Obbligato:社内報に見る「東映の支柱」⑤
「小道具さん」(社内報『とうえい』1959年6月15日発行第18号)
前回に引き続き、今回は「東映の支柱・小道具さん」を紹介いたします。京都撮影所の小道具の秋田実さんが登場、『ひばり捕物帖 自雷也小判』深田金之助監督他での小道具係の活躍を掲載しています。
大橋史典さんが制作した大蝦蟇の左横に立つ秋田実さん
右上写真:右端が秋田さん、左隣は美術デザイナー角井博さん
右下写真:真ん中が秋田さん
秋田さんも逝去されており、当時の小道具係の様子を秋田さんの後輩、渡辺源三さんにうかがいました。
渡辺源三さん
渡辺さんは1958年、小道具の先輩中岡清さんの紹介で東映京都撮影所美術部装飾課装飾係に入社します。
東映京都撮影所小道具の歴史
渡辺さんの入社時、管理職である装飾係長は松竹出身の西田孝次郎(以下敬称略)、その補佐で小川満洲治(ますじ)がいました。映画のタイトルテロップに装飾として名前が出る作品担当責任者は、佐藤彰、宮川俊夫、秋田実、甲田豊、縄田功、星益男、山崎敏夫、中岡清、松岡茂、笠井伴夫、川本宗春、それに次ぐ持道具・装身具担当者に山中忠智、山田久司、柴田澄臣、松原邦四郎、森明、大岸誠がおり、装飾見習いとして渡辺さんの1年先輩に西田忠男(西田孝次郎子息)、同輩の道畑真二といったところが装飾係の人員でした。その後、山下謙爾、白石義明、伊藤健三、藤井達也、竹田昭一などが入りました。
1960年、病気がちだった西田の後任係長に小川が就任しますがすぐに自動車部に移籍、佐藤彰が引き継ぎ、長らくその責を担います。
1964年、京都撮影所でもテレビ時代劇を製作するために東映京都テレビプロダクションが誕生すると、道畑が異動してテレビプロの装飾責任者に就任しました。
また、社員の合理化を進める東映は小川を社長に装飾会社関西美工を設立、東映やテレビプロの作品の装飾部門を下請けさせます。関西美工には、小川のほかに、秋田、山中、係長だった西田が参加、その後、新たに窪田治、長尾康久などが入りました。また東映ばかりでなく、京都映画や在阪テレビ局にも出入りし、映画やテレビの製作にも乗り出します。
1975年に映画村が設立されると、佐藤は山田、松原、竹田らと共に映画村に移りました。佐藤の後任の装飾責任者は宮川が務めます。
1988年、経営が立ち行かなくなった関西美工は解散、窪田ら若手がセットアップエイトを立ち上げますが、東映京都美術センター重役の小畑陽三の支援を受けて、50才の渡辺源三が彼らの上に立つ形で社長に就任、東映の装飾現場を請け負う有限会社創美を設立しました。創美は映画村のオープンセットの飾りつけを受け持つことで安定した収入を得て、渡辺は60才まで社長を続け、窪田治にバトンを渡して引退します。窪田の後は極並浩史が社長を務め、今に至るまで東映京都の装飾現場を支えています。
撮影所の装飾責任者は、宮川が病気で倒れた後、西田が引き継ぎ、定年後も長きにわたり装飾倉庫管理に携わりました。現在は西田に代わって辻野大(だい)が倉庫を管理しています。
装飾の仕事と倉庫の小道具
装飾が扱う小道具は大きく出道具と持道具に分かれ、作品についた装飾担当者は両方の仕事を行います。
出道具
出道具は場の雰囲気を作るのに欠かせないもので、それがないとセットはただの箱になります。箱を場に作り上げるために必要な物を調達し、飾り付けるのが装飾担当の仕事です。
現代劇では、いすやテーブル、たんすやベッド、布団、床のカーペットや敷物、カーテンなどの家具装飾品、様々な照明器具、テレビや冷蔵庫のような電気製品、鍋や釜、食器からその場に必要な数々の小物まで、シーンを作るのに必要な品物を集めて、それらしく配置することで初めて場が完成、そのうえで撮影が成り立つのです。
現代劇小道具
電飾看板
現代劇提灯
現代劇看板やパネル
現代劇小物
現代劇絵画
現代劇配達用自転車
現代劇書籍類
現代劇照明器具他倉庫
現代劇でも平成や令和が舞台のドラマに使う小道具はすぐに手に入りますが、設定が昭和時代のドラマの場合、その時代の電気製品などを手配するのは結構手間がかかることが多く、倉庫ではいつでも使えるようにその時代の懐かしい器具をあらかじめ収集保管しています。
懐かしの電化製品
また、京都撮影所の現代劇は、『科捜研の女』や『遺留捜査』など、京都府警を舞台にした刑事ドラマを数多く制作しており、他の作品でも使える小道具を整理保管しています。
京都府警関連書類
病院関係書類
京都撮影所はこれまで映画、テレビで数多の時代劇を作ってきました。小道具倉庫には、他では見られない時代劇特有の小道具、神具、仏具、提灯、お店の看板、行灯、戦国時代の背旗、米俵、炭俵や折り畳みの屋台など、様々な種類の装飾物が整理して置かれています。
神具
しめ縄
行灯
龕灯(がんどう・中にろうそくを立てて照らす昔の懐中電灯)
『子連れ狼』の乳母車と旗
座布団
様々な表札や看板類
お店の看板
お店の掛け行灯
お店の高張提灯や行灯類
食品用小道具
昔の屋台他
折り畳み出店屋台
芝居小屋の招き看板類
かがり火台
菰樽(こもだる)
戦国時代の背旗
軽い米俵
機織り機
船の帆
千両箱
切り餅(小判25枚を包んだもの)
御簾
蕪やマグロの作り物
変わったところでは撮影所で作った軽い仏像、お墓、お地蔵さん、人形なども保管されています。
仏像(作り物)
強化プラスチック製仏像の数々
リアル人形の頭
シカのはく製
発泡スチロール製お墓
発泡スチロール製お墓とお地蔵さん(苔は青のり)
別の倉庫には、飲食店が何件もできるほどの食器類が並び、昆布やいりこなども常時置いています。食事のシーンに必要な料理の数々や湯気の出る味噌汁、テーブルを飾る花など消え物も重要な出道具です。
食器棚
乾物
バー用お酒の数々
かつてはここで消え物(料理)を作っていました
時代劇らしい物としては暖簾の倉庫があります。昔から伝わる暖簾も数多くあり、昔ながらの整理方法で、いつでもすぐに取り出せるように保管されています。
飲食店用縄のれん
大量の暖簾
種々雑多な暖簾
暖簾の管理用札
撮影所の片隅に、一見、大型ゴミの捨て場のように見える場所があります。そこにある壊れた品々も実は大事な小道具です。見栄えは悪いけれど、破壊された現場などで活躍します。
小道具倉庫には様々な道具が揃えられていますが、そこに無い場合は高津商会など小道具会社から借りたり、お店で購入します。お墓や位牌、高札、写真など一品物の場合は、撮影所の職人や業者に制作発注したり、自ら作ることもよくあります。購入した物や作った物は、使い終わると再使用のため倉庫にキープされます。
ここで問題です?倉庫の隅にある、このスタンドのような機材は何でしょう?
ヒント:由美かおる 答えは最後に
持道具
持道具は俳優が衣裳以外に身に着けるもので、東映では、帽子からはじまり、ブローチ、バッジ、勲章、ネックレス、指輪、ブレスレット、腕時計、靴、武器など、時代劇では笠、刀、剣、煙草入、印籠、お守り、財布、根付など装飾品から草鞋、雪駄までそれぞれの役柄と個性に合わせたものを用意します。忍者の手裏剣や爆弾などの武具、鎧、兜なども装飾の担当です。ただし、頭巾は衣裳、かんざしは結髪が用意します。
刀剣類、笠、鎧 兜などの多くは高津商会からレンタルしています。
忍者用武器
靴物倉庫
持道具担当は俳優や監督と密接にかかわります。持道具にこだわる俳優も多く、スターシステムと言われた東映では、大スターの主演作品にはそれぞれ専属の持道具担当が付きました。片岡千恵蔵には秋田実、市川右太衛門は松岡茂、大友柳太朗には渡辺源三、中村錦之助は宮川俊夫、大川橋蔵には山中忠智、東千代之介は大岸誠などが専属として担当しました。オールスター映画などは作品担当者が出演の各大スターの持道具を手配したそうです。
『桃太郎侍』で使用した般若面
撮影所の中は倉庫と長年にわたり蓄積された小道具でいっぱいです。
問題の答え
湯船に入れてお風呂の湯を沸かす電熱器具、水戸黄門などで度々使用