ダイアログインタビュー ~市井の人~ 若松真哉さん「愚直に人と関わる」4

――若松さんって、商工会青年部であるとか、消防団だとか、地域の色々な活動に参加してますけど、何でそういう活動をやってるの?

若松 ぶっちゃけた質問ですね(笑)。何でやってるんですかね。きっかけは前の会社の上司に言われた事です。「あ~ぁ……地元に帰ったら、色んな組織に入んなくちゃなんないのかなぁ~メンド臭いなぁ。」と言ったら、その上司に「馬鹿野郎! 地元に帰ったらやんなきゃダメなんだよ!お前みたいなのが帰ると田舎がもっと廃れる。会社、辞めるの、止めろ! 」と怒られましてね。地域には色んな組織があります。考えてみると、そんな中で絶対に無くならないのって、商工会青年部と消防団だったりするんですよ。うちの親父もじいちゃんもそうした活動をやってたんです。そうなると、「息子がやらないのも変だろ?」という世間の目もあって(笑)。もともとはそんな単純な理由です。地域に入るって、メリットもデメリットも色々あるんですよ。地元で取引先から信頼されるには、色々なボランティアをやったり、催事の時に他の会社の手伝いをしたりなんかして、「次は何か良い条件で世話してあげようかな。」みたいな関係をつくることが大事なんですよ。これってお互い様な、持ちつ持たれつな関係だったりしますしね。長らく続く関係の中には、そういう要素が散りばめられてるんです。

――地域の活動はお互い様だし、そうした活動をする事で人づきあいが滑らかになる……大きなメリットですね。潤滑油のように作用すると。

■ やはりそうだ。東京でのサラリーマン時代に身についた「泥臭く地道に人間関係をつくっていく」という方法論を、この地域に合わせたやり方で行っているのだ。どうやらこの事が、若松さんとの話のキーワードになるようだ。


若松 なりますね~潤滑油に! 特にこの地域は、人の流動性のないところなんで……。

――流動性?

若松 「人の出入りのない地域」って事です。だから、慣れた人同士で「なあなあ」な感じになる……んですが、そこに目くじら立たなくなる……と。何かやらかしても「まぁしょうがない」で済んじゃう(笑)。震災の時は、消防団の活動なんかで、消防署の職員と一緒に海岸の方まで行って活動して、一緒に大変な思いをしたりしてるわけですから、そういうなあなあな感じも生まれますよね。

■ ちょっとここで解説が必要だと思うので口をはさむ。ここで若松さんが言っている「なあなあ」な感じという言葉は「馴れ合い」的な意味では無い。「馴れ合い」と言うより「ツーと言えばカー」という意味が強く込められている。この文章をご覧の皆さんには、人間関係が強くなる事で生まれる一体感を指して「なあなあ」という言葉を使っていると思って頂きたい。若松さんは単語のチョイスが独特で、一聴すると後ろ向きに聴こえるような言い回しも、そうではない場合が多い。
 

――一方で「デメリット」ってなんですか?

若松 やっぱり時間を取られる事ですね! 私、鹿島区の商工会青年部の部長だけじゃなく、相双地区の商工会青年部の会長もやってるんですよ。そうなると会合も多いし、その会合に向かう移動にも時間を取られてしまう。うちのような家族経営の小規模事業主には、仕事をする時間を削られてしまうのはなかなか大変なんです。

――そんな中で、今日は時間を取らせてしまってごめんなさい

若松 あ! いやいや良いんですよ! こういうインタビューも、なかなか無い機会ですし。

――思う存分語ってもらって良いですよ(笑)。

若松 私は「地域への思い」みたいなものはぼんやりしてますね。それに、「変化しなくちゃならない」事はみんな分かってるんですよ。ただ「変化」って大変なんですよ。お金も時間もかかるし。「こうすればいいじゃないか」という提言はたくさん頂きますけど、「言うは易し、行うは難し」だと、ここ三~四年で感じました。

――「提言」ですか?

若松 「この街をこうしましょう」とか「若松さんこんな事すれば良いじゃないですか」みたいな事を提言されるわけです。とはいえ変化って良い面と悪い面があると思うんです。光ばかりに目を向けて「変化」という人が多くて、歴史的背景やマーケットみたいな部分に目を向けて「変化」と言ってる人に、私はあんまり出会った事が無い。出口ばかり見て使ってる感じかな「変化」という言葉をね。

■ 恐らく、震災前からこの「変化」という言葉はこの地域ではキーワードになっていたのだろう。それが震災をきっかけに、更に頻繁に使われるようになった。その事に対して憤っているような、簡単に「変化」と口にする事に対する強い抵抗感があるような、そういう感じがこの時の若松さんからは伝わってきた。愚直と形容したくなるほど、泥臭く人間関係を築いてきた若松さんならではの「変化なんてそんな簡単なモンじゃない! 」という気持ちの表れだったのだろう。若松さんの言葉は、それだけ濃密な実体験から発せられているのだ。変化の必要性を知っているだけに、「きちんと覚悟をもって『変化』という言葉を使いなさい」……若松さんは、そんな風に言いたいのかもしれない。それにしても、確かに最近「変化」という言葉は軽く扱われ過ぎているかも知れない。ここまでの話で、私自身もそんな事を考えさせられた。


――何か特定の事柄を指しての話じゃなく、一般論としての「変化」の定義かな今の話は?

若松 そうですね。例えば「もっと良くなればいい」みたいな漠然とした事はよく言うけど、「良くなる」って、みんな違うじゃないですか定義が。

――例えば「こんな街にしたい」みたいな事での「良い街って一体何? 」みたいな事ですね。

若松 そうそうそうそう! 年齢によっても違うし。

■ 確かに「変化」と一言で言っても、万人が納得するような「変化」は難しい。年齢や住む場所、就いている仕事など、様々な違いがあって、それに応じて「変化」に対する評価も変わる。場合によっては「変化」そのものが望まれない事もある。若松さんの感じている「変化の難しさ」は、サラリーマン時代の経験や、老舗を経営している現在の経験から培われた、「変化」という言葉を軽々しく使う事への抵抗感そのもののように感じられた。

~続~

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