M-1グランプリ2019を振り返る~からし蓮根編~
ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!
何度「ヤバイ!」と思ったことだろうか。
いつもハマる最初のツカミで全然ツカメない!
最初の山場で1発目の爆発が起こらない!!
ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!
これは本当にヤバイぞ!!!
「・・・・・・」
『M-1グランプリ2019』決勝戦、ファーストラウンド5組目。
からし蓮根のネタを観ていた時の僕の心境である。
からし蓮根が披露した「教習所」は今年何度も観たネタだ。
どこでツカんでどこで跳ねてどこで大爆発を起こすか、自分なりにわかっているつもりだ。
だからいつもハマる箇所で全然お客さんにハマらないから不安になる。
2本目のネタによって優勝は左右されるけど
この「教習所」のネタはM-1向きのネタであり、確実に最終決戦に行けるからし蓮根史上最高傑作のネタだという自負があっただけに、余計だ。
からし蓮根の漫才は、ネタ作り担当の杉本青空(すぎもとそら・写真右)のツッコミにかかっていると言っていい。
彼の熊本弁を駆使したワードセンス豊富なツッコミが、漫才の面白さを加速させる。
その青空さんのツッコミが全然お客さんにハマらない。
ハマらないからいつものように漫才が加速していかない。
顔は平静を保ちながらも、2人とも絶対に焦っていただろうなと思った。
ネタの終盤、暴走した伊織さんを罵るくだり。
青空さんの言葉にいつものキレがない。
多分心が折れていたんじゃないかと思う。
僕の勝手な見解だけど
「これがM-1の洗礼なのか!」
と、普段の舞台では感じられない『M-1』という特殊な舞台で、色々なことを肌で感じていたように思う。
しかしそこは器用な青空さん。
何とか言葉を絞り出してセリフを言い切った。
そして最後の大オチ。
怒った伊織さんが後ろから青空さんを車で跳ねるくだり。
ようやく爆笑が起こった。
審査員の松本さんの笑う顔がカメラに抜かれた。
「バック覚醒しとるぞ! 教えてもないのに」
『合格ですか?』
「黙れ! もうええわ!」
最後のオチでようやくお客さんと審査員の心を掴んだが、それ以外はこれといった決定打がないままネタが終わってしまった。
あとは審査員の採点を待つのみだ。
僕は過去14大会をずっと観てきたM-1オタクだ。
この出来で1位かまいたちの660点、2位和牛の652点を抜くのはほぼ不可能だとわかっていた。
下手したら、第3位のすゑひろがりずの637点も超えられず早期敗退もありえる。
結果は639点。
すゑひろがりずを2点上回って第3位にすべり込んだ。
何とか首の皮1枚つながった。
けれど僕は過去14大会をずっと観てきたM-1オタクだ(しつこい!)
639点は4位か5位で終わってしまう点数だと思った。
コメントを求められた上沼恵美子さんが暴走しているのがテレビ画面に写った。
僕はショックでその瞬間だけ本編をきちんと観ていなかったので、上沼さんがなぜ声を荒げているのかが全く理解できなかった。
からし蓮根がハマらない展開をM-1前に想定したりもした。
しかしそれが実際に目の前で起こると、想定していた何百倍もショックがデカかった。
からし蓮根が最終決戦に残るには、あとの5組がスベってくれることを祈るのみ。
でもM-1はそんなに甘くはない。
続く6番手の見取り図が649点を叩き出し、からし蓮根の敗退が決まった。
からし蓮根の優勝を信じた僕の『M-1グランプリ2019』が終わった。
納得はしていた。
今日のからし蓮根の出来じゃ敗退は妥当である。
僅差とかだったらもっと悔しい想いをしたと思うけど、圧倒的な敗北。
すぐに気持ちを切り替えて、心起きなくM-1を楽しむことができた。
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さてさて
ここからは、からし蓮根はなぜ敗退してしまったのか?
その理由を自分なりに分析してみようと思う。
まず1つ目の理由は、GyaO!の反省会でも2人が言っていたんだけど、ネタが仕上がりすぎていたことが問題だったように思う。
なぜならこの『教習所』のネタは、3月に『ytv漫才新人賞』で優勝した時に披露したネタでもあり、そこから9ヶ月、ほぼ一言一句セリフを変えずにやってきたのである。
だからネタのピークは完全に過ぎていたし、そもそも2人がこのネタをやることに慣れて、こなすようになってしまっていたことが原因のように思う。
あくまで僕の主観だけど、M-1ファイナリスト10組の中で1番漫才を楽しくなさそうに披露していたのが、からし蓮根のように見えた。
多分2人は、このネタをやりすぎて(仕上げすぎて)、すでに飽きてしまっていて、このネタをやることに熱量を込められなくなっていたのではないだろうかと思う。
何度も言うが優勝から9ヶ月、ほぼ一言一句セリフを変えずにやってきたのだ。
いくら勝てるネタだと言っても、人間は感情の生き物。
そこに気持ちが乗らなかったら、いくら良いネタでもクオリティは落ちてしまう。
これが1つ目の理由だ。
2つ目だが、敗退の最大の要因は青空さんのツッコミが全くお客さんにハマらなかったことだ。
なぜこんなことになってしまったのだろうか?
全国に流れるM-1の決勝である。
緊張はもちろんあっただろうが、そこまで青空さんの調子が悪そうには見えなかった。
じゃあ客の空気が重かったからだろうか?
いや、かまいたち、和牛という常連が大ウケして、会場の空気は例年ではありえないほど前半で温まっていた。
となると、他に思い付く要因はこれしかない。
青空さんの熊本弁だ!
僕はもうからし蓮根に見慣れているから、青空さんの熊本弁は当たり前になっている。
けど全国的にまだまだ彼らの知名度は低いし、初見や見慣れてない人がほとんどだろう。
熊本弁を聞き慣れてない人からすると、きっと違和感を感じると思う。
会場のお客さんは、青空さんの熊本弁に違和感を感じて、ネタがスっと入ってこなかったんじゃないだろうか?
だからいつものように青空さんのツッコミで笑いが起きなかったんじゃないだろうか?
からし蓮根の煽りVTRで写し出されたキャッチコピーは「火の国ストロング」
「火の国」で熊本をすぐに連想できる人は、熊本県民と熊本好きの人以外はそんなにいないのではないかと思う(僕の偏見や勉強不足だったらすいません)。
ナレーションで熊本出身であることに触れられてはいたが、文字ほど人の記憶に「熊本」を刷り込む効果は薄い。
お客さんは青空さんの熊本弁ツッコミを聞いた時に、面白い面白くない抜きにして
「この人何言ってるかよくわからない!」ってなってしまったように思う。
U字工字という栃木弁を使う漫才師がいますが、彼らは漫才の冒頭で自分たちが栃木県民であることをいつもアピールする。
全国的に知名度の低いからし蓮根は余計に、漫才の冒頭で熊本県出身だということを紹介しておいたほうが良かったのかもしれない。
そうしたら、結果も少しは変わっていたのかもしれない。
まあ、ただの結果論に過ぎないのだけれど。
からし蓮根の芸風的に、今年『M-1』を獲っておかないといけなかったように思う。
正統派漫才師は中々変化しにくいからだ。
邪道に行ったり、奇をてらったことをやると「迷走している」「無理をしている」と受け取られてしまい、逆に笑えなくなってしまうからだ。
そこが正統派漫才師の悩み所であり、すべての漫才師が最初に王道を選ばない理由だったりする。
青空さんのツッコミは、若手No.1ツッコミと言われるくらい現時点で完成されつくしている。
しかし、ボケの伊織さんにはまだまだ伸び代があるように思う。
からし蓮根が来年以降『M-1』で優勝するには、伊織さんの進化にかかっていると僕は思うのだ。
からし蓮根が来年以降、どんな漫才を作ってくるか楽しみで仕方ない。
M-1で敗退した傷が深くないことを今は祈るばかりです。
からし蓮根ありがとう。
あなたたちと駆け抜けた今年の『M-1』は本当に楽しかった!
※明日はようやく1組目から『M-1』を振り返ります。
2019/12/25
飛田将行 とびだまさゆき