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三越のショップバッグで何とかなった話

大学を卒業し、当時付き合っていた彼と結婚を考えていた時期に、彼のご両親に挨拶をしに行くことになった。

彼は地方(人口でいうと40万人ほどの都市)の出身で、親族同士のつながりがとても強い地域だった。


彼の実家に2泊3日で宿泊させてもらう予定だったので、何かしらの手土産をもっていかなければならない。

それならばと「東京でしか手に入らない」物を探していた。

江戸切子のペアグラスがいいか、食べ物/飲み物なら東京で作られた焼酎なんかもいいか。人形町あたりの和菓子もいいかもしれない。

そんなことを思い悩みながらも、両親の好みなんかを聞いておこう、と彼に相談を持ち掛けたのだが、彼はこう言った。


「三越か伊勢丹の袋に入ってれば何でも大丈夫だよ。」


あいにく当時の私には地方出身の知り合いがほとんどいなかったので、半信半疑だった。彼に理由を聞いてみると「三越とか伊勢丹とか、有名なデパートで買い物をすることが”ステータス”なんだよ」とのこと。彼の実家がある都市にはデパートがないので、車で数時間かけて最寄りの大都市まで出かけてデパートで買い物をするのだそう。(そのデパートで買い物をした帰りに近所の人に自慢をするところまでがセットらしい)

もちろん東京でも名の知れたデパートではあるし、三越や伊勢丹は私自身も利用しているので信頼は置いているのだが、そんな信仰があるなんて信じられなかった。

本当にそれで大丈夫なのか不安になり、彼に何度も確認したが、それでも彼は「三越か伊勢丹で買ってほしい」と何度もお願いしてきた。


何だその見栄の張り方は、と思いつつも、三越で、無難な洋菓子と東京限定の焼酎を購入した。



彼の実家に到着し自己紹介をし、ついに手土産を渡す瞬間。


彼母「あら~、三越じゃない!嬉しいわ!センスあるのね!」


本当だった。本当にそこには「三越信仰」が存在した。

中身について私が説明するも、最終的には「お買い物は普段から三越でしているの?」「おうちから三越は近いの?」など三越関連の質問しか聞かれなかった。

せっかく東京でしか買えない焼酎を買ったのに、目もむけられずに、その焼酎はキッチンの奥のほうに追いやられた。悔しい。


三越のショップバッグのおかげか、幸いにも彼のお母さんとはうまくやれた。

正確に言うと、

・三越で買い物をする人

・東京で働いている人

・東京出身で東京育ちの人

だということにとても興味を持ってくれているようだった。

3日間の滞在中に、私が少し珍しい発言をすると「東京ではそれが普通なのね~」と目を輝かせて言われることも数回では足りなかったし、彼の親族が実家に私を見に来たこともあった。

最初のうちは「東京に興味を持ってくれている」ということに少しうれしさも感じたが、だんだんと「東京というステータス」だけが大事なんだということに気づかされた。


(帰りの飛行機で「この人と結婚すると大変そうだ」と思ったし、それはあながち間違いでなかったと翌年確信することになる)



もしこれから地方出身の彼の実家に挨拶をしに行くなら。

手土産は三越か伊勢丹で買うことをお勧めする。


(三越も伊勢丹も愛用していることを念のためここに追記しておく)

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