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パンジーヤンキー 実家②過去

ただいまと、実家に戻ってまず確認する場所がある。
それは帰省が夜遅くになってしまっても変わらない。

「もう!本当に頭にくる!!もう全部捨てる!!」

昔、20年ぐらい前の、私が結婚する直前ほどだろうか。
母がそう叫んで泣きながら、玄関前のプランターをぶん投げていたことがある。
それもひとつやふたつの話じゃなくて、長方形のちょっと大きめの、こんもり土が入った状態のそれなりの重量のあるものを、7、8個ほど、両手で頭に振り上げて次々ぶん投げているその姿は、ちょっとドン引きする形相だった。なんか既視感があるなと思うのは、ゲームなのか映画なのか。いずれにせよ昼間なのに満月感が強かった。

近くには、怒ったような困ったような、なんともいえない表情で佇んでいる父がいて、これはどうやら夫婦喧嘩らしいと悟ったものの、ここまでブチギレている母を見たことがなく「一体何を言ったのよ」と小声で聞いてはみたが、父は「俺は別に思ったことを言っただけだ」と言うばかりで、どうにも経緯が分からない。

プランターを全部投げ終わってゼイゼイ言う母に近づく気にはどうにもなれず、その日は結局、彼氏(夫)の家にお泊まりをしたのを覚えている。

翌日、恐る恐る家に帰ると、ぶん投げられていたプランターが、玄関前に美しく並んでいた。
それどころか、今までなかった砂利が敷かれたり、ちょっとした衝立ができていたりと、格段におしゃれになっていて、たった1日で破壊と再生が終わっていた。木下藤吉郎がおるのかこの家は。

「何あれ、どうしたの庭?昨日何があったの?」
玄関先で私が大声で言うと、「すごいやろー」と居間から父の声がした。
1日にして我が家の玄関先をガーデニング広場に変えた木下藤吉郎である。

「ひどいの!お父さんね、私が喜んで花を植えていたらね、お前はセンスないなぁって言うの。すごく楽しい気持ちで植えていたのに、腹が立って腹が立って…!!」

どうやら、そのたった一言が母の逆鱗に触れたらしい。今思えば、母は更年期障害真っ只中でもあったのだ。
そして確かに母のセンスは壊滅的だった。なんと言うか、花を植えたらそれだけで映える気がするのだが、母の手にかかると、生え散らかして見えるのは何故なんだ?
…と、密かに思ったことがある。言わんけど。

それとは逆に、父は料理人をやっていただけのことはあって、配置センスはなかなか良かった。趣味で小さな池を作ったり、小物を飾ったりするのだが、絶妙におもしろい空間に仕上げる人だから、玄関先の生え散らかったお花につい口を出したくなったらしい。
まさか、母があれほどまでに怒り狂うとは思わなかったのだろう。更年期と天童よしみはなめたらあかん。

「お父さんね、無言で出かけたと思ったら、なんかいっぱい買ってきてね。あっという間にあんな風に作り替えたのよ。やっぱり悔しいけどセンスはいいのよねぇ。最後まで謝らないんだけどね」
「アホか、本当のこと言っただけなのに、ギャースカギャースカ、子供か」
「ごめんなさいは子供でも言えますぅ」

どうやら、夫婦喧嘩はきちんと決着がついたらしかった。
2人が揃って玄関先に出てきて、ぶん投げてしまった花の再生やら、新たに購入した花やらの説明をし始める。「違うそれはフェアリースターって言うのよ」「花の名前はどうでもいいんだよ、それよりこの色と配置のバランス、わかるか?」
2人は我先にと、娘の私を相手に承認欲求を満たしてこようとするのだった。
わかったわかった、2人ともスゴイて。

そうして一通り自慢が終わった後「古くても、すごくいい家に見えるわねぇー」
母が、家を眺めながら満足気に言った。
あなた昨日、その家を破壊する勢いでしたけど。
またキレられたら怖いので、父と私は、極力小声で突っ込んだ。


あの時、私はまだ嫁入り前で、庭が手入れがされているのも当たり前で、それよりも新築のオートロックなマンションに憧れていた。
そういえば、実家が本当にいい庭だなぁと思えるようになったのは、私が子供を産んでからの話で、それまでは、蚊がやたら多いし、玄関にカエルは集まるし、冬は霜柱だらけでとにかく寒いし、快適な季節少ないじゃないかと、そんなイメージばかりを持っていたものだ。

とにかく、母がドンキーコングみたいになったあの日以降、庭先はどんな季節でも、何かしらの花が植わっていて、私は帰るたびにホッと胸を撫で下ろす。
ここに花が植ってさえいれば、ちゃんと2人は元気ということなのだ。
いつかここが荒れ果ててしまったら。そんな想像をすると、胸の奥がヒヤっとする。


それで私は、帰ると玄関先を眺めてホッとしながら、母のあの日の形相を思い返して吹き出したりなんかするのである。


両親自慢の庭写真集

整えられた花たち(2014年ごろ撮影)
まだ痩せる前のじぃばぁ、そして当時1歳ぐらいの娘(奥に謎のネコオブジェ)


謎のネコオブジェ。こちら2022年撮影。いつから我が家にいるのだろうか。父が海から拾ってきたブイで作ってます。
衝立の裏側は苔とかメダカの甕とか。


いつ買い集めてるかわからないものを飾る。
金魚用の池。よーく見ると、釣りキチ三平が釣りしている。実はこの上にルパン一味のフィギュアがあって、この池の底にお宝が眠っている設定(知らんけど)
地植えはもう好き放題のお花畑。お墓参りの花は買ったことがないのが自慢(2015年ごろ撮影)



🌼 🌸 🌼 🌸 🌼

終わりそうで終わらない。
実家のお話、まとまる気がしなくなってきたけど、続きます。
お付き合いありがとうございます!




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