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第1話 想像力の誤用例

・この物語に出てくる物事は全て実在する物事とは一切関係なく、出てくる陰謀論は決して事実ではありません。
・この物語は悪質な陰謀論を容認・推奨するものではありません。著者は悪質な陰謀論、特に医療関係のデマを蔓延させる行為に強く抗議します。
・この物語はフィクションです。しかし、悪質な陰謀論を広めている政治団体などは実際に存在します。

飛魚水面

「平津紗夜」
私の名前が書かれた旗が、渋谷ハチ公前にはためいた。名前の下には、「覚醒」と書かれている。
「マスクをすると病気になります…マスクを外しましょう…」
メガホン越しの私の声が反響する。
路上でのデモは許可さえあれば出来るので、場所代がかからない。むしろ支持者からの寄付金でプラスになるのである。
「さやさーん!」
聞き慣れた声が聴こえた。


「さやさーん!」
さやさんの視界に小走りするわたしが入ると、さやさんは微笑んだ。
「ももさん!」
「会いたかったです!これどうぞ!」
「ありがとうございます。」

「あっ、そういえば、」「この前後澤社長宇宙行ったって言われてますけど、」
「嘘ですねあれ!絶対にスタジオで撮ってますよ!わたしたち国民を騙してます!!」
「そうですね。私もTwitterのあの写真は明らかに不自然だと思いました。宙に浮いていましたが、上から吊っているんでしょう。ワイヤーかなんかで。」
「わたしは文系だったのでよく分からないんですけど、確か無重力の空間は酸素ありませんもんね?」
「そうですね。良くご存知で。」
「ありがとうございます!!さやさんのお陰でメディアの嘘に自分でも気づけるようになってきました!」
「良いですね。その調子です。」
「あっ、わたしビラ配りますね!」

さやさんはわたしのことを、ももさんと呼んでいる。ネットでの「黄桃」というわたしの名前からだ。他の人には「黄桃さん」と呼ばれている。
「ももさん」と呼んでくれるのはさやさんだけ。会って話すと、しっかりした意志を感じる声でその名前を呼んでくれる。それがとても嬉しかった。


誰もいない家に、私がドアを開ける音だけが響く。
ビニール袋を床に置き、手洗いとうがいをした。

黄桃から貰ったビニール袋を開けると、クッキーの袋が入っていた。透明な袋に貼られたラベルに「無添加」と書いてあるところを見ると、何処かの自然派ショップで買ったのだろう。ノーマスクで入っても咎められないような。
1つ取り出し齧ると、微かに甘みがしてぼろぼろと砕けていった。この前スーパーで買ったチョコチップクッキーの方が美味しかった。
ビニール袋の底には、茶封筒が入っていた。1万円札1枚だけが入っていた。

Twitterを開き、後澤社長のアカウントに飛ぶ。10分前にツイートがされていた。

「今日宇宙船の中でエゴサしたら、宇宙旅行を『無駄遣いだ』ってわざわざ言うような人とかいて面白かったんだけど、『本当は宇宙に行っていない』って言う人までいて本当に面白いな〜☺️」
「『後澤 宇宙 嘘』とかでTwitter検索すると面白いものが見れるよ。暇つぶしにでも見てみてね🐑」

私はTwitterの検索欄に、「後澤 宇宙 嘘」と入力した。

「後澤の宇宙旅行は嘘。影が不自然だからCG。」
「後澤の嘘宇宙旅行、スタジオ撮影なのがバレバレですよー🤣」

こんなのがわんさかあった。
その中でもいいねが1000を超えているツイートを適当にいいねしながらスクロールしていると、見慣れたカット黄桃のアイコンのツイートを見つけた。

「後澤社長、とうとうボロを出しましたね‼️愚かな人間の象徴である羊の絵文字🐑を使ってバカにしてます‼️」

後澤社長は昔から羊が好きなだけだ。
というか黄桃は、10分前の後澤社長のツイートをもう見たのか。暇なんだろうか。

私は「黄桃@光の戦士✨」のそのツイートの、右下をタップした。
ハートのマークがピンク色に変わった。

【続く】

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よければぜひ…!