ダイアログインタビュー ~市井の人~ 井上禄也さん2
◎勝てない喧嘩はしない
――今の場所に工場を出す前には、もっと街場の方に工場があったんですよね(原町区上渋佐にある現在の本社と工場は、平成14年に移転して作られた) 。
井上 そうそう、以前は本町 (原町区の市街地にある地名)にありました。僕が今43歳で、31歳の頃からアイスの製造を始めたんで、今の場所でアイス製造をするようになって12年目ですかね。
――じゃあアイスまんじゅうって割と最近作り始めたんですか?
井上 いえ、アイスまんじゅうは工場移転前から製造している商品で、もう60年くらい作り続けてます。
――そんなに! 凄いですね!
井上 そう。あれは凄いんですよ。作ってる本人が言うのもなんだけど(笑)、あれは南相馬のソウルフードと言われてます。僕の爺さんが創り出した商品でして。で、僕はそのソウルフードを受け継いで維持する立場に立っちゃったわけですよ。これがまた結構面倒臭くて(笑)。手作りですから数が出来ないし、機械で作るものと比べて衛生管理も難しいですし。「手を抜けない」んですよ。手作りっておっかないですよね。
――そういう手間がありつつも、手作りにこだわってる理由って何かあるんですか?
井上 理由は単純で、機械化に投資が出来ないんです(苦笑)。
――なるほど(笑)。でもそれも重要なポイントですからね。
井上 手作りの方が良いのかというと…どうなんだろう。売り先が無ければ手作りで作るレベルの生産量にならざるを得ないし、あれを機械化して、全国展開している大手のメーカーと喧嘩する必要があるのかなと思いますし。うちのアイスまんじゅうは他社で作っているものより硬いんですけど、むしろそういう少し尖った特徴を生かしていく方が、大手メーカーと勝てない喧嘩をするより大事だと思うんです。
――そうですね。そういう尖った部分を持ってるからこそ、南相馬の人たちは松永牛乳のアイスまんじゅうを他地域の人に自慢出来るわけですしね(笑)。松永牛乳製以外のアイスまんじゅう食べてると、南相馬の人から怒られますもん(笑)。
井上 僕もたまに食べますよ(笑)。新商品が出た時なんかは。アイスまんじゅうも他メーカーから色々な種類が出てますからね。チョコレートアイスまんじゅうとか。そうなると、まぁ勝てない喧嘩はしないほうが良いんで。
――そうなんですか? 知りませんでした。
■ 存続していくためには、必ずしも競争で勝つ必要は無い…話を伺っていて、そういう事なのかなと思った。しなくて済む競争はしない、むしろ自分の得意な部分を武器にしていけば良い、その得意な部分が松永牛乳にとってのアイスまんじゅうであり、アイス製造のノウハウなのだ。今の松永牛乳は、長年かけて培ってきたその得意を良く活かしているなと、とても強く感じる。
~つづく~
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