こいつ…動くぞ!
ー そういえばよぉ、Yuki。ウチのパソコンは見たかい?
スタンリー(会長)が朝、不意にそんなことを言いだした。
あぁ、事務所の布が被せてある物体のことを言ってるんだなと瞬時にわかった。
ぼくが派遣されたときの要請書に事務所にはデスク、PCとWi-Fiがあると書いてあった。
へぇー、案外進んでるんだなぁと思ったものだ。
ふたを開けてみると、Wi-Fiはないし、なんだったら電気すらついてなかった(目が見えない人にとって電気はついてようがなかろうが同じなのだ)。
初めて事務所に来てあたりを見回したとき、ずいぶんと背伸びして要請書を書いたんだなと思った。想像してたより何もなかった。
デスクはあるけれど、ぼくのものと思われるものは見当たらなかった。というか2つしかなかった。PCと思われるものは部屋の片隅にあったけれど、さっき言った通り、布が被せてあって、もうずいぶん前から使われてませんよというようにホコリが被っていた。
化石みたいだ、Windowsのバージョンはいつのだろう。Vistaくらいだろうか。仮に電源がついたとしてそれは使えるという範疇にあるものだろうか。触らぬ神に祟りなしだと思って、一切に触れなかったシロモノだ。
それを急に、2~3日前のことを思い出したように2か月も経ってから言ってきた。うちにも立派なPCがあるんだぜと言いだげだった。
ぼくは、自分のPCで仕事してるから別にいらんでと言った。
ー まぁ。とりあえず使えるかどうか試してやってくれよ、せっかくあるんだから。けどまぁ…あのままじゃあかんやろうから、明日ダニーに変圧器を持って来させるよ。
と言って翌日ダニーが持ってきて、ぼくの机の上にゴトッっと置いてくれたのが、トップ画像の化石だ。なんだこれは、5㎏くらいあるかもしれない。ダンベルのようだ。工事でもするのかと思った。
10年くらい前の市販の変圧器もずいぶん大きくて重かったけれどこれはさらにそこから数世代遡ったもののように見える。
せっかくだからとPCにセットするべくホコリにまみれた布をめくり、ぼくが使う予定のPCとご対面!
お、思ったより古そうでもない。
ファビーナ(秘書)も見たことがなかったのか、あ!このスクリーン新しいやつだね、と笑顔になった。
とりあえず電源を入れてみた。
なんということでしょう。
発電機よろしくけたたましい音がしそうだと感じていた変圧器は静かで、電源もなんなくついたではありませんか!
こいつ…動くぞ!
と思ったのもつかぬ間、ディスプレイがうんともすんとも言わず真っ暗なまま。
おしいなぁと思いつつ、ついたらついたでどんなウィルスが潜んでいるかもしれないものを使わないといけないかもしれなかったので、ほっとした。どうせ最新のOSじゃないからこれからやろうとしてるGoogleスプレッドシートなんてうまく動作するかわからないから。
でも、使えた方が便利なんだろうか。
サポートされてないってどれくらい不便なんだろう?
それは、例えば会計をクラウドにしてスマホで入力する煩わしさと比べて我慢できる程度のものなんだろうか。
どうしよう、こういうのって一応修理できるならすべきなのか?
ぼくは自分のラップトップあるから別に困らないけれど、ぼくが去ったあとは、このPCしかないんだから使えるようにすべきだと思わなくもない。
ウェブサイトも会計もスマホで全部できるように組もうとしているけれど。
でもOSが古ければどうしようもない…。
デスクトップあったら事務所としての体裁は良いけれど…。
ヘンに電源ついてくれてたから余計な悩みが増えたようだ。
まあ、結局なかったことにするだろうけれど一応棚上げ、保留としよう。
気が向いたときに台湾人ボランティアのITスペシャリストに来てもらおう。
ぼくには修理できないから。
変圧器が手に入ったからわざわざ自分のものを持ち歩かなくてよくなった点を評価したい。