133.第5章「映画とテレビでトップをめざせ!不良性感度と勧善懲悪」
第16節「東映子供向けドラマ 東映テレビプロ特撮 NET・ANB編」
1972年7月、NET系土曜19時30分枠の大ヒット番組『仮面ライダー』(1971/4/3~1973/2/10 全98話)に続く20時枠で、等身大ロボット特撮『人造人間キカイダー』の放映が始まります。
前枠の『仮面ライダー』は東映東京制作所の生田スタジオにての制作ですが、『人造人間キカイダー』は東映東京撮影所(東撮)にある東映テレビ・プロダクション(テレビプロ)の制作でした。
今回は、東撮のテレビプロで作られた子供向け特撮ドラマを紹介いたします。
① NET系土曜20時『人造人間キカイダー』(1972/7/8~1973/5/5 全43話)
当時、土曜の8時枠ではTBS系の『8時だョ!全員集合』が圧倒的な人気を誇っていました。
それに対抗したいNETは、子供層をターゲットにこの1時間枠を『仮面ライダー』の変身ブームに乗った「変身大会」と呼称をすることに決め、東映に30分番組2作の企画をオファーします。
そこで東映は、1作は石森章太郎原作で特撮ドラマ『人造人間キカイダー』、もう1作は永井豪原作で東映動画制作アニメ『ザ・デビルマン』の企画を提案。『人造人間キカイダー』は、東映テレビ部の平山亨と特撮初参加の吉川進がプロデューサーとして企画を担当しました。
メイン脚本は『仮面ライダー』の伊上勝(いがみまさる)、サブに長坂秀佳(ながさか しゅうけい)、メイン監督には北村秀敏、サブは畠山豊彦が起用され正義と悪のはざまで苦悩する人造人間のストーリーをつむぎます。
『仮面ライダーV3』立ち上げのため離れた伊上に代わり、第26話から長坂がメインライターとなりました。
造形は『仮面ライダー』のエキスプロではなく、初代ゴジラのぬいぐるみ制作に携わり『帰ってきたウルトラマン』も造形した開米(かいまい)栄三の開米プロダクションが担当します。
開米は、石森がデザインした悪の赤、善の青、左右非対称のヒーローの着ぐるみを形作りました。
技斗は擬闘集団・三島剣技会の三島一夫が担当し、主役キカイダーのスーツアクターは、三島所属の菊地敏昭を主としてジャパン・アクション・クラブ(JAC)の金田治(現ジャパン・アクション・エンターテイメント社長)や高橋健二(現大葉健二)などが交代で勤めます。
東撮にて撮影開始しますが、労働争議の影響で祖師谷にあった松浦栄策が設立した栄プロダクションのスタジオを借り、東撮に戻るまでの間はそこで撮影を進めました。
平山は、「ヒーローの条件は第1に登場時に立つ場所の高さで、2番目は印象的な決めポーズ、加えてその時に流れる音楽の3つ」と語っています。
キカイダーに変身するギターを抱えたジロー役の伴大介が、ギターの音色とともに遠くの高いところに登場するシーンは印象的でした。
ギターで登場の設定は日活の小林旭演じる「渡り鳥シリーズ」を参考にしたそうです。
キカイダーの乗るサイドカーも人気でした。
不完全な「良心回路」を持ったジローは、世界征服を狙う敵組織ダーク首領プロフェッサー・ギルの笛の音が鳴ると良心との板挟みで苦しみます。
ジローは両肩のスイッチをオンにして戦闘モードである「キカイダー」に変身しました。
「スイッチーオン!ワン、ツー、スリー」から始まる主題歌、そしてジローのギターやギルの笛などのメロディは渡辺宙明の作曲です。ギルの笛の音は当時珍しかったシンセサイザー「ミニモーグ」で作られました。
ギル役は安藤三男が演じ、髪をなびかせながら吹く不気味な笛の音は子供たちを怖がらせました。
安藤は、1968年NET系『ジャイアント・ロボ』で悪の首領「ドクトル・オーヴァ」、1974年 NET系『イナズマンF』にて「ガイゼル総統」、1975年 NET系『秘密戦隊ゴレンジャー』では「黒十字総統」など、悪の首領として好演しています。
『8時だョ!全員集合』の影響で当初低かった視聴率は、小学生の間で人気が高まったことでどんどん上昇しました。
1973年3月には、「東映まんがまつり」にてオリジナルの3D映画『飛び出す人造人間キカイダー』が公開されます。
第37話からジローの弟サブローが変身した「ハカイダー」が登場すると、一層人気がアップしました。
シリーズ終了後、海外で初の日本語テレビ局であるハワイの「KIKU-TV」で放映され大ヒット、大ブームを巻き起こします。
その後現在に至るまで、ハワイでは『人造人間キカイダー』の大ブームが何度も繰り返し興りました。
② NET系土曜20時『キカイダー01』(1973/5/12~1974/3/30 全46話)
『人造人間キカイダー』が高視聴率を獲得したことで、終了後に続編『キカイダー01』が制作されます。
メインライターは引き続き長坂が担当、メイン監督には前作に参加していた永野靖忠、畠山がサブを務めました。
主役のキカイダー01は、キカイダージローの兄イチローが変身する設定で池田駿介が、前作の苦悩する主人公とは異なる、太陽電池がエネルギーの明るい正統派ヒーローを演じました。
イチローは、トランペットの音色と共に「悪のあるところ必ず現れ、悪の行われるところ必ずゆく、正義の戦士キカイダー01!」という口上で高い場所に登場します。
この作品には、前作のキカイダーと共に新たな部隊を引き連れたハカイダーも登場します。
1973年7月の「東映まんがまつり」の中で『キカイダー01』第1話がブローアップされ劇場版として上映されました。
シリーズ半ば、ジロー役で続けて出演していた伴大介が、東映東京制作所生田スタジオ(生田スタジオ)制作の新番組『イナズマン』の主役に決定、シリーズ後半から出演回数が減ることになります。
そこで第30話から、千葉真一率いるJAC期待の新人志穂美悦子が登場。当時高校生だった志穂美はビジンダーに変身するマリを演じ、ビッグシャドウ率いる世界犯罪組織シャドウと戦いました。
「この世に花のあるところ、私は花の中から躍り出て、悪に立ち向かうのよ!」(by ビジンダー)
第37話からはマリに恋心を抱き文通もした、競争回路を持つ剣の達人の殺し屋ロボットワルダーがキカイダー01の前に出現し、番組を盛り上げます。
1974年4月からNET系金曜夜20時枠が一般ドラマに代わることが決まり、『8時だョ!全員集合』に対して健闘した変身大会枠の「キカイダーシリーズ」も終了しました。
『人造人間キカイダー』に続き『キカイダー01』もハワイで放映され、ジロー役の伴大介及びイチロー役池田駿介はハワイの名誉市民に認定されています。
また、「キカイダー」や「ハカイダー」はその後何度もリメイクされ、様々な作品に登場しました。
③ NET系月曜19時30分『正義のシンボル コンドールマン』(1975/3/31~9/22 全24話)
NETの関西系列局がシフトチェンジにより毎日放送から朝日放送に代わった1975年春、生田スタジオ制作『秘密戦隊ゴレンジャー』とともに月曜19時30分のドラマ枠にて『正義のシンボル コンドールマン』が始まります。この枠では1973年に『どっこい大作』が放映されていました。
『正義のシンボル コンドールマン』は、宣広社制作『月光仮面』や近い所では国際放映制作でヒットした『愛の戦士レインボーマン』『ダイヤモンド・アイ』の原作者川内康範が東映社長岡田茂に直接持ち込んだ企画でした。
これまで川内原作の東映テレビ特撮では、テレビプロが『七色仮面』『アラーの使者』の2シリーズを制作しており、15年ぶりの新シリーズとなります。
愛企画センターの企画で進められ、東映側は平山亨と井上雅央がプロデューサーを担当します。
メイン脚本は『愛の戦士レインボーマン』『ダイヤモンド・アイ』の伊東恒久が書き、メイン監督は『特別機動捜査隊』の松島稔が担当し、サブに奥中惇夫、時代劇の伊賀山正光なども監督しました。
JACの金田治が初めて技斗に、スーツアクターもJACが起用されます。
主役の三矢 一心役は佐藤仁哉が演じコンドールマンとなって世界征服を画策するモンスター一族と戦いました。
『正義のシンボル コンドールマン』の視聴率は12%前後と健闘しましたが、2クール全24回で終了します。
④ ANB系火曜19時『冒険ファミリー ここは惑星0番地』(1977/9/6~1978/1/24 全20話)
1977年4月、NETは商号を「全国朝日放送」(Asahi National Broadcasting)を変更、略称をテレビ朝日(ANB)としました。
この年6月に平山亨はテレビ企画営業第二部の部長に昇進。9月から平山と鈴木武幸が企画したファミリー冒険特撮『冒険ファミリー ここは惑星0番地』が、ANB系火曜19時枠にて始まります。
この枠はこれまで代理店として東映エージエンシーが担当し、玩具会社タカトクをメインスポンサーに、東映テレビ部が特撮ヒーロー作品『アクマイザー3』『超神ビビューン』、アニメ作品『氷河戦士ガイスラッガー』と続けて受注していました。
この作品は、アメリカのテレビドラマ『宇宙家族ロビンソン』や1976年にヒットしたアメリカ映画『アドベンチャー・ファミリー』を目指して鈴木武幸を中心に企画した作品です。
裏番組にTBS系『飛べ!孫悟空』、フジ系『まんが名作劇場 サザエさん』(再放送番組)など強力作品があったことや予算不足に苦しみながらも特撮研究所の矢島信男の支援で何とか全20話を完成させることができました。
1977年秋、東映制作のテレビドラマとアニメ作品は週に20番組もありました。
東映東京制作所生田スタジオで制作された『仮面ライダー』『秘密戦隊ゴレンジャー』とともに東映特撮シリーズを代表する『人造人間キカイダー』は、東撮の東映テレビ・プロダクション制作の名作です。