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宝箱の開け方 ~Lighthouse~

宝箱の開け方
~Lighthouse~
2014年3月9日(火) 14時~17時

 今年2月から南相馬市小高区で、「さとのば大学」の地域留学生が滞在しながら学んでいる。今回の学生は3人、うち2人は大学生で1人は社会人だ。滞在期間は1月ほどで、今週いっぱいで小高区を離れる彼ら。話を聴いてみると、非常に学びの多い、濃密な時間を過ごしてきたそうだ。あまりに学びが多く「整理がついていない」と話す彼ら。せっかく小高区に来てくれたのだから、きちんとした「お土産」を持ち替えってもらい、自宅に帰った後も学びを活かしてもらいたい。
 というわけで、この街で学んだ事を、家に帰った時にどう活かすか、一緒に考えるワークショップを開催する事にした。
 ワークショップのタイトルは「宝箱の開け方 ~Lighthouse~」。滞在期間中に得た「宝物」のような学びを、どのように扱えば良いのかを知る事をゴールにしたワークショップだ。

1. フレームワーク「KPT」で振り返り

 事柄を振り返る際、よく使われる「KPT(ケプト)」という手法でフレームワークを行う。ケプトとは、「Keep(続けていきたい事)」「Problem(変えていきたい事)」「Try(新たに取り組みたい事)」の頭文字を取った呼び名だ。今日はこのフレームワークに少し手を入れ、それぞれの項目を「持ち帰る『宝物』」「『妨げ』になるもの」「どんなあなたになるか」としてみた。そしてそれぞれの項目で、思い思い付箋に思いついた事を書き込んでもらい、貼り付けていくという方法で、ワークを進めていく。
 まず「持ち帰る『宝物』」について。これは、この街で学んだ事や経験のうち、どのようなものを大切にしたいかという問いである。3人とも各々、南相馬で体験した経験や出会った人から聞いた事、感じた事などをあげていった。例えば「内省力」「シェアハウスでの経験」「他人を知る面白さ」といった項目が挙がっている。
 次に「『妨げ』になるもの」という問いを立てた。これは、この街で得た宝物を、自分の待ちに持ち帰り実行しようとする時に、何が実行の障壁になるかという問いである。これに関する応えは「コミュニティーの希薄さ」「地元に対するネガティブな感情」「日々の仕事の忙しさ」などが挙げられた。
 最後に「どんなあなたになりたいか」を問うた。これは、宝物を活かしつつ、障壁になりそうなものも感じつつ、目指したい自分の姿はどういうものかという問いだ。これには「やりたい事を仕事にしていたい」「自己肯定感を高く持ちたい」「地震と責任感をしっかり持った自分になりたい」といった答えが並んだ。
 ここまでのところは、とにかく項目を挙げてもらう事を優先した。事前にヒアリングをしたところ、先にも書いたとおり、学んだ事がとにかく多いという話があった。整理する必要が有ると感じているという話を聞いていたので、項目を挙げてもらった上で改めて見直していこうという意図だ。このフレームワークの終盤に、挙がった項目のうち幾つかを掘り下げ、それぞれどんな傾向の項目が挙がっているかを話してもらった。それぞれ「○○さんの挙げた項目は事柄に焦点を充てたものが多いね」「○○さんのは内面の変化が多いね」といった話が出た。参加者それぞれ、どういった事を胸に秘めて、さとのば大学に参加しているかというところで違いが出ているようだ。大学生2人は、より「心のありよう」に焦点が当たっているようで、社会人の1人は事象を冷静に捉えて分析するという傾向が感じられた。とはいえ全員、とても素直に自分と向き合って項目を挙げていて、人の挙げた項目も、ありのままを受け入れている印象だ。


2.サークルをつくってダイアログ
 15分ほどの休憩の間、付箋を貼り付けた模造紙をホワイトボードに貼り、展覧会スタイルで眺めてもらい、自分の挙げた項目と他の参加者が挙げた項目をじっくり眺めてもらった。その後、模造紙を囲むようにして椅子を円形に配置し、模造紙を眺めながらのダイアログ(対話)を行った。それぞれの項目についてじっくり話してもらうためである。このダイアログの輪の中には、威圧的にならないようにするために、ファシリテーターも加わった。従って、ファシリテーターもダイアログに加わるという事になる。
 特に「『妨げ』になるもの」の話をした際は、自分の故郷や自分の住んでいる街が、魅力的に見えていないという事が浮き彫りになってきた。この街に来るまでの生活からは、ここで体験したような「人との繋がりを感じる」事や「大人が楽しそうに自分の事業に取り組んでいる」事などは目の当たりにしてこなかったという。「自分の意見を出さないようにし、楽しさを感じる事もなかった」「日々の忙しさの中、こういう視点を持った事が無かった」という胸の内の吐露もあった。コロナ禍の影響で大学のキャンパスに通う事が無くなり、自宅に籠りっきりの生活で、日々何も出来ずに過ぎていったという話も。
 そうした話の中、「この街にある魅力と同様のものが自分の街にもあるだろうけど、見えていなかったのかも」という意見が出てきた。それは日々この街で様々な体験をしていくうちに立てた「仮説」だという。その話が出たところで、改めて「この街とあなたの街は、本当に違うのかな?」と問うてみた。すると「この街では色んな人に声をかけていたけど、地元ではそんな事していなかった」「地元では面白い人やコミュニティーを、探していなかった」といった話が出た。そんな中で「もしかしたら、行動すれば違うものが見えるのかも」という「新たな仮説」が出てきた。そして「帰ったら声かけしてみようかな」「今のモチベーションを維持したまま帰って、人との関わりの楽しさを探してみようかな」という意見が出てきた。
 この変容は非常に興味深い。どちらかというとネガティブなイメージがあった自分の街でも、探せば宝物が見つかるかも知れないという事に気づいたのだ。彼らはこの街での体験を通じ、その事を何となく感じていたのだろう。今日のダイアログで、それが顕在化した(あるいは顕在化しかけた)という事だ。これが「パラダイムシフトの瞬間」かも知れない。と同時に、「視点の変化はこれからの体験を通じ、少しずつ起こっていくと思う」という意見も出た。彼らの中で完全なパラダイムシフトが起こるには、もう少し時間と経験が必要なのかも知れない。いずれにしても、パラダイムシフトの萌芽は見えた。そこで「将来なりたい自分の姿」を「Lighthouse(灯台)」になぞらえて「自分のLighthouseを見つける事が、自分の今の行動を導く」という話をした。目指したい自分はなかなか見つけられないという抵抗感はあったが、「ゆっくり見つけようと思う」「迷ったら誰かに頼ってみようと思う」「この街で頼れる人を見つけておきたい」という意見が出ていた。


※まとめ
今回のワークショップのゴールは、彼らが「この街で得た知見や経験を、自分の街に帰っても持ち続けられるという気持ちになっている」事だったので、おぼろげながらもゴールにはたどり着いた。チェックアウトの時、「経験が整理出来た」「帰ったら行動してみようと思った」という言葉が出たところからも、それは感じられた。「参加して良かった」という感想も、全員から貰えた。彼らには、ここで得た「宝物」を活かした生活を、自分の街でも送って貰えたらと思う。そして、機会があったら是非、またここに遊びに来て貰いたい。
~終~

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