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[ナカミチの考察(VOL.7)] OMS-70 – ナカミチ初のCDプレーヤー

1982年に世界初のCDプレーヤーがソニーから販売。新しい音楽メディアの波に乗れと、各オーディオメーカーから続々とCDプレーヤーがリリースされましたが、ナカミチからはリリースされませんでした。経つこと、2年。1984年10月にナカミチ初のCDプレーヤーであるOMS-70が発売されたのです。


はじめに


1984年10月にナカミチ初のCDプレーヤーであるOMS-70が発売されました。カセットデッキ開発に3ケ月という、短期間で開発するメーカーにも関わらず、なぜ2年も他社よりもリリースが遅れたのでしょうか。

実は、この新しいメディアに対して「再生」する技術だけでは不十分で、「録音」「消去」が出来て初めてデジタルオーディオ技術を100%掌握出来るとナカミチは考え、消去・書込み可能な光磁気ディスク・ダイナミック評価装置「OMS-1000」を5年に及ぶ研究開発の末に完成発表。この開発により、十分な基礎技術が整ったと判断し、積み上げてきたデジタル、オプティカル技術とデッキづくりで培ってきたノウハウとアナログ技術を結集し、CDプレーヤー1号機となるOMS-70を開発したのです。

普通のロジックだと、製品のリリースが他社より遅れることは即ち商機を逃すこととなり、販売リスクが高まると思われます。この方針を全社的に共有するのは大変だったのではないでしょうか。すぐに再生機を開発という業界の流れに沿わず、正しいと信じる道を進むところにナカミチ・イズムを感じます。ちなみに、この年ナカミチは東証二部上場。アメリカにおいて、カセットデッキの売上台数及び金額で1位になっており、業績も好調でした。

では、本題に入っていきましょう。

アナログテクノロジー


[4倍オーバーサンプリング・デジタルフィルタ]
ご存知の方も多いと思いますが、CDプレーヤーにはアナログ信号化する際に、ローパスフィルタが必要です。当時他社では2倍オーバーサンプリングのアナログフィルタが主流でしたが、ナカミチは4倍オーバーサンプリングのデジタルフィルタを採用しました。
たった2倍と思うかもしれませんが、2倍から4倍にするメリットはフィルタ特性のカットオフ周波数後のカーブをそれほど急峻にする必要が無いことです。急峻な特性にするために高次のフィルタを使う事になり、10KHz以上の高域位相特性、つまり群遅延特性が悪化します。何段ものフィルタやオペアンプを通過させることによる音質への悪影響も無視できないのです。それに対して、OMS-70が使用するフィルタは帯域内の信号への影響が極めて少なくなることです。また、高次のアナログフィルタに比べ、インパルス応答の過渡応答も優れた特性を実現しています。これらすべての技術も、OMS-1000を開発・研究する上で得たノウハウなのです。

[デュアルD/Aコンバーター]
コンパクトディスクには、L・Rのステレオ信号が同時にサンプリングされ交互に記録されています。D/A変換の際、1個のD/Aコンバーターで処理しようとすると、高速の切り替えスイッチによりLch、Rchの信号を交互に流す必要があり、高域でチャンネル間の位相ズレを招く恐れがあります。OMS-70では、L・R独立のデュアルD/Aコンバーターを採用し、チャンネル間の位相ズレの無い優れた特性を実現していました。

[ダイレクトカップルド・リニアフェイズ・アナログシグナルプロセッサー]
D/Aコンバーター以降のアナログ回路は、通常のプリアンプと同様にシンプル化がポイントとなります。CDプレーヤーでは、デジタル部からのスイッチングノイズや磁気的な干渉を防ぐ必要があります。アナログ部全体を独立し、専用のアルミケースにパッケージ化、外部振動や音響的なフィードバックによる悪影響も防止しています。D/Aコンバーターから出力端子までダイレクトカップリングしたDCアンプ構成を採用、さらに信号経路から一切の接点を排除し、歪の発生を抑えています。

デジタルテクノロジー


ナカミチのデジタル"原器"OMS-1000の開発で得た最先端のデジタル&オプティカル技術。それを十二分に生かした高精度なデジタル部も、OMS-70の大きな特徴でした。ディスクの偏心やソリに強く、床振動などの外乱にも影響を受けにくい構造で常に安定した信号処理を実現しました。
[ピックアップ&サーボ系]
コンパクトディスクに収められたデジタル信号を、長期間にわたって安定してピックアップする。その為にOMS-70ではサーボ系と半導体レーザーピックアップに極めて高精度かつ安定性の高い方式を採用しています。サーボ系は、フォーカスエラー検出に臨界角検出方式、トラッキングエラー検出にヘテロダイン検出方式を採用。安定したサーボコントロールを実現し、ソリのあるディスクに対しても正確な信号処理を実現していました。また応答速度も速いため、スピーディーな選曲動作やキューイングも可能にしています。

[ドライブメカのフローティング構造]
安定した信号処理の為には、ディスクドライブメカの構造も重要なポイントとなります。まずディスクドライブメカを専用の亜鉛合金ダイキャストシャーシに直付け。これをメインベースシャーシ及びディスクローディング機構から独立させ、スプリングによってフローティングしているため、内部共振や外部振動の影響を極めて受けにくい構造となっています。
ディスクをセンタースピンドルに固定するチャッキング時には、アルミ削り出しでスピンドルにテーパーをつけたユニークなセンタリング機構が働き、ディスクを正確にホールド。ディスクの偏心による読み取りエラーを防止しています。また、ゴギングのないリニアトルクモーターを採用し、滑らかで安定した回転を保証しています。

ファンクション


[ダイレクトトラックサーチ]
フロントパネルの10キーを使用し、ダイレクトに希望のトラックを指定して再生します。イジェクト状態でトラック番号を指定しても、プレイボタンを押すだけで、希望の曲から再生します。また、トラック番号を指定後、ポーズボタンを押せば、希望の曲の頭でスタンバイとなり、ダビングを行う場合などに便利な機能です。

[インデックスサーチ]
インデックス番号が記録されているディスクの再生時には、10キーで指定することにより、そのトラックの希望するインデックスを呼び出して再生することができました。

[24曲プログラムメモリー]
トラック番号やインデックス番号をプログラムし、再生順を自由に入れ替えてメモリー再生することができます。プログラムはトラック番号のみで、24通りまで、インデックス番号のみでは12通りまで可能です。また、トラック番号とインデックス番号をランダムに組み合わせてメモリーさせることもできます。メモリーコールボタンを押すことで、メモリー内容をディスプレイ上で確認できます。

[スキップサーチ]
スキップボタンを押した回数だけ前後のトラックの頭にスキップし、希望する曲を再生することができます。

[ダブルスピードキューイング]
再生中に早送り、早戻しボタンを5秒ほど押すと、ディスク内容を再生時の約6倍の速さで聴くことが可能です。そのまま押し続けると、再生時の約10倍の速度でのキューイング動作に移ります。またポーズ状態で早送り、早戻しボタンを押し続けると、音は聴けませんが、再生時の約150倍の速さで早送り、早戻しを行います。

OMS-70/OMS-50機能比較


OMS-70の発売から2か月後の1984年12月に下位モデルであるOMS-50が発売されます。このOMS-50は、以前紹介したカセットデッキ「CR-50」のコンセプトと同様に上位モデルから便利機能を省いた廉価モデルであり、省いた機能はプログラム機能、ワイヤレスリモート機能、ヘッドホン出力などです。

OMS-70/OMS-50機能比較


スペック


形式          デジタルオーディオシステム(コンパクトディスク方式)
読み取り方式      非接触光学式(半導体レーザー使用)
エラー訂正方式     CIRC方式
チャンネル数      2チャンネルステレオ
標本化周波数      44.1KHz
量子化         16ビット直線
ディスク回転速度    約200-500rpm(線速度一定)
ワウ・フラッター    測定限界以下
周波数特性       5-20000Hz±0.5dB
S/N比        92dB以上
全高調波歪率      0.003%(1KHz)
チャネルセパレーション 92dB以上
出力(ライン)      2V(1KHz、0dB)100Ω
  (ヘッドホン)    20mW(1KHz、0dB、ヘッドホンレベル最大)8Ω
電源          AC100V、50/60Hz
消費電力        最大33W
大きさ         435(幅)x100(高さ)x308(奥行き)mm
重さ          約7.5Kg
販売年         1984年
当時の定価       268,000円

出典: ナカミチ株式会社 CR-70 カタログ (1989年)

最後に


OMS-70の発売から2年後の1986年、バージョンアップされたOMS-70Ⅱ/50Ⅱがリリース。同年、OMS-40/30/20といった下位モデルも展開。1990年には、あの画期的なミュージックバンクシステムが開発され、シングルディスクプレーヤーからマルチディスクプレーヤーに替わっていきます。このミュージックバンクシステムについてはまた回を改めて紹介したいと思います。

私たちはオーディオの音質について話すとき、「デジタル臭い」という表現を使います。それは原音に付加された耳障りな音や、誇張された高域などと理解しています。ナカミチのOMS-70はこのデジタル臭さが少なく、さらっとした音質で聴き疲れの無いアナログ的な出音のCDプレーヤーです。しかし、CD創世記に他社のCDプレーヤーと比較試聴した時、当時のデジタルソースの求められた音とのギャップに「物足りない音」という評価になったと推測してます。

2023.9.16


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