取り戻せないことを知って、その後のこと
みなさま、ハロウィン目前いかがお過ごしですか。こんにちは、佐光です。
藤田家住宅で行われた公演、todokeru,座興公演「誰そ彼」が終演し1週間が経とうというところです。いやー、昨年の6月以来の藤田家住宅。ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。
有形文化財である藤田家住宅は、演劇用のホールではありません。古民家であって古民家とも言い難い、とても居心地の良い邸宅です。この公演日二日間は、ここのところの秋らしい冷え込みはどこへやら、日焼け止めが必要になるくらいのお天気となりました。まさか、蚊が飛んで刺されることになるとは、蚊取り線香を設置することになるとは、想像もしていませんでした。寒かったらいけないからブランケットやカイロを!雨降ったらいけないから傘や傘立てを!なんてめっぽう見当違いでありました。
お手洗いの使用はしない(できない)ため、町の方のご協力のもと、役場や周辺施設のお手洗いをお借りするために藤田家住宅からてくてく歩いてお手洗いに行っていたのですが…その道中の暑いことといったら!確実に、日傘が必要でしたね、雨傘ではなく。会場までご足労いただいたお客様には申し訳ない限り。あと、駐車場案内をしてくれた智博くんにも申し訳なく。とりあえずビタミンCとかいっぱい摂ってもらえたらと思います。
さて、土間ではてるてる坊主がいくつも吊るされていましたが、これはチラシをいろんなところに届けてくれたふみちゃんが「作りましょうか、作ります!」と提案してくれたものでした。公演日前日に。彼女の行動力には脱帽です。今回の公演の雰囲気と相まって、なんとも意味深なオブジェになってくれましたね。こうかもばつぐんだ!
そんな猛暑のような二日間でしたけれども藤田家住宅の畳の上、廊下の上はなんだかひんやりとした空気が保たれていて、これを静謐というのかな、と感じたりもしました。
歩くたびにキュっと鳴る廊下。棚に片付けられた、平成初期のお食い初め膳一式。壁掛け時計はどれも異なる時間を指していて、背表紙の色あせた図鑑が主張せずに並んでいる。扉が閉じられたままのお仏壇。
たしかに人の住んでいた場所。いろんなものに生活が「有った」ことを感じて、涙腺やら感受性やらが緩くなってきているわたしはそのひとつひとつに勝手な懐かしさを、そして、過ぎた時間は「決して」取り戻せないという悔しさを感じていました。
ここのところ、「取り戻したい、けど取り戻せない」ことに強い悔しさを覚えています。
幼い頃の、豊かだった生活。家族に起こされて悪態を付きながら起きる朝。すればいいのにしなかった、犬の散歩。好きなだけ学ぶことができたはずなのに、バイトや恋愛に執心していた学生時代。
「こうすればよかった」「ああすればよかった」という、いわゆるタラレバは無いのですが、どれもこれも、いいことも悪いことも、一度しか訪れないのだ、という、当たり前すぎること。毎日私の目の前に現れて、後押ししてくれることもあれば甘い闇に引っ張ろうとしてきたりもします。
これに折り合いをつけるには、行動するしか無いのです。
今回の公演では「かごめ」というみなさん執筆の作品で「しーちゃん」という女子高生を演じました。しーちゃんになることはとても難しくて、作品の不気味さを伝えきることができなかったなと実感し後悔している部分はありますが、ネネさんと一緒の舞台に立ててフレッシュな気持ちで楽しめました。オジギソウの棘に指が刺さってしまうシーンがあるのですが、何度かほんとに刺さったり、「籠」という漢字を間違えて覚えていたことに気づいたり、いろんな発見がありました。
さて以前劇団まんまるに所属していた際、これまた当時所属していた大木さんが旗を振りみなサンとともに江戸川乱歩の作品を上演したことがありました。大木さんとみなサンのコンビネーションというのはこれまた奇妙で。台本をご覧いただくとわかると思いますが、お二人の執筆スタイルは全然違うんですよね。でも同じ血が流れているような不思議なタッグ。なかなかtodokeru,だけでは創ることのできない舞台となりました。観客席から観たかったです…!
そして歩く日本人形と評されていたはっちんさん。舞台歴の浅い面々にアドバイスをくれたり、舞台裏では緊張する面々に活を入れてくれたりするあたたかな人間力…ご一緒できるだけでも嬉しいのに、そんないわゆる「推し」が人物的にも素敵すぎることを目の当たりにしてしまい、目を合わすことも恐れ多いような気持ちになってしまいました。いろんな恵みをくださってありがとうございました。写真撮れる時間は至福のひとときでした。写真も動画も何度でも見返せるので本当文明の時代に生きていてよかったなと思っています。あれ、なんか途中からちょっとおかしなこと書いてますがお気になさらず…
制作関連ではスケジュールどおりに行かないものが多くヒヤヒヤしたことも多くありましたが、結果満席のお客様にお芝居をお届けできる結果になりホッとした…というのが正直なところです。もう少し試してみたいこともいくつか有りましたが、ソフト・ハードいずれもキャパシティ的にはちょうど良かったのかも。それもこれも、新入団員の藤井くんはじめスタッフのみんなのおかげです。先日の反省会ではそれを特に強く感じました。
当日は、みなサンや与力さんも受付周りをお手伝いしてくださって非常にありがたかったです。私が演劇に関わり出して一番驚いたところは制作をはじめとした運営業務や会計業務、そもそも団体運営に関わるさまざまなことが明文化されていない(共有されず属人化し、ブラックボックス化している)というところだったので、少なくとも私の担当についてはできる限り引き継ぎも容易にできる形にしておきたいなと思っています。
1歳児の育児、家事(ほとんど夫がしてくれましたが)、今後の転居について、自身の身体のこと、毎日の仕事、いろんなことが重なり合ってそこそこに忙しい数ヶ月でした。稽古時間も他の劇団員ほど取ることができず申し訳なかったとともに、サポートしてもらえて感謝しています。
同時に、私は蛸ではないと実感したので、とりあえずわらじは一足に絞ることにいたしまして、次回はもうちょっとバランスの取れた関わり方をしていければと思っています。あれ、なんか毎回言っているような…。
さて数日前、天気が良かったので朝から床を拭いていたら、娘も隣に来て拭くのを手伝ってくれました。なお、全然拭けていません。日々階段を掃いていると、箒を持って掃き掃除を手伝ってくれます。埃は飛び散っていきます。ぜんぜん、できていない。ぜんぜんできていないのだけれど、隣で同じことをして、助けようとしてくれているのがとても嬉しいのですよ。嬉しいと思えるようになっていたのですよ、私…。
このままそうありたいし、それに気づけるような人物でありたいなと思いました。
また、アンケートをはじめとしたご感想を拝見する中で、この日を楽しみに過ごしていたのは役者陣だけではなくてお客様もそうなのだ、ということに本当の意味で気づくこともできました。
楽しんでいただけたのだろうかと不安にもなりましたが、カーテンコールの時にお客様の顔を見て笑顔が多いと本当にホッとしたな、と。
しばらく小休止…といきたいところですが、そういうわけにもいかなそうです。まずは、配信版の販売開始!
なんと、「だるまさんはころんだまんま」の夏美を与力さんが演じてくださってます。2度美味しい公演となりました。
鵺さんが収録してくれた映像たち。いま一所懸命編集しているところですのでお待ちくださいね。そしてお求めくださいませ。
それではまた!
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