#6 あえて「不便」を取り入れる。「不便益」というメンドオモロイやつ。
「不便益」という言葉、知ってますか?
不便益は、文字どおり「不便であるからこそ得られる効用」を意味します。この概念は2000年代に京都大学の川上浩司教授を中心に広まったといわれます。
AIや自動運転など「効率化ここに極まる」みたいな時代で、まさに真逆の不便から得られる利益、すなわち「不便益」が注目されるのではないかと感じています。
現代的症状「便利アレルギー」
電通が運営しているウェブメディア『電通報』に、不便益をテーマにしたおもしろ記事があります。
記事中には、アンケートによってある種の“便利アレルギー”が出たとあります。特にスマホネイティブのZ世代の若者たちは、過度に便利になりすぎた世の中に対して抵抗感をもっている‐、と紹介されています。調査結果によれば、約4割近くの人がこの感覚をもっているとされています。
”便利すぎる”ことによるネガティブな側面について、アンケートの一部コメントを拾います。
例えば、インターネットで何でも購入できる利便性が増す一方で、人との対話を通じて買い物を楽しむという経験が減っているという声があったり、子どもたちがインターネットで簡単に情報を手に入れることができるため、自らの頭で考えることが少なくなるという声もあったりします。
また、料理をする人にとってカット済み食材は便利ではあるものの、工夫をする余地がなくなってしまったとの意見もありました。
僕もかんたんな料理をします。「カット済み食材、ちょー便利やん」と思っていました。ただ、こういった指摘を知ると、料理への”クリエイティブ”が失われていることにも気づきます。
意外と近くにある「不便益」
電通報アンケートでは「これぞ不便益と思うことはなんですか?」の回答もあわせて紹介されています。例えば、スマホでメモを取るよりも、紙にメモをする方が頭に残る、といった声がありました。
カルピスの原液も面白い話です。ペットボトルの完成品も存在しますが、原液を使って子どもたちと一緒に濃さを調整しながら楽しむ面白さがあったと。また、本屋さんで本を買う楽しさもあると。ネットで購入するのもたしかに便利ですが、書店にいくことで意外な本との出会いがあるといった声です。
僕が「不便益」を考えた際に、ふと思い浮かんだのがガス乾燥機『乾太くん』です。『乾太くん』って、本当に素晴らしいんですよ! 感動モノです。家族1日分の洗濯物が約50分でフワフワ、ホカホカです。花粉もつかないし、音も静かです。
夜中、「あした着るものがない」というピンチにも、静かに動作する『乾太くん』は救世主となります。間違いなく、この数年で導入して良かった家電No.1です。
けれど、その一方で、天日干しの独特の感触、太陽の温かみや自然の風をたっぷり含んだ、たとえば毛布の感じは乾燥機では作れない心地良さがあります。
だから、『乾太くん』には毎日に助けられているけれども、その一方で何かを失ってる気もします。その気づき自体もまた一つの「不便益」かもしれません。
キャンプは「不便益」の極みともいえますよね。家で快適なベッドで寝ることができるのに、わざわざテントで寝る。夏は虫との戦いがあるし、冬は鬼のように冷える。それでもわざわざ”不便を求めて”キャンプに行く。そんなキャンプこそ「不便益」の象徴的なモノなのかなと思ったりします。
「不便益な飲みもの」カフェオーレ
僕が今、熱を上げているカフェオーレも「不便益な飲みもの」といえます。ミルクで割るひと手間がかかって、面倒ですからね笑。
さらに僕たちが提供するカフェオーレは、ドリップタイプです(「お手軽用」に粉末タイプも出す予定)。サッと出来るインスタントやポーションタイプではありません。コーヒーを一杯一杯、お湯で丁寧に抽出し、ミルクを加えるというプロセスを経て、ようやく飲むことができるのです。
このカフェオーレは意図的にそうしたステップを取り入れました。「親子の時間が混ざり合う」がコンセプトです。その調理の工程すらも楽しんでもらいたい。貴重な親子の時間として、その”ひととき”を楽しんでもらいたいという思いを込めています。
スモールチームの生存戦略
いろいろなものを削ぎ落として便利さや効率を追求すれば、単なるインスタントコーヒーになってしまいます。だからこそ、僕らがこのコンセプトを形にし、それに沿った商品を出していく中で「不便益」を取り入れるのは、ある意味での生存戦略でもあります。
スモールチームが大手の資本力や開発力、AI技術と競うことはできません。だからこそ、不便を取り入れることで生まれる特異な体験性、それが僕らが提供できる価値だと考えています。かっこいいマーケティング用語を持ち出すと「ランチェスター戦略」といったところでしょうか。
インスタントコーヒーや自動販売機のドリンクでは得られない、このカフェオーレで感じてほしい「不便益」。それは他の状況、例えば「移動」においても感じられますよね。電車に乗る代わりに歩いてみると、気づかなかったお店の発見につながったり、ウォーキング自体が気持ちいいなど、新しい発見や体験があります。
便利なモノは『ダイソー』にいけば、いくらでも置いてます。あえて不便を楽しむこと、不便をも価値と捉えることで、新しい発見や体験が得られるのではないでしょうか。不便を意識的に選択することで、人生は少しオモロくなる‐、これこそ「不便益」かなと思います。