水素社会入門 第4章 水素社会の現代から未来へ
前回までの復習
バブル崩壊に、リーマンショックと、日本のみならず世界的な経済停滞が続いたこの時期。アメリカのオバマ元大統領はに選挙公約で環境問題の解決と経済成長を両立したグリーン・ニューディール(2008年)という経済政策を打ち出します。経済的側面からも注目されるようになった水素エネルギーですが、日本では世界初の市販の水素製品として、家庭用燃料電池「エネファーム」(2009年)と水素燃料電池自動車「MIRAI」(2015年)の販売が始まります。また、ホンダからも燃料電池自動車「CLARITY FUEL CELL」が販売。日本の高い技術力で世界のトップに躍り出たのでした。
ここまでが前回の復習。
①3.11と水素・燃料電池戦略ロードマップ
最終回の初めは、前回の講座で触れていなかった日本における重大な事件の話から入りましょう。
これまでにも見てきた通り、水素社会はエネルギー問題、環境問題、経済成長、といった多角的な視点から見なくてはいけません。そのうちのエネルギー分野において2011年、日本に史上最大の事件が起こります。
皆さんお分かりですよね。そう、東日本大震災です。
2011年3月11日、三陸沖でマグニチュード9.0を記録する大地震が発生、福島県の原子力発電所が津波の影響を受け、大破。放射線が漏れ出し、地域一帯から避難勧告が出されました。
以前の記事でも書きましたが、原子力はもともと安定した発電ができる上、二酸化炭素を排出しないことから、非常にクリーンな次世代のエネルギーとして注目されていました。しかし、この事件をきっかけに、国内での原子力発電に対する信頼性は崩れ落ち、原発稼働を停止せざるおえない状況となりました。
結果的に、日本は火力発電にさらに頼ることとなり、今までより一層、再生可能エネルギーへの代替が必要とされました。
この事件を受け、日本は2014年に「エネルギー基本計画(第四次)」を閣議決定し、経済産業省は同年「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定しました。
水素・燃料電池戦略ロードマップでは2020年までにエネファームの普及や、水素燃料電池自動車・バスの導入など具体的な方針決定がなされました。
②パリ協定と脱炭素宣言
水素社会へ舵を切り始めた日本ですが、ここにさらにブーストがかかります。
2015年COP21にて、世界各国はパリ協定を結びます。
皆さん、第2章で解説した京都議定書は覚えていますでしょうか?1997年、COP3にて締結された京都議定書ですが、その時点では2013年までの温室効果削減目標のみが先進国限定で定められていました。
しかし、今回のパリ協定では、新たに2020年以降の温室効果ガスの削減目標が定められ、先進国に限らず途上国においても何らかの取り組みを行うことが法的な拘束力を持って定められました。
主要国の排出制限を見ると、ロシアは70%、中国は60%、EUは40%と非常に野心的な排出制限を宣言しており、インドは33%、アメリカは26%、そして日本は26%とやや低いものの、大規模な削減を目標にしています。
この流れを受け日本は、2017年に「水素基本戦略」を発表。二酸化炭素削減に向けた2050年までのロードマップを世界に先駆けて発表しました。
また、安倍政権から菅政権へ移行した2020年、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目標とする「脱炭素宣言」を発表。温室効果ガス削減目標も26%から46%へと引き上げました。
いよいよ水素社会実現に向け日本をはじめ世界各国が動き始めます。
③苦戦する水素普及
ということでようやく2020年まで辿り着きました。
最後に、現在の日本の状況を整理したのち、今後の水素社会の広がりについて解説して終わることにしましょう。
まずは現在の状況から解説していきます。
2015年に発表された水素・燃料電池戦略ロードマップや、2017年に発表された「水素基本戦略」ではいくつかの目標数値を定めていました。
現在その目標はどうなったんでしょうか?
まず、エネファームですが、2020年における目標導入台数は140万台で、実際の導入実績は2022年時点で約35万台ほどでした。
次に、水素燃料電池自動車。2020年における目標普及台数は4万台でしたが、2022年8月の時点での累計普及台数は7418台となっています。
最後に、水素自動車の導入を左右する、水素ステーション。2020年での導入目標は160箇所ですが、実際は2022年時点で178箇所となっています。
進捗状況を簡単にまとめるとエネファーム△、水素燃料電池自動車△、水素ステーション○といったところでしょうか。
実際に導入もされている例もあるけど、全体としてはなかなか苦戦している印象です。
水素バスや、水素ステーションなどは、一般家庭で購入するものではないので、予定通り普及が進んでいるけれど、エネファームや燃料電池自動車など一般家庭が購入する商品については伸び悩んでいます。
参考:
水素・燃料電池戦略ロードマップ(2015, 水素・燃料電池戦略協議会)
水素・燃料電池戦略ロードマップ 改訂の方向性(2018, 経済産業省)
モビリティのカーボンニュートラル実現に向けた 水素燃料電池車の普及について(2022, 経済産業省)
④これから目指す水素社会
しかし、伸び悩んでいるでは済まされません。2050年までに日本はカーボンフリー(実質二酸化炭素排出量ゼロ)を掲げています。今後はこの伸び悩む理由をしっかりと対処していかなくてはいけません。
水素普及のネックとなっている原因としては以下の3つが考えられます。
そはが、①技術的課題、②インフラ整備、③コスト。
それぞれの課題について深く見ていくとキリがありませんが、これらの解決策として共通するものはシンプルです。
それは、水素社会に向けた大規模な投資と、社会ルール(規制)の変革の二つです。
水素社会への変化はその名の通り社会構造の変化です。ある程度水素技術が確立してきている今、水素製品の普及が進み、製造コストや水素自体のコストが既存の製品より安くなるとき、それらは一気にガラッと社会構造の変化が起こると予想されています。
そのために研究開発支援や公的金融支援、制度整備、技術の世界標準化、規制改革、を政府が主導で行っていく必要があるのですが、何せ、変化が苦手なのが我が国日本。苦戦を強いられているのも無理がありません。
ちなみに、この変革をグリーントランスフォーメーション(GX)と呼びます。火力発電から、太陽光や風力、そして水素などの新たなエネルギーへ移り変わる大変革です。
世界はすでに動きはじめています。経済産業省の資料によると、
一方日本は、
と負けず劣らずの投資を行っています。
これから水素社会が到来するにせよ、しないにせよ、なんとしても地球温暖化の被害を最小限にしていかなくてはいけません。
さらには、その上でバブル崩壊やリーマンショック、そして、最近ではコロナウイルスの流行など数々の経済的危機にも対応しなくてはいけない。
そして、ロシア・ウクライナ戦争をはじめとする諸外国の戦争・紛争問題と、それによって引き起こされるエネルギー自給の問題。
これら全てに対応していかなくてはいけないのがこれからの時代です。
水素技術が、これら諸問題解決の切り札になるのか、要注目です。
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以上が水素社会入門になります!
最後までお読みくださりありがとうございました!
また今後も、水素社会に関する講座をnoteで書いていければと思いますので、もしよければフォロー頂けますと幸いです!
それではまた!
とびchan.
2023年3月31日