見出し画像

Sprint Tokyo 序章

雷光が煌めき
窓を照らした時

真っ暗な室内にはドラムセットがおいてあることがわかった
スネアは1976年製のラディック スープラフォニック400である

わずかばかりの時間があって
雷鳴は轟いた
風が木立ちを吹き抜けていく
雨はいよいよ激しさを増す

またしても雷光が煌めいた時
ネイブはヒッコリーで出来ている太いスティックをケースからおもむろに取り出しドラムセットの前に座った

本革のスティックケースの表面には『Sprint 』と刻印されていた

雷鳴の轟きとともに
ラディック スープラフォニック400のトレモロロールが雷鳴を追いかけ始めた

次の雷光が右手のスティックを高々と掲げたネイブのシルエットを映しだした

そして次の雷鳴とともに怒涛のドラムソロが始まったのだった

ドラムソロはネイブの人生そのものを表していた

息継ぐことなく疾走するドラムソロ

時には激しく、時には優しく、
狂い出すほど感情は昂ぶる

雷光はまるでストロボのようだ

雷鳴や風や豪雨はまるでシンセサイザーのエフェクト効果のようにネイブのドラムと絡み合っている
誰も見る事も聞く事もない至高のパフォーマンスは続いた

ネイブはドラムセットを選ばないドラマーだ
どんなドラムセットでも叩く

普通のドラマーはそのドラムセットにあった叩き方をする

ネイブはまるで違う
どんなドラムセットを叩いても全てがネイブの音になってしまうから不思議なのだ

いつしか嵐は過ぎ去っていた

嵐との対話だったのか
振り返った自分の人生との対話だったのか

そんなネイブを月明かりが照らしていた

ネイブは穏やかな笑みを浮かべてこう思うのだった

「棘のない薔薇に囲まれていては自分の本来の才能を開花させることは出来ない」

「雷鳴鳴り響く嵐の中でこそ自分の本来の才能を開花させられるのだ」

まるで異次元への旅立ちのような時間だった

月明かりはそんなネイブに一つのメロディーを授けた

それはどこにでもあるようなメロディーであり

どこにもないメロディーであった

そのメロディーは時にはクラシカルに響き

時にはロックのように突き刺した


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?