答えなんて、あるわけがない【4/12 対ジャイアンツ戦○】
続投して完全試合に挑むか。交代してチームの勝利を優先するか。その正解は―
いや待て待て待て。そもそも今シーズン初先発、しかもプロ未勝利の村上頌樹(むらかみ しょうき)だぞ。そんな村上がこれほど議論を巻き起こしている、まずそのことがすごすぎる。しかも4月1日のベイスターズ戦でリリーフ登板。5日のカープ戦で先発予定だったが雨天中止。不規則な間隔になったなかでの登板だったことは忘れちゃいけない。試合を壊さず5回6回を投げきれば十分だったはずだ。今年はじめての先発登板で7回無失点。しかもひとりの走者も出さなかった。
村上がみんなの期待を上回る投球をしてくれた、それで十分じゃないか。その後の結果がどうなろうとも、彼がものすごいピッチングをしたことに変わりないのだから。
これまでずっと2軍暮らしだった村上のストレートが力強くなった。今年のオープン戦で感じた変化だ。元々スピン成分が強くて吹き上がるようなストレートが武器だったが、球速は140kmをちょっと超えるかどうかくらいだった。この日のストレートは147km~148km。スピードガンの表示が村上の変化を表していたし、対戦するバッターの振り遅れが顕著だったのが何よりの証拠だった。
プロ入りの頃から制球も良くて、痛打されなければ大崩れしない。そんな村上が直球で押せているのだから、ジャイアンツ打線に付け入る隙を与えない。
やっと、やっと、この男の持っているものが1軍の舞台で発揮された。2軍暮らしのなかで培ってきたことが、遂にみんなの前で披露できたんだ。
クローザーの湯浅京己が試合を締め、ベンチの選手がグラウンドに出てきた。好投した村上が先頭で湯浅らを出迎える。湯浅が村上にウィニングボールを手渡そうとした、が。
村上はボールを受け取らなかった。代わったピッチャーが同点に追いつかれ、村上自身に勝ちは付かなかった。だから受け取らなかった。
記念のボールは正真正銘、自分に勝ちが付いたときに。今日みたいなピッチングができるんだ。その瞬間はきっと近いうちに訪れる。
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村上の後を受けた石井大智。先頭の岡本和真に本塁打を打たれ、同点に追いつかれた。村上の勝ち星が消えた。後続を抑えてベンチに戻った石井に、村上は言葉をかけた。
「落ち込まないでください。次、僕が迷惑かける番なので」
助け合って支え合える仲間がいるこのチームは必ず強くなれる。