不確実な未来の探索の仕方
サマリー
戦略コンサルや、新規事業の立ち上げや、スタートアップでのお仕事において何が正解なのかの不確実性は必ず付きまとう。それらを乗り越えて未来を探索するためには、新入社員であろうと、マネジャーであろうと、社長であろうと、ポジションに関係なく”構造を理解し”、”共通理解を積み上げ”、”スタンスをとる”ことで、少しずつ前進させることが重要だと考える。
はじめに
前回の新シリーズ(”不確実な未来の探索 - 仕組み化と0.01%のBpsの世界”)の告知(2月)から今回の続きを書き上げるまでだいぶ時間が空いてしまった。
本シリーズを書くにあたり、10Xに入社して5ヶ月の間に自分自身が新しい環境でどのように振舞ってきたのか、その時に自分を動かしていた考え方ってどういうことなのか、これらの言語化と整理にだいぶ時間を費やしてしまったのだ。
この四半期を振り替えったハイライトでいうと、入社時に自分が思い描いていたチーム体制のヘッドカウントに全員オファーを受諾いただき外部からの採用が叶った。
11/1参画時のソロ体制だったのが、今年の4月からそれぞれ全く異なるファンクションで構成される4名体制のパーティーが実現できた。
もちろん、これからそれぞれのファンクションの解像度を上げながら、チームを大きくしていかなければならないし、何より組織に価値を還元していかなければならないのだが、ようやくスタートラインに立てたと思う。
この採用活動の過程でも、嫌というほど今回のシリーズのテーマである”不確実な未来の探索”ということに関し正面から向き合うことになったので、今回筆をとるのに丁度いいタイミングであったかもしれない。
これまでECにおけるSelectionの考え方というニッチな分野について書いていたが、今回からはしばらく一般的なお話が続くので、オーディエンスの方もぐっと広がってくれるかと思う:
・業界でいうと、特にスタートアップやテック企業などの、これまでにない価値を生み出すということに携わっている方々、
・キャリアのステージでいうと、4月にはいって新年度になり、転職や異動を経て、新たなチャレンジに向かっていらっしゃる方々、
・ファンクションでいうと、チームを率いて改めてマネジャーとなったりする方々や、これから人やチームやプロジェクトを率いていけるようになりたいと思っている方々。
僕がこれまでの戦略ファームやAmazonの上司の方々から教えていただいて、今の自分の考え方を形成してくれていることを少しばかり共有させていただく。
不確実な未来の探索
一つ前のNoteの繰り返しになるが、Amazonの面接や評価の際に必ず見られる16のLeadership Principlesがあるが、それと共にCore Competency(Amazonianとしての行動規範)が定められており、ここにFocusした記事はあまり見かけない。
このCore Competencyの中に”Dealing with Ambiguity”というものがあり、これまで僕がお世話になった国内外のAmazonの偉い方々が口を揃えて重要視していたのがこいつだ。
日本語に訳すとニュアンスが失われる可能性があるので憚られるが、あえて試みると”不確実な状況を楽しめる”というところだろうか。
仕事において、新しい価値を作っていく際にはこんな状況に出くわすことがある:
・必要な情報が十分にない中での意思決定
・昨日まで合意事項だと思っていたことが突然消滅
・アンコントローラブルな要因による前提の変化
恐らくみなさんもどこかで聞いたような話しなのではないだろうか。
このような中でどのように行動するか、この点をAmazonでの採用でもしっかりと見ていたし、これに対して、僕がこれまで教えてもらったことや感じたことが今回のメインテーマとなる。
Amazonに限らず、戦略コンサルでも今いるスタートアップでも、これらの状況をなんとかして乗り越える為に必死に試行錯誤してきた。
僕が不確実性(Ambiguity)を乗り越える為に、いままでの上司に教えてもらい役にたったことを言語化すると、この3つは欠かせないと思っている:
これらを繰り返しながら、少しずつ目の前の課題の解像度を上げて前進することが、不確実な未来を探索する為に必要だと思う。
それぞれの項目をもう少し具体的に見ていこう。
構造を理解する
これはまさに戦略ファームで苦しんだことなのだが、課題の構造分解だ。
目の前の事象がなぜ発生しており、なにが原因で、それって論点を捕まえて網羅的におさえるとどういう構造になっているのか。
先輩方々が息を吸うように行なっていたこの課題の構造分解も、正確に素早く行うことが本当に難しかった。
僕がよく陥っていたことは”ヒアリングした課題を箇条書き”にするというものだ。
少なくともこの時点で僕は大きく2つわかっていなかった。
一つが、ヒアリングした対象は必ずしも課題の全体像をわかっているわけじゃない、ということ。
話し手は目の前で困っていることを聞かれるがままに答えるが、受け取る側も同じ思考になっていたら、それは完全にただの議事録係となってしまう。
聞いた内容をしっかりと論理的に抜け漏れなく構造化する。これが当時は壊滅的にできなかった。
この技術について先輩からお薦めしてもらった本はこちら。
また、もう一つが箇条書きにするという部分だ。
箇条書きと聞いて僕が当時やっていたことは、ワードのポチ(ブレットポイント)で列挙すること。
これも全く何の価値も出せていない。
この点も先輩に、レベル感の揃った箇条書きをコンコンと教えてもらい、できるだけシンプルに無駄な情報を削ぎ落として書く、ということを徹底された。
このスキルは、個人的にこの本が役に立ったと思う。
さて、細かいノウハウをどうするのかというのは今回の主題ではないので割愛するが、課題の構造化ができて、初めて議論の土台が整うと思っている。
これがない状態で議論に臨むと、ちょっと経験がありそうな人から「あのxxxの点はどうなってるの?」とか「うちの会社の今期のフォーカスはxxだからこの視点も入れておいて」などと言われると、すぐに話がそっちに持っていかれてしまい、物事が前に進まない。
しっかりと自分が立ち向かう課題の構造を理解し、少しずつ議論を積み重ねながら進化させていくことでしか、達成できないと思っている。
共通理解を積み上げる
この構造理解を進めるにあたって必ず必要なことが”議論”だ。
一口に議論と言っても、そもそも”議論”ってなんだろうか?
Amazonの時のボスに、この点は嫌というほど叩き込まれた。
当初僕が考えていた議論とは「自分の考えている意見を通すための資料やロジックを用意し、相手にそれを納得させること」だと思い込んでいた。
この考え方のせいで当時のミーティングはことごとくうまくいかなかった。
相手はAmazonに既に何年も勤めている人で、少なくともAmazonの仕組みについては僕よりも知っていて、その人たちを相手に僕の考えをぶつけてみる。
すると、相手が正しいと思っている内容をぶつけ返されて、それが正しく聞こえるから「たしかに、、、」となって、ボスの元に持ち帰る。
するとボスに「いやいや、これってただ相手の意見聞いてきてるだけじゃないか。何しに行ったの。」(ボスの名誉のために言いますが、本当はもうちょい優しい言い方をしていますw)というような感じで呆れられてしまい、何も前に進まないのだ。
このやりとりを何度も何度も繰り返し、ようやく理解できたことは、
議論とは「共通認識」を確認するための場
・何は合意できていて、何は合意できていないのかを探る
・答えを確認せず、思考プロセスを確認する
・この「共通認識」をベースに、また違う部分を鑑みながらアイデアを修正していく
この共通理解の積み上げができてはじめて、新規事業を通したり、他のチームの協力を仰いで動かしたり、上司に自分のやりたいことを通したり、採用のためのヘッドカウントの予算を確保したり、が実現するのだ。
この共通理解の積み上げは簡単にはいかないからしっかりとした準備が必要だと思っている。
だからこそ僕はほとんどのミーティングの際にある程度課題を構造化しておき、議論の落とし所の仮説をたて、事前にアジェンダを切っておく。
ミーティングの中で相手とその仮説をすり合わせ、課題の構造化をどんどん精緻化していくようにしている。
スタンスをとって前に進める
最後に重要になるのがこの”スタンスを取る”というところだと思う。
結局過去に類似事例がないような新規事業やスタートアップの場合、新入社員であろうと、マネジャーであろうと、CXOであろうと、明確にこれをやったら正解、というのはわからない。
Amazonでもこの点は同じであった。
一つ一つの細かいポイントの質問に対して皆意見はくれるのだ。
その時の仕組みはこれが参考になる、このベンダーがお金を出してくれそうだ、このマーケティングツールが使えそう、などなど。
ただ、じゃあ最後このプロダクトの全体設計や、新規事業の成長ストーリーなどまで自信をもって答えてくれる人ってなかなか出てこない。
だからこそ、Productや事業をOwnする立場の人は、わからないなりにも、その場で集められるあらゆる情報を検討してスタンスをとることが重要だと思う。
・過去のToplineの成長トレンドから引き伸ばした数字
・新規と既存のカスタマーの数とマーケティング施策の効果
・仮説したカスタマーニーズとカスタマーへのヒアリングによる回答
・法規制や競合プレイヤーの動き
などなど、これらをどれだけ集めても、確実な解が見えてくることは少ない。
なので、ここで「自分はこう思うからこう動かそうと思っている」という強い意志をこめるのだ。
過去に働かせていただいたいわゆるリーダーと呼ばれる方々(チームでも、プロダクトでも、部門でもなんでも)の中で、このスタンスをちゃんと取ってくれている方は本当に信頼が置けたものだ。
もちろんスタンスを取るのは怖い。
間違えたらどうしよう、あっちの選択の方が正しかったんじゃないか、など、いろいろな重圧がのしかかってくる。
それも全て飲み込んでスタンスをとってくれる人に、人はついてきてくれるんだろうなと僕は思っている。
ちなみに、Amazonの中でもAre Right, A LotというPrincipleがあり、まさにこのことを表している:
Are Right, A Lot
"リーダーは多くの場合、正しい判断をくだします。 そして、優れた判断力と直感を備えています。 リーダーは多様な考え方を追求し、自らの考えを反証することもいといません。”
判断力や直感は、それまでの経験で精度が上がっていくものだ。
ただ、そのような経験が浅い時にはスタンスを取れないのかというとそうではない。
どれだけ思考を振り絞ってスタンスをとってきて、時に周りの意見や進めた結果を振り返って、”自らの考えを反証することもいとわない”という姿勢が重要なのだと思っている。
最後に
たまに「上司が指示をだしてくれなくて頼りないんですよね」ということをいう声を聞くことがある。
今まで色々な人を見てきたが、上司だってわからない、社長だってわからないことだらけだし、不安でいっぱいなはずだ。
Amazon Japanの社長のJasperだって、まずは部門からのInputや意思決定がないと、なにが正しいアクションなのかなんてわからないことが多いものだ。
実際にミーティングの場でも、バックグラウンドを説明した後に、What is your opinion?と聞かれることも全く珍しくない。
10Xの矢本さんだって多分に意見を求めてくれるし、それがあるからこそ、一緒に事業を成長させられているのだと実感が湧いて楽しいものだ。
ここで心に留めておくべきことは、社長を含めて全員が”不確実な未来を探索している”のだから、一番詳細を見ることができる”リーダー”(新入社員でもリーダーになり得ると思っている)が、しっかりと目の前の課題の構造を理解し、関係者の共通認識を構築し、腹を括ってスタンスをとることによって、初めてそれが確からしいかのFeedbackができるようになり、物事が少しずつ前進するのだと思っている。
今回はAmazonにおいて重要視されるDealing with Ambiguity(不確実な未来の探索)について書いた。
次回は、この不確実な未来を探索する上で、非常に重要になる”仕組化”について書こうと思う。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
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