイナーコシノジュンコが担当しています。
1982年12月、東映は同じく角川と共同製作した角川春樹初監督・草刈正雄主演『汚れた英雄』と二本立てにて公開され、角川映画の大宣伝もあり、真田が主演した忍者映画も大ヒットしましました。
アクションスター真田広之の人気は増々沸騰します。
(7)真田に続くJACアクションスター黒崎輝、高木淳也登場
〇京撮・1983年8月公開『伊賀野カバ丸』鈴木則文監督・黒崎輝主演
この作品の後、真田は、亜月裕原作で鈴木則文が企画・脚本・監督した黒崎輝主演『伊賀野カバ丸』に目白沈寝役で助演します。
この作品は、ブルース・リー調正統派の真田広之と異なるジャッキーチェン調コメディ派の黒崎輝が初主役を務めたコメディアクション映画で、鈴木則文が『忍者武芸帖 百地三太夫』『吼えろ鉄拳』とJACの若手俳優たちと仕事をする中で、黒崎の高いアクション能力とコメディ性に目を付け真田に続く新たなアクションスターを作ることを目指して提出した企画でした。
そのため企画に初めて鈴木の名前が入っています。
鈴木は、この映画で真田と黒崎、タイプの違うツートップアクションスターの確立を目指しました。
この映画には真田、黒崎の二人に続くJAC期待の高木淳也も準主演しています。
高木は、読売テレビ(YTV)にて製作の『魔拳!カンフーチェン』(1983/01/22 ~ 1983/03/26)に17歳で主演、続けて『激闘!カンフー・チェン』(1983/04/02 ~ 1983/09/03)にも主演したJAC期待の星でした。
『伊賀野カバ丸』出演の後、YTV製作『青春はみだし刑事』(1983/10/22 ~ 1984/02/25)に主演します。
この頃、真田、黒崎、高木の三人は「JAC御三家」と呼ばれました。
千葉真一が企画に入り、JACメンバーが総出演したこの映画は、8月にジャッキー・チェン主演『カンニング・モンキー 天中拳』と同時公開されると大ヒットしました。
(8)真田、薬師丸ひろ子共演『里見八犬伝』大ヒット
〇京撮・1983年12月『里見八犬伝』深作欣二監督・薬師丸ひろ子主演
1983年、角川春樹はアイドル人気が爆発した薬師丸ひろ子と真田広之のコンビで時代劇アクション大作『里見八犬伝』を製作します。
トップアイドル二人の共演は大きな話題を呼びました。
若手トップスター二人による時代劇大作は東映洋画部が配給し、12月に主に東宝系映画館にて公開されるという異例の形で公開され大ヒット、1984年度日本映画配収第1位に輝きます。
☆松竹・1984年4月公開『彩り河』三村晴彦監督:真田広之主演
人気絶頂の真田は、続いて1984年4月公開、松本清張原作三村晴彦監督松竹『彩り河』にて名取裕子を相手に主演しました。
(9)続くJAC若手アクションスター大葉健二、井原剛
〇京撮・1984年8月公開『コータローまかりとおる』鈴木則文監督:黒崎輝主演
前作鈴木則文監督『伊賀野カバ丸』の大ヒットを受け、JAC黒崎輝主演第2作『コータローまかりとおる』が製作されます。
JAC総出演のこの映画に真田も大悪役吉岡達也として出演し、黒崎を盛り立てました。
高木淳也はこの年JACを退団しましたが、この作品にJACの新たな若手スターが二人登場します。
黒崎のライバル、天光寺輝彦役で出演した大葉健二、砂土屋俊兵役の伊原剛(つよし)(現・伊原剛志)です。
大葉はANB系『宇宙刑事ギャバン』(1982/03/05~1984/03/02)にギャバン役で主演し、骨太なヒーローとして人気を集めていました。
大葉は2012年、再び一乗寺烈役で『『宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』に出演しています。
この作品にて映画初出演した伊原はその後多くの作品に出演し、現在も映画・テレビで活躍中です。
真田は、JAC若手主演映画にて様々な役を演じ脇で支えました。
この映画にはミス映画村も出演し花を添えています。
1984年8月、ジャッキー・チェン主演『五福星』と共に公開されましたが、芳しい成績は残せませんでした。
黒崎は、翌年、ANB系『巨獣特捜ジャスピオン』(1985/03/15 ~ 1986/03/24)にて主役ジャスピオンを演じ、子供たちの人気を得ます。
(10)真田広之『麻雀放浪記』主演、演技派俳優へ
☆東撮・1984年10月公開『麻雀放浪記』和田誠初監督:真田広之主演
1984年、真田広之は、東映と角川春樹事務所が共同製作し10月に東映系で公開の和田誠監督『麻雀放浪記』に主演しました。
映画マニアのイラストレーター和田誠が、角川書店から出版された阿佐田哲也原作『麻雀放浪記』の映画化を角川春樹に持ち込み、意気投合した角川は真田広之主演で映画製作を決めます。
和田が沢井信一郎と脚本を書き、初めて監督まで務めたこの作品は当時の雰囲気を出すためモノクロで撮影され話題を呼び、ヒットしました。
鹿賀丈史、高品格、加藤健一、名古屋章、加賀まりこ、大竹しのぶなど芸達者な俳優たちに囲まれ、その中で主役を務めた真田の演技は高く評価されます。
この作品の後、真田は演技派俳優の道を歩んでゆきました。
〇京撮・KTV『影の軍団Ⅳ』(1985/04/02 ~ 1985/10/01)・『影の軍団 幕末編』(1985/10/07 ~ 1985/12/30):千葉真一主演
KTV『影の軍団Ⅲ』(1982/04/06 ~ 1982/09/28)、ANB『柳生十兵衛あばれ旅』(1982/10/19 ~ 1983/04/26)に出演の後、映画を中心に活動してきた真田は、久しぶりに放映されるKTV『影の軍団Ⅳ』(1985/04/02 ~ 1985/10/01)、『影の軍団 幕末編』(1985/10/07 ~ 1985/12/30)に忍者アクションの無い勝麟太郎役でレギュラー出演します。
これらシリーズでは大葉健二、伊原剛が忍者スタントアクションのメインを務めました。
両シリーズとも、千葉真一がエンディング曲『影』を歌います。
『影の軍団Ⅳ』『影の軍団 幕末編』には武芸考証として戸隠流第三十四代宗家・初見良昭(まさあき)が参加しました。
今シリーズにて、京撮『影の軍団』は終了します。
(11)真田広之、日本、そして世界で活躍
演技派俳優への道を歩み出した真田は、東映だけでなく松竹、東宝など配給の他社作品、NHK大河ドラマ、フジテレビトレンディドラマなど映画・テレビで大活躍しました。
1989年にはJACから独立し幅広い役柄に挑戦、一演技者として高みを目指して行きます。
1999年~2000年にかけては、蜷川幸雄演出のイギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー公演『リア王』に日本人キャストとして初めて出演しました。
真田が主演し2002年に公開された松竹・山田洋次監督『たそがれ清兵衛』は、アカデミー外国語映画賞にノミネートされるなど各映画賞に輝きます。
翌2003年公開のトム・クルーズ主演『ラスト サムライ』に出演した真田は、ロサンゼルスに拠点を移し、2005年に中国で製作された『PROMISE』に主演しました。
2007年『ラッシュアワー3』ではジャッキー・チェンと共演します。
2013年には、キアヌ・リーブス主演『47RONIN』に大石内蔵助役で出演、アクションから始まった真田広之は世界で活躍する演技派俳優となりました。
ー1986年以降の真田広之・国内代表作ー
☆1986年4月公開『犬死にせしもの』井筒和幸監督:大映、ディレクターズ・カンパニー製作:松竹配給
〇1988年10月~ 12月『ニューヨーク恋物語』フジテレビ木曜劇場:坂入正弘役
☆1988年11月公開 『快盗ルビイ』和田誠監督:小泉今日子主演:ビクター音楽産業、サンダンス・カンパニー製作:東宝配給☆1990年2月公開『リメインズ 美しき勇者たち]』千葉真一監督:松竹、サニ千葉エンタープライズ、JTB、京都映画製作:松竹配給
☆1990年4月公開『病院へ行こう』滝田洋二郎監督:薬師丸ひろ子共演:フジテレビジョン製作:東映配給
☆1991年1月~12月『太平記』NHK大河ドラマ:足利尊氏役
☆1992年8月公開『継承盃』 大森一樹監督:東映製作配給
☆1993年1月~3月『高校教師』TBS・金曜ドラマ:羽村隆夫 役
☆1993年3月公開『僕らはみんな生きている』滝田洋二郎監督:松竹製作配給
☆1993年10月公開『眠らない街〜新宿鮫〜』滝田洋二郎監督:フジテレビ製作:東映配給
☆1994年10月~12月『僕が彼女に、借金をした理由。』TBS・金曜ドラマ:山野辺邦彦役
☆1994年4月公開『怖がる人々 第一話「箱の中」』和田誠監督:サントリー・松竹製作:松竹配給
☆1994年9月公開『ヒーローインタビュー』 光野道夫監督:鈴木保奈美主演:フジテレビジョン、ホリプロ、プルミエ・インターナショナル製作:東宝配給
☆1995年2月公開『写楽』篠田正博監督:西友、TSUTAYA、堺綜合企画、表現社、テレビ朝日製作:松竹・松竹富士配給
☆1995年8月公開『EAST MEETS WEST』岡本喜八監督:松竹、Feature Film Enterprise III、喜八プロダクション製作:松竹・松竹富士配給
☆1995年11月公開『緊急呼出し エマージェンシー・コール』大森一樹監督: プルミエ・インターナショナル製作:日本ヘラルド映画配給
☆1997年4月~8月『新・半七捕物帳』NHK・金曜時代劇:半七役
☆1997年7月~9月『こんな恋のはなし』フジテレビ・木曜劇場:原島修一郎役
☆1998年5月公開『D坂の殺人事件』実相寺昭雄監督:東映、東北新社製作・東映配給
☆1998年12月公開『たどんとちくわ』市川準監督:ギャガ・ピクチャーズ製作:ギャガ・コミュニケーションズ配給
☆2001年7月~9月『非婚家族』フジテレビ・木曜劇場:的場洋介 役
☆2001年8月公開『真夜中まで』和田誠監督:東北新社、電通、日本出版販売、IMAGICA製作:東北新社配給
☆2002年2月公開『助太刀屋助六』岡本喜八監督:日活、フジテレビ製作:東宝配給
☆2002年11月公開『たそがれ清兵衛』山田洋次監督:松竹、日本テレビ放送網、住友商事、博報堂、日本出版販売、衛星劇場製作:松竹配給
☆2005年7月公開『亡国のイージス』阪本順治監督: 『亡国のイージス』アソシエーツ製作:日本ヘラルド映画、松竹配給
1991年7月、JACは日光江戸村(大新東グループ)が経営することになり、そこに移りました。