こころの理屈
以前も紹介したが、我が家の炊飯は伊賀焼土鍋「かまどさん」で炊いている。「かまどさん」で炊くごはんは、大変美味しい。電気炊飯器には、ちょっとこの味は出せないだろう。是非試していただきたいものである。いつも多めに炊いたものを、四角い容器へ詰め冷凍庫へストックしておく。そうすると、レンジで温めるだけで手軽にいつも美味しいごはんが食べられるからだ。
その休日の朝、いつもよりゆっくりと起きたぼくは、「かまどさん」を火にかけるのが遅くなった。
ゆっくりした分お腹が空いてしまっていたので、炊き上がるごはんを待ちきれず、四角い容器へ詰めて冷凍してあるごはんを妻と娘とぼくの分、電子レンジにかけていた。そのあいだにも、「かまどさん」のフタに白いあぶくが溢れ湯気が勢いよく吹き出しはじめる。あとは火を止め、蒸らすだけだ。
ちょうどそのとき、当時5才になった息子も起きてきた。そして皆の朝食を見て、ぼくも食べる、と云った。
なんといいタイミング。
かまどさんに炊いたご飯は蒸らし終わり、ちょうど出来上がったところ。開けたふたを追いかけて、湯気が盛大に湧き上がる。ごはんが沸々たっている。
ずるい、息子だけ炊きたてごはん。3つ年上の娘がうらやましそうにしていた。
みんな揃ってよかったね。いただきまあす。
みんなニコニコで食べはじめたと思ったら、あれ、なんだか息子が悲しげな表情で涙を浮かべているじゃないか。ほわほわ湯気のあがる炊きたてごはんに手をつけない。
どうしたの?
「ぼくも四角いごはんがよかったのっ!」
息子がべそをかきながら訴えると次の瞬間、娘が早業師のように自分と弟のごはんをすり替えた。
「~~~~~~~~っっ!」
驚いた息子は、泣き顔を急に笑顔に変えられず何ともいえない表情。娘はすました顔で、もうヒョイパクひょいぱく炊きたてごはんを食べている。
妻と顔を見合わせ、危うく鼻から米粒が飛び出そうになった。
「心には理性ではわからない理屈がある。」と云ったのはパスカルだそうな。
ストック用に冷凍したごはんより炊きたてごはんの方がいいに決まっている、とごはんを勝手によそってしまった。でも、息子食べたかったのは、レンジでチンした熱々の固い「四角いごはん」をほぐさず、そのままの形で茶碗にのっかって湯気を立てているやつだったらしい。
ほんとうに、人のこころの理屈というものは、文字通り十人十色なのである。