ダイアログインタビュー ~市井の人~ 若松真哉さん「愚直に人と関わる」7(最終章)

若松 何でもそうですけど、事前準備から最後の閉めまで一通りやってみないと、反省すら出来ないですよね。

――失敗も含め、そういうオペレーション全般も色々と試しながらやってるんですね。

若松 うん、商売って「看板の角度がどうだ」で全てが決まるようなものじゃ無いですから。

――商売の場合は、走り出したら軌道修正も出来ないような事も結構有りますからね。

若松 人員体制だとか、商品以外の部分もしっかり足場を固めておかないと、祭りの出店ですら出せない。何事もそうだけど、口だけではなく、仕込から片付けまで全部やってみて経験しないと、学びは得られないなと感じてます。

――震災以降の五年間で色んな学びがあったと思うんだけど、一番大きな学びって何ですか?

若松 いや、今現在学びの最中ですね。「学び続ける事」が一番の学びです。人間は学び続ける必要があるんだなと、最近全国で続いた災害と最近読んだ本から教わりましたね。常総市の水害の時に現地に行ったんですけど、その時現地には、我々が東日本大震災から学んだ学びを欲してる人もいたんです。それに去年の秋に南相馬で大雨が降って、川が決壊しかけた時、「避難所の開設といった対応が遅い」と私は感じたんで、行政機関に素早い対応を申し入れたんです。そしたら、今回の台風の対応は早かったじゃないですか(このインタビューの前日は台風で大荒れの天気だった。南相馬市でも早々に避難所が開設され、一部の地域には避難準備情報が出された)。そういう事が「学び」だと思うんです。改善出来る事は常に刷新していかないと。

――災害の経験からも商売からも、同様に学びはあると。災害からの学びから商売の学びも得られるし、その逆もあるという事ですかね。

若松 そう、止まっちゃいけないんですよ! 常に学び続けて、刷新していかないと。「指針」や「座標軸」って、時代によってどんどん変化していくものじゃないですか。その一方で、ぶらしてはいけない事もある。「変化していく事」と「ぶれない事」を、事柄に応じて同時進行でやって行く必要があると。これ、本に書いてあったな(笑)。一見相反する事をやって行く必要があるなと思います。

――「ぶれない事」と「変化していく事」か。そうかも知れませんね。

■ この話が出た時点で時間が到来した事もあり、インタビューを終えた。「ぶれない事」と「変化していく事」という部分を大事にしていこうという姿勢は、この日若松さんが話してくれた、特に東京で働き始めて以降の若松さんの歩みからも、なるほど確かに感じ取る事が出来る。「時代やマーケットの変化に対応すべし」という商売に対する姿勢や人付き合いに関する工夫、震災以降年々変化させているという「地域との関わり方」といった部分に、「変化」の姿勢を見て取る事が出来る。その一方で、人との信頼関係を愚直に築こうとする姿勢や、経験の積み重ねでノウハウを少しずつ築いていく姿勢などから感じ取れるのは「ぶれない」事への強いこだわりだ。
ところで、冒頭に記した「若松さんの持つ独特な雰囲気」が、どこから発せられるものなのかだが…もちろんこのインタビューだけで全容を知る事など出来るはずもない。だけど、その一端を垣間見る事は出来たように思う。東京でのサラリーマン時代に経験した「シビアなビジネス」と、この地域で経験した「ビジネス以外での人のつながりの大切さ」が混ざり合ったハイブリットさを強みに持っているところから、若松さんの雰囲気は生まれているのだ。
実はこのインタビュー中、若松さんの口からは頻繁に「なかなか難しい」「そんなに簡単じゃない」「厳しい」という否定的なニュアンスの言葉が発せられていた。だけど、そんな否定語を発している当の本人の行動は、決して否定的でも後ろ向きでも無い。この事はある意味二律背反と言える。正直に言うと私はインタビュー中、この相反する事柄に戸惑っていた。そこを掘り下げるには時間が足りなかったが。インタビュー時の「戸惑った私」がそこを掘り下げ始めたら、インタビューの終了時間はおそらく深夜になっていただろう。
だけど、実は単純な事だったのかも知れない。前述した「なあなあ」という単語の意味するものを記したクダリと同じで、若松さんはこうした否定語を否定的な意味合いで使っていないのだ。人の想いは複雑な経験から出来上がっていて、必ず一つの傾向を指し示すものでもない。若松さんは「難しい」と言葉に発しながら様々な事に取り組む事で、自分を戒め、そして律しながら歩みを進めているのかも知れない。様々な人の想いや経験を本や体験談で学び、その学びを道標としながら、その時その時ですべき事を見定めて進んでいるのだろう。
時に失敗もしながら、着実に歩みを進める若松さんを見ながら、そんな事を思った。

~了~

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