
メンバーの力を引き出す "任せるのが上手" なマネージャーの考え方
「マネージャーになったものの、メンバーへの仕事の頼み方がわからない」
「任せるべき仕事と、自分でやるべき仕事の線引きが難しい」
「メンバーが思うように動いてくれない」
初めてメンバーを持つマネージャーの多くが、こうした悩みに直面します。
特に、これまでプレイヤーとして優秀だった人ほど、「仕事はできて当たり前」「少し説明すればわかるはず」と考えてしまいがちです。
しかし、メンバーの経験やスキルに応じた適切な仕事の頼み方をしなければ、次のような問題が発生します。
経験が浅いメンバーに、抽象度の高い仕事を任せると「ぶん投げ」になり、手戻りが増える
経験豊富なメンバーに、細かく指示を出すと「マイクロマネジメント」になり、モチベーションが下がる
メンバーにとって最適な仕事の依頼方法を考え、適切に調整することで、業務の効率性が向上し、組織全体としてより大きな成果を生み出すことができます。
本記事では、メンバーのスキルレベルに応じて仕事の抽象度を変え、「任せるのが上手なマネージャー」になるための具体的な方法を解説します。
具体的な依頼と抽象的な依頼の違い
仕事を依頼するとき、大きく分けて「具体的な依頼」と「抽象的な依頼」があります。
それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることで、メンバーの成長を促しながら成果を最大化できます。
具体的な依頼とは?
具体的な依頼は、タスクの詳細を細かく伝える方法です。
例:
「A社向けの提案資料を作成してください。過去の提案資料を参考にしつつ、3つのポイントを強調してください。」
適した状況:
経験が浅いメンバー、新しい業務を任せるとき
メリット:
指示が明確で、メンバーが迷わずに取り組める
デメリット:
メンバーの主体性が育ちにくく、指示待ちになりやすい
具体的な依頼は、新人や経験の浅いメンバーに適しています。細かい指示を与えることで、メンバーが混乱することなく作業を進めることができ、業務の習熟度を高めることができます。
ただし、具体的な指示ばかりを出し続けると、メンバーは自主性を失い、「言われたことしかできない」状態になってしまいます。そのため、段階的に抽象度を上げ、メンバーの成長を促す工夫も重要です。
つまり、期待値の振れ幅が小さく、安定した成果が得られやすい
抽象的な依頼とは?
抽象的な依頼は、目的やゴールを伝えて、方法をメンバーに任せる方法です。
例:
「A社への提案を成功させたい。最適な方法を考えて、提案資料を作ってくれないか?」
適した状況:
経験豊富なメンバー、創造性を発揮してほしい場面
メリット:
メンバーの考える力を育てられる、主体性を促せる
デメリット:
目的が伝わらないと、期待する成果にならないことがある
抽象的な依頼は、経験豊富なメンバーに適しています。すでに基本的な業務遂行能力を持っており、全体像を把握しながら自主的に最適な方法を模索できます。
しかし、抽象度が高すぎると、メンバーが方向性を見失い、意図しない結果になってしまうこともあります。そのため、求める成果や期待値を明確に伝えたうえで、適度なフィードバックを行うことが重要です。
つまり、期待値の振れ幅が大きく、成果が飛躍的に向上する可能性がある一方、期待外れになるリスクもある
対象者レベルに合わせた依頼の抽象度を変える必要性
メンバーに仕事を依頼する際、彼らの経験やスキルレベルに応じて指示の抽象度を変えることが不可欠です。同じ依頼内容でも、対象者によって適切な伝え方を選ばなければ、思った通りの成果が得られない可能性があります。
例えば、経験の浅いメンバーには、具体的なタスクを明示し、手順や期待する成果を細かく伝えることで、確実に業務を遂行できるようサポートする必要があります。一方で、経験豊富なメンバーには、目的やゴールを共有し、実行方法の決定を任せることで、自主性や創造性を最大限に発揮してもらうことが重要です。
依頼の抽象度を適切に調整することで、メンバーそれぞれの能力を活かしながら、組織全体としての成果を最大化することができます。初心者には具体的な指示を多く出し、経験豊富なメンバーには自由度の高い依頼をすることで、それぞれの能力を最大限に引き出すことができます。

仕事の頼み方に「唯一の正解」はありません。
しかし、確実に「やってはいけない頼み方」は存在します。
それが、 「ぶん投げ」と「マイクロマネジメント」 です。
例えば、以下のような状況を想像してみてください。
経験の浅い新人に対して「来週のプレゼン資料、作っておいて」
これは 「ぶん投げ」 です。どんな資料を作ればいいのか、新人は途方に暮れてしまいます。
ベテラン社員に対して「この企画書、1ページ目はこういう構成にして、2ページ目はこのデータを入れて、フォントはこのサイズで……」
これは 「マイクロマネジメント」 です。細かく指示しすぎて、考える余地を奪っています。
このような頼み方を続けていると、メンバーはこう感じるようになります。
ぶん投げされた人:
「どうすればいいのかわからない。やる気が出ない」
マイクロマネジメントされた人:
「自分の意見が尊重されない。やる意味を感じない」
結果として、メンバーの成長が止まり、仕事の生産性も下がってしまうのです。
依頼の抽象度を調整するためのポイント
では、どうすれば適切に仕事を頼めるのでしょうか?
答えは、メンバーの経験やスキルレベルに応じて、仕事の「抽象度」を調整する ことです。ここでいう「抽象度」とは、仕事の指示の具体性 のことを指します。「具体」というのは、解釈の余地がないほどに詳細化することです。
つまり、「抽象度をあげる」というのは、解釈の余地を増やす(余白)と私は考えています。
経験やスキルレベルが不十分なメンバーに仕事を頼むときのポイント
具体的なタスクに分解する
✖️「プレゼン資料を作って」
⭕「次回の会議用のプレゼン資料を作ってほしい。ターゲットはこの顧客層で、目的はこの商品の魅力を伝えること。過去の資料を参考にして、まず構成案を作ってみようか」
進捗確認の頻度を増やす
経験が少ないメンバーほど、適宜サポートが必要です。
いきなり完成形を求めるのではなく、「まず構成を見せて」といった形で、段階的に確認するようにしましょう。
期待値を明確に伝える
何をもって「OK」とするのかを最初に伝えておくと、迷わずにすみます。
経験やスキルレベルが十分なメンバーに仕事を頼むときのポイント
目的やゴールを伝える
✖️「この資料、1ページ目はこうして、2ページ目はこうして」
⭕「この資料は、クライアントにプロジェクトの価値を伝えるのが目的。伝えたいメッセージを整理して、最適な構成を考えてもらえる?」
手段は任せる
細かく指示を出すのではなく、「どのように進めるかはお任せする」と伝えることで、主体性を引き出せます。
フィードバックは結果に対して行う
「ここがダメ」「こうしたほうがいい」ではなく、「この結果になった理由を教えて」「こうすればもっと良くなると思う」といった対話型のフィードバックを意識すると、メンバーの成長につながります。
抽象度の調整を活用したマネジメント事例
目標設定はマネジメントにおいて最も重要な要素のひとつです。適切な目標を設定することで、チーム全体の方向性が決まり、メンバーの成長や成果を最大化できます。しかし、メンバーの職種や経験レベルに応じて適切な抽象度で目標を設定しないと、思ったような成果が得られない場合があります。
ディレクター、デザイナー、エンジニアといった異なる職種のメンバーをマネジメントしてきた経験をもとに、目標設定の事例をご紹介します。
事例1: 経験が浅いメンバーに対する目標の投げかけ
経験が浅いメンバーに対しては、業務の具体的な進め方を学ばせるために、明確なタスクを与えることが重要です。特に新人のうちは、仕事の全体像が見えにくいため、抽象度の高い目標を設定してしまうと、何をすべきかわからなくなり、手戻りや迷いが発生します。
ディレクターの目標設定
具体的な目標例:
・x週間でワイヤーフレームと要件定義をまとめる
・xx月xx日までにタスク一覧を整理し、チーム内で共有する
・スケジュール管理表を作成し、プロジェクト終了まで進捗状況を可視化する
デザイナーの目標設定
具体的な目標例:
・xx週間でバナーデザインを5パターン作成し、レビューをもらう
・xx月xx日までにデザインガイドラインに沿ったUIコンポーネントを作成する
・今期中に自身でデザインの意図を説明できるようにする
エンジニアの目標設定
具体的な目標例:
・x日で開発環境をセットアップし、ローカルで動作確認を行う
・xx月xx日まで指定されたAPIを実装し、ユニットテストを通す
・今期中に受けたコードレビューから改善点をドキュメントにまとめる
事例2: 経験豊富なメンバーに対する目標の投げかけ
経験豊富なメンバーに対しては、「どのように達成するか」を委ねることで、主体性を引き出す目標設定が効果的です。細かく指示を出すのではなく、方向性や目的を示すことで、メンバーの自由度を確保しながら、成果を最大化できます。
ディレクターの目標設定
具体的な目標例:
・市場トレンドとユーザーデータを基に次期プロダクトの方向性を定義し、その実行計画を策定する
・チームの課題を特定し、改善策を立案、実行する
・KGI達成に必要なKPIを設定し、達成度を測定する
デザイナーの目標設定
具体的な目標例:
・デザインシステムを構築し、チームでのデザイン標準化を進める
・市場のフィードバックを基に、プロダクトのUX改善案を具体的に提案する
・エンジニアと連携し、開発しやすいデザイン設計を考案する
エンジニアの目標設定
具体的な目標例:
・システムのアーキテクチャを見直し、チームで最適な設計指針を策定する
・パフォーマンス改善のための施策を立案し、チームに提案する
・技術的負債の解消プランを作成し、計画的に実施する
目標設定における抽象度の調整の重要性
目標設定における抽象度の調整は、メンバーの成長に合わせたアプローチを取るために非常に重要です。経験が浅いメンバーには具体的な指示を、経験豊富なメンバーには抽象的な目標を設定することで、それぞれの強みを活かしながら成果を最大化できます。
また、目標設定の際にはメンバーと共に振り返りの時間を持ち、達成した成果を共有することが大切です。このプロセスを通じて、メンバーは自信を持ち、次回の目標設定に向けてより一層の努力をする意欲が湧きます。それが成長機会に繋がるのです。
目標の抽象度を適切に調整し、メンバーに適した指示を与えることで、チーム全体の成果を向上させ、組織の成長に繋げることができます。
任せるのが上手になるために
「任せるのが上手なマネージャー」になるためには、メンバーのスキルレベルに応じた依頼の仕方を理解し、適切な抽象度で伝えることが重要です。
経験が浅いメンバーには具体的な依頼を行い、業務の流れを学ばせる
経験豊富なメンバーには抽象的な依頼を増やし、裁量を与える
フィードバックを適切に行い、期待する成果を明確にする
このように、メンバーの成長を促しながら、チームの生産性を向上させることで、組織全体としてより大きな成果を生み出すことができます。
「任せるのが上手なマネージャー」を目指して、一歩ずつ進んでいきましょう。
それでは、また。
この記事を作成するにあたり、これまでの経験と考えをもとに、以下の本のを参考に再整理しました。まだ読んだことない方はぜひ読んでみてください。