料理本
結婚し新居のアパートへ引っ越すと、新妻はたくさんの料理本を持参。妻が独身時代からこよなく敬愛する、栗原はるみさんの著書をはじめとする料理の本がズラリとキッチンの棚に並んだ。
「これは、旨いものが食えるゾ」
こう、ほくそ笑んだものだ。実際、新妻のつくる手料理は大変おいしく、幸せの味を噛みしめる日々なのであった。
幸せも続くと、ついつい余計なことに目がいくものだ。
妻のつくるメニューに規則性を発見したのだ。おおむね10日間ほどの周期で、微妙にアレンジを加えつつも同じ料理が並ぶ。更に発見はこれだけではなかった。食卓へ登場するのは、判を押したように料理本一冊につき一料理のみなのである。ムクムクと湧いた、おちょくりたい衝動を抑えられず、このことを共に晩酌するほろ酔い妻にツッコんでしまった。面白おかしく話したつもりだったが、妻は少々気分を害してしまったようだ。
新婚早々よせばいいものを。まったく、オンナゴコロのわからない男である。
そんなある日、古い友人と夕飯の約束をしたとかで、妻が夜を留守にした。久しぶりの一人ごはんである。さあて今日の夕飯は刺身でも買ってくるか、などと考えながら仕事から帰宅すると、キッチンに料理本が開いて置いてある。開いたそのページには食卓に並んだことのない料理が載っていた。
あれれ、こないだのコト気にして頑張っちゃったか? 悪いコト云っちゃったな~。それにしてもなんと健気な。
新妻の奉仕ぶりにすっかりゴキゲンモード。図らずも女性に尽くされてしまう高倉健さんみたいな、モテる男になった気分である。高らかに鼻歌を奏でつつ目に入ったコンロの鍋のフタをあけてみた。
およっ?空っぽである。冷蔵庫に入ってるのかな、と見てみたが、何もない。ハテ、とふりかえると、なんとワゴンの上には開いてある料理本のレシピ通りに食材がキレイに並べてあるではないか!
こ、コレは、まさかの
「他の料理が食いたいなら自分でつくって食いやがれ!」ってコトか~。
キビシ~ッ!(財津一郎さん風)
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