不確実な未来の探索 - 仕組化と0.01%のBpsの世界
サマリー
前シリーズでは、小売ECの品揃えというニッチな世界について書いた。今回は”不確実な未来の探索 - 仕組み化と0.01%のBpsの世界”というシリーズで、スタートアップや新規事業という不確実な要素しかない世界において、そのまま適応できそうな経験について書いてみようと思う。
はじめに
前回のシリーズでは、小売ECの品揃えという幾分ニッチな世界について書いていたにもかかわらず、嬉しいことにとても多くの方からフィードバックをいただけた。
実際にDMをくださり、数時間にも渡り熱心に質問してくださったとある有名スタートアップの方々(しかも事前に20の質問リストやパワポのスライドまで用意!)、とある企業の役員の方からお声がけいただき今後のSelection戦略を一緒に練っていきましょうとなったケースなど、思いがけない繋がりも構築することができた。
その際のお話しの内容は、決してAmazonのやり方を包み隠さずお伝えするということではなく、これまでの経験を抽象化させた”Selectionとはこう考えるといいのでは?”という僕なりの意見を共有させていただき、彼らのビジネスに置き換えるとどのような考えができるのかという議論ができ、僕自身本当に学びが多かった。
年末にぼんやり思いつきから始めた”Selectionと戦った10,000時間”の連載から、このようなご縁をいただきとても嬉しく思う。
改めてお礼をお伝えしたい。
今回のシリーズ
しかし、Amazonでの経験を通じて学べたことはSelectionに関してだけではない。
20年以上前にBezosがテキサスからシアトルまでシボレーで運転する中で形にした事業計画、それが成長して世界中に広がり、その後何年にも渡り数多のAmazonianによって進化させてきた”Amazonという大きなビジネスへの向き合い方”そのものの片鱗を感じることができたと思う。
特にスタートアップやテック企業では、多かれ少なかれこれまで存在していなかった価値をこの世に生み出すことに注力してはずだ。
Amazonでも、Bezosが退任の際に社員全員に宛てた手紙をこのように締めくくっている通り、毎日がDay1で、常に未知の世界を探索しているのだ。
Keep inventing, and don’t despair when at first the idea looks crazy. Remember to wander. Let curiosity be your compass. It remains Day 1.
- Jeff Bezos -
たったの数年ではあったが、everyday is Day1な世界に身を置く中で学んだ経験を言語化すると、おそらくこんな感じになると思う:
新しい価値を創造していくためには、”不確実な未来の探索”と、”メカニズム(仕組化)の模索”、そして”0.01%の世界での積み重ね”が重要なのだと思う。
もちろん、これらが網羅的なものでない、人によってはこっちの内容の方がよっぽど重要だろう、という方もいるだろう。
ただ、少なくとも4年間ちょっとの短い期間の中でも、上記の内容が自分の頭に強く刻まれた内容なのは間違いないと思っている。
この内容を、”不確実な未来の探索 - 仕組み化と0.01%のBpsの世界”というシリーズとして一つ一つ丁寧に説明していこうと思う。
今回は3つの項目それぞれのダイジェストをお伝えしよう。
”不確実な未来の探索”
Amazon面接で重要視される16のLeadership Principleは、既に巷の書物に書き記されていてみなさんも聞いたことがあるとは思う。
しかし、それと同じくらい重要なものとしてCore Competency(Amazonianとしての資質みたいなもの)というもので定められていることにFocusした内容はあまり見たことがない。
このCore Competencyの中に”Dealing with Ambiguity”というものがあるのだが、これまで僕がお世話になった国内外のAmazonの偉い方々が口を揃えて重要視していたのがこいつだった。
日本語に訳すとニュアンスが失われる可能性があるので憚られるが、あえて試みると”不確実な状況を楽しめる”というところだろうか。
仕事において、新しい価値を作っていく際にはこんな状況に出くわすことがある:
・アンコントローラブルな要因による前提の変化
・必要な情報が十分にない中での意思決定
・昨日まで合意事項だと思っていたことが突然消滅
恐らくみなさんもどこかで聞いたような話しなのではないだろうか。
このような状況を楽しむことができるかどうかは非常に重要な資質であり、またどのようにして切り抜けていくべきか、そんなことを書いてみようと思う。
”メカニズム(仕組化)”
今や猫も杓子も仕組化を唱える中、Amazonでも例に漏れず仕組化(Mechanism)が叫ばれていた。
Bezosの言葉にこんなものがある:
Good intention doesn’t work, only mechanism works.
意訳すると”善意だけでは十分ではない。仕組づくりが重要だ”といったところか。
Amazonに入って初めてこの言葉をきいたとき、とても冷徹な外資系企業だなと感じたが、Amazonにおける仕組化を深く理解していくと、健全にビジネスを大きくしていき、かつ仕組みに関わる人も仕事が楽になる、とても素晴らしいものだと気づくこととなる。
ここでは、Amazonの絶え間ない成長を実現させていた仕組化について書いてみようと思う。
”0.01%の世界での積み重ね”
Amazonと聞くと多くの記事で見かけるのがあらゆる項目がメトリックスとしてセットされていて、週単位や月単位で目標に向けての進捗を追われる。
実際に入社して驚くのが、凄まじい種類の数字がレポートにでてきて(しかもFTBBとか、OOS Rateとか、AWASとか、ほとんどが頭文字の省略形で表されているので、初見ではマジで日本語でおkとなる)管理されている。
この管理された指標をWeekly Business Reviewと呼ばれるWBR、MonthlyやQuarterly単位のMBRやQBRと呼ばれるミーティングで、日本の社長であるJasperや米国のHQにいるBezosなどにレビューされ詰められる。
このプロセスを経て、各部門やプログラムが適切に目標に向かって成長することが担保されているのだ。
ここでは、実際にどのように指標が設定されて、どのようにモニタリングされ、目標に達成・未達の場合にどうするのか、そしてその結果どのようにビジネスが成長しているのかを書いていこうと思う。
終わりに
今回の連載はそれぞれの章だけを読めば終わる比較的軽めな読み物になりそうだ。
しかも、改めて考えてみるとこれら3つのポイントは、今10Xというスタートアップで新規事業を推進していくという立場にいる中で確実に役に立っている経験だ。
これを読んでくださっている皆様にとって、日々の業務に取り入れられそうな内容が一つでもあればと願って、これから筆を進めていこうと思う。
次回は早速”不確実な未来を楽しむ力”について。