建物に該当するの? の判断について
土地や建物の不動産には登記制度があります。
不動産登記とは、不動産に関する物理的現況や権利義務について、法務局という国の機関に備えている公簿(登記簿)に記載することをいいます。
たとえば、他人の所有している土地や建物を買う場合、または、抵当権を設定する場合に、本当にその土地や建物が取引相手のものなのか、他の誰かの権利・義務がかかわっていないのかをを確認することが必要になります。そのようなとき、相手に確認するだけではなく、信頼できる国家機関を通じて確認できれば、安心して取引ができます。
そこで、不動産についての物理的現況及び権利義務の関係を国家機関が備えている登記簿に記載して、特定の場所で誰もがそれを閲覧できる制度が設けられています。この制度が登記制度です。
また、不動産について所有権をはじめとする権利をもっている人は、その権利を登記することによって、第三者に対して自分の権利を主張できるようになるという場合もあります。
このように、登記制度は、不動産をめぐる権利関係を客観的に明示することで、不動産取引の安全を図ると共に、自己の権利を守る手段にもなります。
登記の対象となる不動産とは?
不動産登記において「不動産」とは、①土地、②建物の2つを指し、一個の不動産ごとに登記簿が作成されます。
【土地】
いわゆる地面です。海は基本的に登記の対象にはなりませんが、人工島のように海上を埋め立てたり、地殻変動で水没していた場所が隆起してきたなど、個人所有が認められる状態になった場合は登記が可能になります。登記の際の土地の単位は「筆」です。一筆ごとに登記記録が作られます。
【建物】
一個の建物ごとに登記記録が作られますが、登記の前に、その建築物が登記の対象となる「建物」であるかどうかを判断する必要があります。たとえば、庭の物置のように、それだけを不動産として取引しない建築物については、登記の対象から外さなければなりません。
【附属建物】
一個の主要な建物に附属して建てられたもの(母屋に対する離れなど)を附属建物といいます。附属建物は同じ土地上に、同じ所有者が、同じ目的のために立てている場合が多いので、主要な建物とまとめて一個の建物として扱い、同じ登記記録に記録されます。
【区分建物】
一個の建物の中を、複数の人が一室や1フロアというように区画を分けて所有することを認められた建物です。分譲マンションが区分建物の代表的な例です。区画ごとに所有者は、それぞれ登記をすることができます。
建物に該当するかどうかの判断は?
民法では、不動産イコール「土地およびその定着物」とされています。土地に定着しているという意味では、庭の物置も超高層ビルもすべて定着物といえます。
しかし、不動産登記の制度はもともと、不動産取引が円滑に進められることを目的としたものですから、庭の物置のようにそれだけを不動産として取引しない建築物については、登記の対象から外さなければなりません。
登記の申請がなされた建築物が、登記の対象となるかどうかの判断は、登記官が社会一般に通用する認識(社会常識)を基準として行いますが、近年の建築物は千差万別で、社会常識だけを基準としたのでは、登記官ごとに判断が分かれる場合があるかもしれません。
そこで、法務局では、①定着性、②永続性、③外気分断性、④用途性、⑤取引性という5つの基準を示し、登記官の判断が統一して行われるようにしています。
①定着性
まず、「建物」は土地と接していることが求められます。最近は建築技術が進歩していますから、中には空中に吊り下げられる形の建築物もあるかもしれませんが、土地との接点がない建築物は特定することが困難です。
また、土地の上にあっても、ただ置かれただけのものは移動されると登記内容が変わってしまい、権利の保護ができなくなってしまいます。
したがって、土地にしっかりと固定され、簡単に移動することができない建築物でなければ、定着性があるとはいえません。
たとえば、トレーラーハウスや簡易な組立式のの物置などは登記の対象になりませんし、移動式の屋台なども建物とは認められません。
②永続性
定着性がある程度認められる建築物であっても、その状態が長く続かなければ登記対象の「建物」として扱われません。
開催期間の決まっているイベントのパビリオンや、マンションのモデルルームなどは人が中に入って利用するわけですから、基礎工事もしっかりなされているはずですが、期間が過ぎれば取り壊される性質のものです。
そのような建築物の登記をしたとしても、すぐに登記を抹消しなければならないことになり、事務も煩雑になりますし、取引の場面でも混乱を招くおそれがあります。
このため、永続性のない建築物については登記を認めていないのです。
③外気分断性
外部と遮断して固有の空間を作り出すことができる機能があるかどうかも、「建物」であるか否かの判断の基準となります。
以前は外気との遮断ということで、壁や屋根によって空間が区切られているかどうかが基準となっていましたが、最近ではそれだけでは判断できない建築物も多くあります。
このため、それぞれの用途に沿ってその目的のために使用することができるかどうかが重視されるようになりました。
たとえば、人が居住するための建築物には雨風や騒音を防ぐための屋根や壁が必要ですが、スタンドのある陸上競技場や野球場は必ずしも屋根や壁を必要としません。
これらの建築物は、屋根や壁がない構造であっても、固有の空間として使用できます。言葉としては「外気」との遮断ですが、実質は「外部」との遮断機能があるかどうかが問題になるわけです。
④用途性
登記の際には、その建物の使用目的(用途)を記録することになっています。建物の素性を明らかにするために必要な情報だからです。
このため、登記した目的を達することができる機能を備えていることが要件になります。
たとえば、立体駐車場として使用するのであれば、車を駐車できる強度や機能が必要ですし、住居として使用するならば、人が快適に生活できる構造が求められるということです。
⑤取引性
その建物が不動産として取引するに値するものであるかどうかも判断基準の1つになります。
不動産登記は、不動産の取引を円滑に行うために設けられた制度ですから、取引の対象にならない物を登記しても意味がないのです。
登記できる権利について
不動産に関係する権利としては、所有権、用益権(地上権・永小作権・地役権・賃借権)、担保権(抵当権・根抵当権・質権・先取特権・留置権)、占有権、買戻権(買戻特約)などが挙げられます。
このうち、占有権と留置権は登記できない権利とされています。また、所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、不動産質権、抵当権、根抵当権は、登記を行わなければ、第三者に主張することができない権利です。
【所有権】
その物をどのように扱うかを全面的に支配できる権利です。たとえば、不動産を売買する場合や、相続などの場合には、所有権が移転します。この場合、登記簿に所有権移転登記をすることによって、第三者にも所有権が移転したことを知らせることができます。
売買契約の際に一度手放した所有権をある条件によって買い戻すことができるという特約を付けた場合の買戻権の登記も所有権に関する登記のひとつです。
【用益権】
他人の不動産を使用・収益することができる権利です。利用権とも呼ばれます。この権利を登記すると、その後に所有者になった第三者に対しても権利を主張することができます。
用益権には、地上権・賃借権・地役権・永小作権があります。地上権とは、他人の土地の上に自分の建物を建てたり、林業を行ったりする権利です。賃借権も他人の土地を利用するという点では同様ですが、権利を自由に譲渡、転貸(また貸し)できないという点で地上権と異なります。
この他、自宅から道路に出るために他人の土地を通行できる(通行)地役権、他人の土地を使って農業などを行うことができる永小作権などがあります。
【担保権】
不動産を担保に借金している場合、その不動産が担保になっていることを明示するために行うのが担保権の登記です。
不動産を担保とするには、抵当権・根抵当権・質権などを設定するという方法があります。
登記簿には、これらの設定登記を行います。借金が返せなくなると、これらの登記を根拠に競売などが行われることがあります。
なお、先取特権(債権者が他の人よりも先に債務を支払ってもらえる権利)については、その性質上設定登記ではなく、保存登記をします。
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