冬の秘密基地
学校から帰っておやつを食べ終わり、レースのカーテンの隙間から外を覗く。
晴れてる!
ひとしきり雪が降ったあとに青空が広がった、こんなときがチャンス。
家の向かいには小さな公園がある。
公園に誰もいないことを窓越しに確認して母に声をかける。
「ちょっと公園いってくる!」
スキーウェア、帽子、スキー用手袋を身につけて、スノーブーツを履いて外に出た。
父が出勤前に雪かきしたアプローチには、もう膝まで雪が積もっている。
完全防備のわたしは無敵だ。
全然寒くない。
のしのしと雪を掻き分けながら狭い道路を越えて公園に入り、奥の滑り台を目指す。
半分は雪に埋もれた滑り台の階段を登り、てっぺんに立つ。
そこから眺める景色は素敵だ。
背の低い遊具は雪に隠れて見えない。
ブランコの上半分、鉄棒の上の棒だけが顔を出す。
白いスポンジケーキにたっぷりと粉砂糖をふりかけたような、きめ細やかな新鮮な雪景色。
日光が反射して眩しい。
足跡は自分のだけ。
ひとり占めの公園。
滑り台の階段の一番上の段から、できるだけ遠くを目指してジャンプする。
えいっ!
ぼすっ!
成功!
雪がすっぽりと受け止めてくれる。
座るような体勢で埋まるのがベスト。
ここが今日の秘密基地。
周りの雪を好きなようにデザインする。
前方は操縦席みたいにメーターやスイッチを。
右側にはお菓子やジュースを置くスペースを作ろう。
お菓子はケーキがいいな。
椅子も平らに整えて立派にしたい。
誰にも邪魔されない快適な空間。
雪と空想の世界で時間を忘れて遊んだ。
どれくらい経っただろう。
ふと我に返る。
音のない世界に迷い込んだような静寂が怖くて、慌てて動かした腕の衣擦れの音にホッとする。
すでに辺りは暗く、雪も降り始めた。
帰ろう。
すっかり冷えてしまった。
行きよりも重くなった雪にぼすぼすと埋まりながら家に向かう。
「ただいまぁ。」
「おかえり〜。」
暖かな空気と共に、晩ごはんの準備をしていた母が出迎えてくれた。
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冬の思い出を書きました。
地元を離れて、はや20年。
子ども時代の日常の遊びは、雪国ならではの貴重で贅沢なものだったと今ならわかります。
雪が全ての音を吸い込んだような深い静寂の記憶は、今も心を落ち着かせてくれます。