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最近、特にイヤな予感がする。

見えてるわけじゃないが、なんか、こう、ハサミが当たるのだ。母に、耳切らないでねと伝えるのだが、

「分かってるわよ。しつこいわね。」

と、叱られる始末である。しかし、どうしてもハサミの刃の間に耳があるような気がするのだ。




幼い頃からぼくの髪の毛は、いつも母が切っていた。

掃き出し窓の庭先に新聞紙を敷き、その上に椅子を置いて準備完了。

「早くいらっしゃい。パパパ~って済ませちゃうから。」

母は腕まくりをしてはりきるのであるが、一抹の不安を拭いけれない。なんか、こう不安が絡みつく。ここのところ、なかなか髪の毛を切ろうとしなかったのは、母の刃の餌食になる予感がするからなのであった。




毎回毎回散髪のたびに耳にハサミの刃が当たる。耳に向かって刃が向けられているように感じる。だから、いつもいつも母に注意を促していた。だが、あまりに毎回の指摘は母の気分を害するだけの効果しかなかった。今でいう逆切れである。

仕方がない。今日は黙っていよう。そうだそうだ。きっと母だって気を付けているさ。




ふふふんふ~ん♪

なんていって、その日母は上機嫌であった。しきりにハサミをシャキシャキ開閉する音が耳に障る。不安を煽る。襟足から切り始めたハサミはいよいよ耳の近くに到達。少し身体に力が入る。でも、きっと大丈夫。今日は云わないで我慢しよう。

ジョリジョリ、じょりじょり耳のすぐそばで音が響く。大丈夫であろうか。

「いつもここ、切りにくいのよね。」

おいおい、なんてこと云うんだ。こわいじゃないか。

次の瞬間、ざっくりと、髪の毛を切る音とは明らかに違う、肉を断つ音がした。

痛い!

「ごっめ~ん。アラアラ切っちゃったわね。あらま大変、結構切れちゃったわ!」




「いやだ。そのハナシやめてよ。私だって結構、傷ついてるんだから。」

家族で実家へ訪れたとき、たまたまこのハナシになった。

「ひどいもんだよ。いやだって云うのに、怒っちゃってさあ。」

傷ついているのは自分の方だと互いに主張する親子に、妻も娘も息子も涙を流して笑っている。

「絶対、耳たぶ切られるって予感がしてたんだよな。」

「だ、か、ら、次から床屋さんへ行かせたでしょ! 耳だってちゃんと今でも付いてるじゃない。まったく、あんたもオトコのくせに済んだハナシをいつまでも。」

齢50を超えても、母にとってはガキんちょ同然である。子どもの頃と同じ口調で怒られてしまうのであった。

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