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第2話 永遠に来ない終わり

・この物語に出てくる物事は全て実在する物事とは一切関係なく、出てくる陰謀論は決して事実ではありません。
・この物語は悪質な陰謀論を容認・推奨するものではありません。著者は悪質な陰謀論、特に医療関係のデマを蔓延させる行為に強く抗議します。
・この物語はフィクションです。しかし、悪質な陰謀論を広めている政治団体などは実際に存在します。

飛魚の白子

・今回の文章は自殺の話題を含みます。(直接的な描写はありません)

「三瀬川くんがお亡くなりになって2年以上が経ちます。テレビ局や出演者や事務所はまだ嘘をつくのですか?」
「#三瀬川くんの再調査を求めます #三瀬川くんの事件を忘れない」

22時ちょうど。わたしはツイートボタンを押した。
わたしのタイムラインに、同じハッシュタグの投稿がどんどん増えていく。
しばらくしてトレンド欄を覗く。

24. トレンド
#三瀬川くんの再調査を求めます

よしっ。ツイデモは今月も成功と言っていいだろう。
こうして仲間とこのハッシュタグを毎月トレンド入りさせることで、三瀬川くんの事件を風化させないようにしている。
一人ひとりの声が集まれば政府や大企業すらも動かせる。わたしが政治活動をして学んだことのひとつだ。まるで小さな魚が群れで大きな1匹の魚の形になって敵の魚を追い払った絵本みたいでとっても素敵だと思う。

さやさんを応援し始めて少しした頃、わたしと同じくさやさんを応援している仲間が教えてくれた。
「三瀬川くんは自殺ではありません、殺されたんです」
まるでミステリー小説の書き出しのようにその人は言った。
私も三瀬川くんのことは、前から怪しいと思っていた。遺書が無かったり、最初の報道と翌日の事務所声明に矛盾があったり。正直その人が教えてくれた時も、「やっぱりそうだったのか」と確信した。

それからさらに自分で調べていくと、たくさんの情報が分かった。三瀬川くんの自殺報道の前日には、三瀬川くんのドラマのプロデューサーが「思い切ってやってみる。そこから全てが始まる。」とツイートしていた。ドラマの三瀬川くん最後の出演シーンは倒れているシーンで、目に違和感があった。
ドラマの製作陣は闇の組織と繋がりがあり、三瀬川くんは製作陣と争いになって、撮影中に毒を盛られ殺されていたに違いない。
まるで謎解きみたいに、ピースがはまっていった。

別の番組で共演していた佐川は、三瀬川くんに最後に会ったのは自殺報道の3日前に行われた収録だと前言っていた。
でもこれは嘘だ。佐川はドラマのプロデューサーと仲がいい。自殺報道の1週間前には2人で食事に行って写真をアップしていたくらいだ。つまり2人はグル。収録はもっと直前、最後のドラマ撮影の前くらいに収録をして、その時の三瀬川くんについて何かプロデューサーと連絡を取り合ったに違いない。
三瀬川くんのファンはそんな嘘には騙されないし、負けない。

わたしは三瀬川くんが生きていた頃は、三瀬川くんのことはちょっと好きなくらいだった。しかし、三瀬川くんが闇の組織に立ち向かおうとしていたことを知って、もっと三瀬川くんのことが好きになった。
三瀬川さんの真相が明るみにならない限り、三瀬川さんの事件は終わらない。再調査で三瀬川さんの本当の死因が分かって、三瀬川さんを殺した人がこの世の地獄のように厳しい罰を受ける。それが、三瀬川さんへの一番の弔いになるはずだから。


24. トレンド
#三瀬川くんの再調査を求めます

馴れ馴れしく故人にくん付けするハッシュタグを覗いていると、珍しく公式マークの付いたアカウントのツイートがあった。自殺報道直前に共演していた佐川さんだ。私はそのツイートをタップし、数ツイートに渡る一連のツイートを見た。

「#三瀬川くんの再調査を求めます というハッシュタグを使っている三瀬川さんの一部のファンの皆さんへ。」
「良かれと思ってあなたがたがなさっていることで、三瀬川さんを悲しませてはいませんか。」
「私は三瀬川さんとの収録日について、その日の台本の日付部分からマネージャーさんとのLINEのやりとりまで公開し、説明してきました。しかし、未だに三瀬川さんの一部のファンから誹謗中傷をされています。」
「収録日について嘘をつく理由は私にありません。そして画面の向こうのあなたがたのように、私はひとりの人間です。」
「三瀬川さんが突然亡くなり、今でも悲しみに暮れていることでしょう。私もそれは同じです。しかし、人を攻撃しても何にもなりません。」
「このままでは、法に頼るしかなくなってしまいます。もう一度、あなたがたがしていることを考え直してください。」

これには私も驚いた。
三瀬川さんの自殺から2年以上経ってもまだ飽きずに佐川さんを叩いている人が居るということに。
それも「ドラマのプロデューサーとのツーショット」とかいう、普通の人なら「偶然」と呼ぶような、佐川さんが出した根拠よりも遥かに乏しい根拠で。
他の「自称:根拠」も偶然でしかなかった。遺書が無いことも。最初の報道と事務所声明の矛盾も。プロデューサーのツイートも。三瀬川さんの目の違和感も、目に景色が映り込んだだけだった。
それに、人が人を本当に殺そうとする時は、そんな分かりやすい証拠なんて残さない。むしろ必死になってアリバイを作る。
匂わせなんて以ての外だ。映画の快楽殺人鬼じゃあるまいし。

どうなるだろうか。
「『事件』じゃなくて『自殺』なんだよ」
「『自殺』はもう『終わった』んだよ」
「これは『陰謀』でも何でもないよ、『事実』だよ」
ってこの人たちに直接目を見て断言したら。
まあ言ってみなくてもどうなるかは何となく分かる。それは嘘ですあなたは嘘をついています、とかなんとか言って聞く耳を持ってくれないだろう。そしてもっとのめり込んでしまうだろう。闇側の人間の嘘には負けない、とかぬかして。
私は右下の+ボタンをタップした。ハッシュタグ付きのツイート入力画面が表示される。
私は、この人たちの味方となってのめり込ませる側なのだ。私は、この人たちにとっては「光側の人間」だから。

この人たちの「光」なのだから。

【続く】

よければぜひ…!