ダイアログインタビュー ~市井の人~ 梅田守さん「この街で暮らす『芯』とは」3
◎この街に戻ってみて
――梅田さんは今、いろいろ地域の活動に参加されてますけど、こっちに帰ってきてすぐにそういう活動に参加されたんですか?
梅田 いやいや! この会社には一兵卒の営業マンとして入社したんで、営業マンとして必死でしたよ。仙台にいた頃はそこそこの成績も上げていたし、ここ鹿島は地元だという事で、地の利もある、知り合いもいるという安心感もあり、最初は少し安易に考えてた部分もあったね。そこが大間違いで、仙台にいた時よりも厳しかった。
――厳しさの理由は何だったんですか?
梅田 絶対的に人口が少なく、市場が小さいというところだな。お客さんのご来店がほとんどない地域ですから、既存のお客さんをしっかり守っていかなくちゃならない。そういった事に気づけたのが、戻ってきて1年くらい経ってからかなぁ。
――「市場規模が小さいから、既存のお客さんを大事にする」ですか。確かに新規客を追いかけるのは難しい地域でしょうね。
梅田 その辺に大きな戸惑いがあったね。「こんなはずじゃなかった」みたいな。それから考え方を変えて、既存のお客さんのフォローと、お客さんからの紹介をして頂いたりというやり方で、お客さんを増やしていこうという事に力を入れました。
――考え方が変わったきっかけは、何かあったんですか?
梅田 「待ち」の商売では成果につながらない、こちらから行動しなくちゃならないという事に気づいたところで、戻ってきて一ヶ月くらい経った頃、当時の鹿島って世帯数が三千六百世帯くらいあったんだけど、二か月間で千五百件くらい、チラシと名刺を持って飛込み訪問をかけてね。訪問先にある車のナンバーと車検の時期を調べて、それを一冊のノートにまとめて……千五百件廻って、成約頂いたお客さんが三件だったかな。そういう経験をした事で初めて、初対面のお客さんに対しても物おじせずにお話が出来るようになったかな。
――私も飛込み訪問の経験はありますが、飛込み訪問って、モチベーションを維持するのが大変じゃないですか。そのモチベーションを維持できた理由ってなんだったんですか?
梅田 誰かにやれと言われた事じゃなくて、自分でやると決めた事だったし。それにやってみると、自分の町なのに、初めて通る道があったり、初めて出会う人がいたりといった気づきがあったりしましたね。何とかしなくちゃならないという気持ちもあったし。ただ、今思えば……その当時も既存のお客さんが千二百件くらいあったのかな。そのお客さんを、時間はかかっても一件一件訪問した方が得策だったかな(笑)。後悔ではなく飛込み訪問をした事でそのことを学べたという風に思うね。
――そういう「日々の行動から学びを得る」というのは大事ですね。そうしたご自分の日々の活動から、地域貢献活動に携わるようになったきっかけは何だったんですか?
梅田 私が戻る前から、会社として地元の野球大会のスポンサードなどをしていて、先代から地域貢献の活動はしていました。私も、仕事を通じて、地域や社会に貢献出来ないかなという気持ちは持っていたんだけども、実際には営業を離れて、管理職という立場になってから、その意識を強くしたかな。市場が小さいだけに、地域密着型の商いは常に意識する必要があるし、極端な言い方をすると、地元のお客さんから仕事をいただき、地元のお客さんから給料を頂いてるんだという気持ちは、絶対に外しちゃならないなという思いがあります。
――営業マンとしての目線ではなく経営者になられてから、地域社会のかかわりを重視する姿勢にシフトしていったんですね。それは仕事を始めてどのくらい経った頃のことなんですか?
梅田 う~ん……三十代後半から四十代前半くらいのタイミングなじゃないかなぁ。割と最近になってからだね。
――それこそ震災前十年くらいですか?
梅田 大体そんな感じかな。そんな考えにシフトしたのはね。
――相双倫理法人会(「倫理」をみんなで学んでいく相双地区の団体。梅田さんは、この団体の幹事をしている)や、ボランティア活動へのかかわりなども出てきたんですか。
梅田 そうだね。倫理法人会の活動って、一般の方にあまり知られていないんだけど、相双地区では今、百十四社(八月二十日現在)の会社が入会しています。自分たちで倫理を学ぶ以外にも様々な活動をしてるんだけど、その中の一つに、いろいろな講演会や映画の上映会などを開催して、外に発信するという活動がありました。そうした活動を通じ、まだ知られていないこうした活動に興味を持ってもらい、「うちの会社でもこうした貢献活動をしてみたいな」という会社が増えればという想いと……。この地域で倫理の学びを広めて会員を増やしていくのも地域貢献……こんな想いを持って活動しています。
――私もモーニングセミナー(毎週水曜日の早朝、倫理を学ぶ目的で開かれている勉強会)に参加させてもらってますが、あれ、とっても良いですね。
梅田 その中で、セミナー一つとっても、とても規律を大切にしていて、いつも定刻ピッタリに始まって、定刻ピッタリに終わる、しかも仕事に全く差支えのない時間で開かれるという、とても合理的な会合を行っています。
――秩序や倫理や道徳に則った心地よさがありますよね。参加者が全員挨拶や礼節を重んじてますし。
梅田 人って、物事に意欲的に取り組んでいるかどうかのバロメーターって、挨拶や返事、礼節だと思うんだよね。それをきちっとできることが大事だってことは誰しも分かっているんだけど、大人になると心にへばりついたエゴが邪魔をして、そういう大事な事が出来なくなってしまうんだよね。挨拶や礼節がいい加減になってしまったり。それをもう一度学びなおす場だね。そういう活動を、身近な友達や仲間に広めてほしいんだな。
――エゴを取り除いた感覚が、普段の生活のどういうところに活かされてると思いますか?
梅田 人間って本来、純粋な心を持ってるはずなんだけど、置かれている環境や周りからの影響などで、エゴというごみがへばりついてしまう。倫理を学ぶってのは、へばりついたごみをはがす作業をすることなのかな。たとえば仕事って事で言えば、仕事の時間ってのは、一日の大部分を費やしてるんだけど、そんな中では、社員とのかかわり、信頼関係が重要になっていて、人間本来の「心の身だしなみ」を整える。という事が職場の人とのかかわりのなかに、倫理の学びが活かせているかなと思う。活かしていきたいという願望もあるしね(笑)。
――職場の同僚や家族という関係って、倫理以外の、ある種のパラダイムに縛られた関係というか、ある種の固定観念がある気がしますよね。
梅田 パラダイムという言葉が出たけど、パラダイムの転換に気づける場というか……倫理の学びの場ってのは、その気づきのきっかけを作れる場のかもしれない。
~続~
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