[ナカミチの考察(VOL.10)] Amplifier1 – ハイエンドオーディオを凌駕するサウンドクオリティを身近にしたナカミチ初のプリメインアンプ
以前、ナカミチ初のレシーバーアンプである730を紹介しましたが、1970年後半にセパレートアンプを初リリース、1980年後半にはセパレートアンプCA/PAシリーズを発売。そのアンプ技術を生かし、1990年に初めてプリメインアンプをリリースしたのです。
はじめに
このナカミチのプリメインアンプ、発売された1990年に店頭でご覧になったことはありますでしょうか。オーディオ全盛期の店頭で各社売れ筋の商品が並ぶ中、少なくとも私は見ませんでした。
カセットデッキではメジャーなナカミチでしたが、アンプでの知名度が低いという理由で店頭に並べて頂けなかったとしたら、とても残念です。実際に、試聴して頂く機会があれば、もっと選ばれたと思います。
では、本題に入っていきましょう。
ハーモニック・タイム・アライメント・テクノロジー
アンプにおけるフィードバックの高調波に対する作用について多くの論議が交わされてきました。しかしながら、基音と歪成分とのタイミングにスポットを当てた、フィードバックの作用についての論議はほとんど無視されてきました。フィードバックをかけていないアンプは、多量の高調波歪を発生してしまいますが、基音信号と歪成分は時間的に調整されています。従来のトランジスタアンプに見られる多量のフィードバックの使用は、この調整を破壊してしまったのです。
Amplifire1に搭載されたハーモニック・タイム・アライメント(HTA)アンプ回路は、この問題を真正面から取り組んだ成果です。ナカミチの米国リサーチセンターの研究スタッフ、スティーブ・カリソン。この才能あふれるアメリカ人エンジニアによって設計された「HTAアンプ」は、トランジスタアンプで一般的に使用されているネガティブ・フィードバック(負帰還)の量だけではなく、そのNFB自体の特性についても焦点を合わせた、長年の研究成果として生み出されました。アンプの回路設計におけるこうしたアプローチは聴感上、大きな音質の違いとして認知できますが、これはまたトランジスタアンプと管球アンプの音の違いとも大きく関わる問題でした。
もし、増幅された音楽信号とその高調波歪成分が正しく時間調整されていれば、理論的にはある種のマスキング効果が生じます。逆に音楽成分と歪成分の位相がずれていると、ほんのわずかな高周波歪(THD)さえ耳に付きます。このことは、歪の多いアンプがかえってTHDの少ないアンプより音質的に優れているといった、しばしば出会う現実を裏付けているのです。また、管球アンプの音について、低域は凡庸でも中高域はすばらしいという評判があることにも一脈を通じます。歪成分の位相を変化させるという実験によって、典型的な管球アンプでは、中高域の位相は十分調整されているものの、低域についてはあまり調整されていないことが判明しました。その逆に、ほとんどのトランジスタアンプでは、低域はかなりうまく調整されていることになり、トランジスタアンプは超低域がすばらしいという定評とも符合します。
ナカミチのHTAアンプは、広帯域、低ゲイン・オープンループ設計により、全オーディオ帯域にわたって正しく時間調整されています。NFB量はわずかに抑えてあり、さらに重要なことは、オーディオ帯域を通じてNFB量を一定に保っていることです。こうしてハーモニック・タイム・アライメントの理論を製品に生かしています。
音質で厳選したデバイス
アンプは料理同様に上質な素材がなければ、どのように調理しても一定レベル以上の味は得られないという原則が当てはまります。この基本的なことを大切にし、厳選したデバイスを惜しみなく投入しています。ラインアンプをディスクリート構成としたのもその一環です。ICによる構成では不可能な、高品位パーツを適所に用いることができ、オープンループゲインの周波数特性を一定に保つことに成功しています。また、モータードライブによるメインボリュームや、モータードライブ・ロータリーセレクタ、音質重視の電解コンデンサーなど、このクラスでは贅沢なパーツ(素材)を積極的に採用しています。
出力表示を超えるスピーカー駆動能力
アンプのスピーカー駆動能力は、スペック上の出力より、その電流供給能力に大きく左右されます。例えば、パワーアンプ部は、2パラレルドライブで、合計8個のトランジスタを採用。ピークカレント28Aと余裕の電流供給能力を誇ります。出力表示は80W+80W(8Ω)ですが、その低負荷駆動能力は極めて強力で、ドライブが難しい低インピーダンス型スピーカーもラクラクと鳴らし切ります。加えて、出力に対して十分なゆとりをもたせた大容量の電源トランス、ならびに大型ヒートシンクを搭載し、すべてに余裕を貫いた構成です。
マルチレギュレート・パワーサプライ
プリアンプ部/パワーアンプ部/コントロール部それぞれトランス巻線を分離。また、イコライザーアンプとラインアンプには各々専用のローカルレギュレータを配し、相互干渉を排除するとともに、安定した電源供給を保証しています。
アイソレーテッドグランド
イコライザーアンプ部およびラインアンプ部に採用したナカミチ独自の技術で、アースをめぐる回路間の干渉を排除し、信号伝送の安定化と、ノイズ低減に貢献しています。
CDダイレクトスイッチ
入力端子からCDダイレクト専用ボリュームへ直結。インプットセレクターとバランスボリュームをバイパスできるため、よりピュアなCD再生が可能です。
システムリモートコントロール
信号劣化の少ないモータードライブ・ロータリースイッチやモータードライブ・ボリュームを搭載し、音質に影響の少ないリモートコントロールが可能です。また付属のリモコンユニットで、接続したナカミチのCDプレーヤー、デッキ、チューナーを操作することが可能です。
ナカミチシステム
インテグレーテッド・アンプやレシーバー、カセットデッキなど、ナカミチホームオーディオ・ラインナップをセットアップすることで、デザイン的にも統一されたシステムを組むことができるのは当然として、システム全体を総合的にリモート制御することが可能でした。
そのほかの特徴
ブロックごとに整然とレイアウトされたコンストラクション、再生/録音独立の出力セレクター、デフィートスイッチ付トーンコントロール、出力レベル・リモートコントリール(スピーカー出力/ヘッドホン出力)、オーディオミュート、リモートパワーON/OFFスイッチ、ハイスピード保護回路、フォノ/CDダイレクト入力は金メッキ端子、ヘビーデューティー仕様スクリュータイプ・スピーカー端子、極太ACケーブルを装備しています。
兄弟機のAmplifire2
Amplifire1には、下位モデルとして定格出力が50W+50W、モータードライブ・ロータリースイッチ方式入力セレクター、CDダイレクトスイッチなどの機能が省略されたAmplifire2というモデルが存在しました。
スペック
≪パワーアンプセクション≫
定格出力 80W+80W(8Ω)
パワーバンド幅 10-50,000Hz
周波数特性 5-80,000Hz +0、-3dB
S/N比(IHF A-WTD、入力ショート) 105dB
全高調波歪率(8Ω、定格出力、20-20,000Hz) 0.1%以下
最大出力電流 28Aピーク(片チャンネル当り)
≪プリアンプセクション≫
入力感度/インピーダンス Phono MC 0.125mV/100Ω
MM 2.5mV/47KΩ
CD/Tuner/Tape/Aux 150mV/20KΩ
全高調波歪率 Phono MC 0.01%以下
(1KHz、Rec Out、1V出力時) MM 0.008%以下
RIAA偏差 Phono MC/MM 30-20,000Hz±0.5dB
S/N比 Phono MC 70dB
(IHF A-WTD、スピーカー出力) MM 82dB
トーンコントロール Bass 20Hz±10dB
Treble 20KHz±10dB
≪総 合≫
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 最大600W
電源コンセント Switchedx2 最大200W(合計)
大きさ 430(幅)x125(高さ)x360(奥行き)mm
重さ 約15.0Kg
≪リモートコントロールユニット≫
方式 赤外線パルス式
電源 DC3V(1.5Vx2)
大きさ 64(幅)x18(高さ)x176(奥行き)mm
重さ 約140g(乾電池含む)
出典: ナカミチ株式会社 Amplifier1/Amplifier2 カタログ (1990年)
最後に
ナカミチにとって、初めてのプリメインアンプであるAmplifire1。機能そのままのネーミングのモデル名は、奇をてらうことなく真正面から音の質感にコダわった製品だと思います。各社がカタログスペックで競い合っていた当時、社内にコンサートホールを持つなど入念な比較試聴を繰り返すことで音を研ぎ澄ませるという手法をとっています。ナカミチのデッキを初めて手にした当時、このプリメインアンプの存在を知っていれば、迷うことなく手にしていたと思うのです。
2023.10.21