実質GDP成長率の下方改定、前年比で見てみると…~2023年4-6月期(2次速報)
昨日(8日)、内閣府が2023年4~6月期の国内総生産(GDP)改定値を発表しました。昨日の日経夕刊は、季節調整済み前期比の変化を示しています。ただし、この変化には、GDPを推計するための基礎統計の改定、季節性を取り除く作業(季節調整)のやり直しなど複数の要因が含まれています。これまで同様、前年同期比の動きに注目してみましょう。
前年同期比で見ても、はっきりとした下方修正
下記のnoteで書かせていただいたように、先月公表された速報値の段階では、4~6月期の実質GDPの前年同期比成長率は2%で、1~3月期と同じでした。しかし、改定後は1.6%(小数点第2位以下まで示すと1.552‥とギリギリ1.6%)と0.4ポイントの下方改定となりました。前期比年率で見るのと同様に、はっきりとした下方改定と言え、実質GDPの前年同期比成長率は1~3月期から減速しているように見えます。
設備投資以外にも下方改定要因
日経の記事と同じ項目で、実質GDP(前年同期比)の下方改定の要因分解をしてみましょう。
まず大きな分類でみると、民間需要の寄与が0.3ポイントの下方改定(速報値:0.6%→改定値:0.3%)です。この主因は、記事でも注目している設備投資の下方改定0.3ポイント(速報値:0.5%→改定値:0.2%)です。このほか、個人消費も下方改定されました。
一方、民間需要に負けず劣らず下方改定に寄与したのが公的需要です。公的需要の寄与が0.2ポイントの下方改定(速報値:0.3%→改定値:0.1%)でした。政府消費と公共投資の寄与がともに0.1%ずつ下方改定されました。
公的需要が改定される理由
設備投資が改定されるのは、記事でも書いてあるように速報値の段階では未公表の「法人企業統計季報」(財務省)の情報が加わるためです。では、公的需要はなぜ改定されるのでしょうか?
内閣府の公表資料から割とはっきりわかるのは公共投資です。公共投資の推計には「建設総合統計」(国土交通省)が用いられていますが、速報値の段階では当該四半期の最終月(4~6月期であれば6月)の実績値が公表されていません。そこで、他の統計などを用いて最終月の値を予測(補外推計)し、公共投資の速報値が推計されています。改定値では「建設総合統計」の実績値が揃うので、上記の予測のズレの分だけ改定されることになります。
一方、政府消費は、速報段階では内訳の情報がわからないので推測するしかないのですが、私は政府消費に含まれる医療や介護の保険負担分の推計ではないかと思っています。この推計には、「基金統計月報」(社会保険診療報酬支払基金)などが用いられていますが、GDP速報値の段階では公共投資と同様に当該四半期の最終月の実績値が公表されておらず、予測(補外推計)せざるを得ません。
「基金統計月報」の情報は、第3次産業活動指数の「医療・福祉」推計にも用いられております。コロナ禍に入ってから、この「医療・福祉」の活動指数の改定が大きくなっており、政府消費にも影響を与えているのではないかと私が推測する理由です。詳しくは、下記のリンクの論考をご覧ください。
行政のデジタル化で解決できないんですかね?
公共投資の推計は、速報段階では「建設総合統計」(国土交通省)の情報が用いられている一方、年次推計では決算データが用いられています。このため、私の2017年の論文「GDP速報改定の特徴と、現行推計の課題について」で書かせていただいたように、速報から年次推計への改定も小さくありません。私は速報段階から国や地方自治体の月次決算(せめて四半期決算)データなどを使えないのかと申しておりますが、6年経ったいまも何も変わっていません。
前職の日本経済研究センターで一緒に仕事をさせていただいたこともある、日本総合研究所の石川智久調査部長が最近書かれた下記のコラムでは、米国の予算執行データのリアルタイム把握(USAspending.gov)が紹介されていました。日本でも同じことができないんですかね?行政のデジタル化が叫ばれておりますが‥‥