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節分で妻が鬼化、夫は鳩化

2月2日、今日が節分、あら3日じゃないのね、あらあら、恵方巻き買う?手巻き寿司でも良い?
などと思っていた時に、義実家から電話があった。コタツが壊れてしまったので買ってきて欲しいというものだ。
来週からまた寒波が来る。そいつはいけねえといそいそと買い出しに行って、ついでに家族全員分の恵方巻きを買うことになった。
ご馳走してくれるというので、中トロが入っている極太をチョイス。サーモン入りも買っておこう。

ホームセンターでは、希望の大きさのコタツは、白が一点のみだった。特にこだわりがないと言うので、すぐさまそれを選んで部屋に運び入れると、今までの黒かった天板よりずっと部屋が明るくなっていいねいいねと喜び合う。

恵方巻きさ、こんなに太いのを黙って一気に食べられないから切るよー?
良いよ良いよ、そんでちょっとずつシェアしながら食べようね。今年は西南西が恵方だよ。西南西ってどっち? 北ってこっち?

ワイワイと義父、義母、夫、娘、そして私が揃って西南西を向きながら「無病息災」と呟いて、「今から喋らないよー、いただきまーす」と恵方巻きにかぶりつく。

私の前にいる義父がフガフガと鼻を鳴らしている後頭部を眺めて食べていると、義母が「あ」というリアクションをして、義父にむき出しの入れ歯を差し出した。義父は無言で「いらんいらん」というジャスチャーをする。義母が「え、噛めてる?」というリアクション。「噛めてるで」と顎を大きく上下する義父。

いや、それ絶対笑わせに来てるやろ。今入れ歯入れなかったらいつ入れるのだろうかと噴き出しそうになるのを必死で堪える。
フガフガと言いながら海苔を引きちぎる義父のガッツが頼もしい。義母は入れ歯をテーブルに置くと、今度は微妙に西南西への姿勢を保ったまま菜花を湯掻きだした。
いやいや、全然願い事をしている様子がない。そもそも我らは恵方巻きを切ってしまっている。
もはや西南西に体を固定して海苔巻きを食べる喋ってはならない会を開催しているだけの人々である。

そして、歯のないはずの義父が1番最初に食べ終わった。
「よっしゃよっしゃ!」と満足げに座り直すと「飲み込めたか? まだか?」と家族を見回し話しかける。
願い事をかけさす気はない。
こうなってくると、誰が次に食べ終われるかの会になる。
「はい、飲み込んだー!」と夫が嬉しそうに言ったあと、「ビール取ってビール」と私に言う。恵方を向いたまま、手を左右に振る。自分でとりなはれ。
集中だ。集中しろ。
私はグッと恵方を向いたまま「家族みんな健康と、娘の中学生活が有意義なものであるようにと、全国行脚成功と、それからなんだ……とにかく楽しく元気にお金も稼げますように」などと、咀嚼するたびに願い事を盛り込んでいく。正月より七夕より、熱く長い願い事をつらつらと盛り込んでいく欲しがり屋さんである。


その後酒を飲みすぎた夫、眠くなって寝てしまった義父、携帯を見出した娘を置いて、義母と話に興じる。
子供が大きくなるのは早いねなどと楽しく会話していたところに、夫が「そろそろ帰るから皿を洗って」と言ってきた。
「いいよいいよ私がやるから」と義母。いや、今女2人ウフフしてたのに何や突然とムッとしていると「いや、とき子にやらせて。家事嫌いだろうけどさ、ちゃんとやれよ」と夫はさらに宣いやがった。この瞬間、真の鬼を召喚してしまった夫。
飲むとどうしても亭主関白面をしたくなる夫は「うちの嫁が片付ける」と言い張っている。いや、やるけども! お前の顔を立てるためにやってるんじゃねえんだわ…!! と、背後からゴゴゴゴゴという煮えたぎる怒りの音が聞こえているのかいないのか。
奇しくも節分である。私の胸のうちの鬼は今、誰にも退治なんて出来やしない。大豆なんてむしろ大好物だからな?
そんなことを思いながら、皿を洗っていく。義母が「ありがとね、あとやるからね」と言いながら、娘におやつを持たせてくれていた。

ごめんねばぁば、家帰ったらさ、鬼である私が、あなたの息子である夫に、ガチ目で豆をぶつけるけど許してね、と心の中で伝えてみたところ、どうしてか伝わったようで、小袋に小分けされた豆のお菓子が手渡された。
「これで豆まきしたら、家も汚れないからね」
娘も合わせて、女3人無言で頷きあう。

家に帰ってから、まだ酔っている夫に、娘が小袋の豆を投げ始めた。夫、嬉しそうに「やったなー!」と娘に豆を投げ返す。胸の内に鬼を飼う私は、とりあえずその豆の一袋をモイモイと食す。
「コイツ…!」「ウリャー!!」と半ば本気の豆投げになっているのを眺めていると夫が「すっごい痛いの投げてくるんだよコイツ!」と私に訴えてきたので、娘に頷いて「もっといけ」と目で送った。夫の広めのおでこにクリーンヒットしたので、ガッツポーズを繰り出す。拾うふりして、私もついでに夫の尻に思い切り豆を投げた。

翌朝、やはり何も覚えていない夫に、何か説明するのは面倒だし、怒っていることも、大豆パワーかすでに忘れていたのだが、夫は「昨日は実家へ行ってこたつ選んでくれてありがとう」と変に小さく言ってきた。
どうやら鬼化した妻の顔だけは薄らぼんやりと記憶していたようである。
「いや、全然良いけどさ。明日から寒いし。でもさ、片付けとか毎回都度、実家でもここでも、やらなかったこと、無いからね?」
と言ったら「???」という顔をしていた。

いや、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔やめろ、それ節分と関係ないからな。
私の鬼はというと「ま、来週は広島で思う存分羽伸ばそうぜ」と笑っている。



そして、こちらでは地味に日記を続けています。分ける意味はと問われたら、思いつきでツラツラ書きたい日記は、読まれっぱなしがちょうど良い温度感ってところ。





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