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連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅸ.再生(最終話)
Ⅸ.再生
まだトマが暖炉の側ですやすやと眠っている中、旅立つカイムを見送るためにティエラは小屋の外に出てきた。
「お前さんの魂は、連れてかなくていいんだな?」
「ええ。可愛いトマがいるもの。命が尽きるまで、あの子といるわ」
ティエラは、カイムに向かってにっこりと微笑んだ。
「そうかい。俺がここからいなくなれば、トマの『鍵』も外れて、すぐに大人になるだろう。きっと、これからも延々とお前さ
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅷ.夜更け
Ⅷ.夜更け
トマが泣き疲れて深い眠りについた頃、ティエラとカイムは食卓につき、向かあって座っている。
ふたりは、声を潜めてゆっくりと話し始めた。
「ティエラ、お前さんは、あとどれくらい生きられそうなんだ。あいつに会って、『鍵』を外してもらったんだろう?」
カイムにそう言われ、ティエラは口に含もうとしたホットミルクの入ったカップをテーブルに置く。
「カイムは、何でも知っているのね。私
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅶ.トマの願望
Ⅶ.トマの願望
あれから、半年が経とうとしている。
トマは、空を流れる星々を目で追うこともなく、ただただ毎日、地平線を黙って眺めるようになった。
「どうしたんだ、トマ。今日のスープをまだ食べてないじゃないか」
すっかり口数が減ったのを心配して、カイムは窓辺のトマの元にやって来た。
「カイム、僕は待ってるんだ。また、この惑星が緑の記憶を思い出すんじゃないかって。あの暖かい世界に、僕は
【再開】連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅵ.惑星の記憶
Ⅵ.惑星の記憶
トマの指さす方角に目を凝らすと、白い靄のかかった地平線に、ざわざわと黒い影がうごめいている。
その影は、氷の大地を素早く覆うようにして、ものすごいスピードでトマやカイムの方へと近づいてきた。
トマとティエラがカイムの元に駆け寄ると、カイムはふたりを守るように翼で力強く抱きしめる。
その瞬間、生ぬるい突風が、氷の舞台をなぎ倒し、カイムから抜け落ちた黒い羽根を空高く舞いあ
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅴ.生命の歌
Ⅴ.生命の歌
それから一月後、カイムは小屋のすぐ側に氷の柱でできた立派な舞台を用意した。
ティエラは、まるで肌と一体になって泳いでいるような薄く滑らかな生地でできたドレスを纏い、長いドレスの裾を滑らせるように階段を上ると舞台の中央に立つ。
美しいドレスを身に付けたティエラを見て、トマは透き通って消えそうな彼女がいよいよ氷の精になってしまったと錯覚した。
ティエラが深くお辞儀をすると、
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅵ.昔話
Ⅳ.昔話
その夜、カイムは暖炉にいつもより多くの薪をくべて、部屋を明るく照らした。
トマとティエラは、カイムの両翼に包まれながら、天窓から星空を見上げている。
「どこから話をすればいいかしら。私とトマのおじいさまは、この惑星の同じ時代に生まれたの。まだ大地が氷で覆われる前の世界は、多くの生命で溢れていた。植物も、動物も、そして人も、たくさんの生きものが暮らしていたわ。私が十八の時、同じ音
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅲ.小箱の中身
Ⅲ.小箱の中身
鍵穴もなく、力づくで箱を掴んでもびくともせず、百年の間、開け方のまったく分からなかった小箱の鍵が、いとも簡単に開いた。
その瞬間、トマの頭は真っ白になったが、次の瞬きをする頃には、すぐにカイムの姿を探していた。
「カイム、カイム! 箱が開いた! じいちゃんの箱が開いたよ!」
今日も暖炉でスープを煮込んでいるカイムの元に駆け寄ると、トマは鍵の開いた箱を見せつける。
「おお
連載SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅱ.少女ティエラ
Ⅱ.少女ティエラ
トマの前に現れたのは、ひとりの少女であった。
容姿は十三・四の年頃と見えるが、なにせ人は好きな時に身体の変化を止めることができるから、実際に生きている年月は分からない。
肌も腰まで届く長い髪も透き通るように白く、トマは氷の精がやって来たのかと思ったが、少女の手に触れると柔く温かで、人と分かると安心した。
「君は誰? 名前は何て言うの?」
「はじめまして。私は、ティエラ
【新連載】SF小説『少年トマと氷の惑星』Ⅰ.氷の惑星
Ⅰ.氷の惑星
この惑星が、分厚い氷で覆われて数百年が経つ。
あの日、太陽から一羽のカラスが飛び立ったと同時に、この惑星は朝を忘れ、永遠に夜が続く世界となった。
地上は、動物も植物も、生命という生命が姿を消し、やがて静寂に包まれた。空にはいつも、途切れることなく小さな星が流れては消えていく。
少年トマは、今日も小屋の窓からこの空を見上げていた。
*
「カイム、今
《お知らせ🌸》新連載・SF小説「少年トマと氷の惑星」が始まります!
さあ、本日より新たな連載小説が始まります!
初めてのSF小説「少年トマと氷の惑星」です🌏✨
実は、この小説は「ある方」から頂いたリクエストから生まれた物語です🍀
世界情勢が大きく変わり、私自身が創作をしていていいものなのか迷っていた時に、「今、どんな物語が読んでみたいですか?」とぶしつけながら質問をさせていただいて、このような言葉をいただきました。
「小さな日常のなかで
小さな一歩だ