新作『AC』についてシリーズファンとして思うこと(発売前雑感)
何はともあれ、以下の動画を見て欲しい。
見せてもらいましょう 借り物の翼で、どこまで飛べるか
これだよ、こういうのだよ。我が意を得たり。
前回の記事で、「新作『AC』の発売日は「2023年」とされるに留まり、詳細は未定である。」としたばかりであるが、発売日が8月25日(金)に決まると同時にプレイトレーラーが公開され、一昨日には予約受付が開始された。
正直に告白すれば、新作『AC』は世界観において『AC』らしさ(筆者の考えは後述する)が損なわれているのではないかという不安があった。
今までのシリーズにメインとして携わっていたスタッフがフロム・ソフトウェアを退社しているというのもあるが、それを除いたとしても、約10年という歳月は、そうした不安を生じさせるに十分な時間であるのだ。
しかし、公開されたプレイトレーラー(特に引用した上記台詞)によって、その不安は払拭されたと言って良いだろう。
勿論、ゲームとしての評価は実際にプレイしてみなければ分からない。
ただ、往年のシリーズファンで、不安が原因で購入を迷っている方がいるとすれば、声を大にして言いたい。
新作『AC』は、正統な『AC』である、と。
というわけで、まだ予約をしていない方は予約しましょう。予約特典もあるからね。
そうそう、過去作との繋がりはないらしいから、ご新規さんも勿論大歓迎だよ。
さて、本稿で主として言いたいことは以上である。
以下に述べるのは、過去作との比較や筆者の妄想も含めた雑感であるが、ご興味のある方はお付き合いいただければ幸いである。
なお、記載に際しては以下の記事の内容も含めている。
世界観
『AC』の世界観は、作品によって細かい部分は当然異なるが、通底しているのは「世界は変わらない、変えられない」という諦念であり(結果として主人公は世界を変えてしまうが)、そんな中で権力闘争を繰り返す醜さを淡々と描く灰色の世界観であると思う。
初代『AC』の「何も変わらねぇのかよ、結局」という台詞や『ACfa』の「人は諦観のうちに壊死するだろう」という台詞が代表的であろう。
新作『AC』がディテールにおいてどのような世界観であるかはまだ分からないものの、プレイトレーラーから灰色の世界観が受け継がれていることが感じ取れる。
台詞
そして、世界観にも関連するが、個人的に重視している『AC』らしさは、登場人物の台詞である。
『AC』シリーズの台詞は秀逸なものが多い。
往々にして多くを語ることこそ少ないものの、プレイヤーを引き付ける力がある(まあ、一部説明不足が過ぎるものもあったりするが。)。
ネタとして広まったものも多くあるが、それも台詞に力があるからだろう。以下、例示する。
・イレギュラーなんだよ やり過ぎたんだ、お前はな!
・いいか、俺は面倒が嫌いなんだ
・大きすぎる…修正が必要だ…
・騙して悪いが仕事なんでな 死んでもらおう
・レイヴン…その称号は、お前にこそふさわしい…
・遅かったな 言葉は不要か
・AMSから、光が逆流する…!
・好きなように生き、好きなように死ぬ 誰のためでもなく それが俺らのやり方だったな
・世に平穏のあらんことを
そして、本稿の最初で引用した新作『AC』の台詞もまた、『AC』らしい力のある台詞であると思う。
なお、話者が女性であり、主人公の力量を計っているということから、以下の台詞を思い出した。
認めましょう 貴方の力を
今この瞬間から、貴方は我々の敵
この世界から消え去るべき敵です
これは『ACV』における敵対勢力の台詞(初代『AC』の台詞のセルフオマージュ)であるが、新作『AC』でも類似の台詞が出てくるのではないだろうか。
なお、完全に余談であるが、『AC』の精神的続編と呼ばれた『デモンエクスマキナ』(他社作品)においては、この部分が物足りなかった。
操作感や空中戦がメインとなるゲームデザイン等、アクションゲームとしては面白かったものの、世界観等も含めて『AC』のようなゲームを求めていた筆者にとっては、期待値が高かっただけに甚だ残念であった。
有名声優を多数起用していたが、「この人にこんなつまらない台詞を言わせるのか」と絶望したのを覚えている。
繰り返すが、アクションゲームとしてはかなり面白かった。「ストーリーよりもロボットを操作するアクションを楽しみたい」という方には良作である。
主人公
新作『AC』においては、主人公は「ACを操縦することだけに脳神経を最適化された“旧世代型強化人間”」であると、ロングインタビューで語られている。
主人公の設定があるのは(この程度でも)、『AC』シリーズにおいてかなり珍しい。
記憶している限りでは、「ナインボールに家族を殺された」と設定された『ACMoA』と、「伝説的なレイヴン(当該世界観において駆逐されつつある古い傭兵)だったが、戦場で傷ついたところをヒロインに助けられた恩に報いるためにリンクス(適性がある者しかなれない次世代兵士)となった」と設定された『AC4』ぐらいではないかと思う(公式小説の設定を含めるならば初代『AC』もだが。)。
そして、この2作品において、最終的に主人公は今まで戦っていた場所(『ACMoA』においてはアリーナ、『AC4』においてはコロニーアナトリア)を去っていることから、新作『AC』においても、主人公は舞台である辺境の開発惑星「ルビコン3」を去ることになるのではないだろうか。
更に注目したいのは「ACを操縦することだけに脳神経を最適化された“旧世代型強化人間”」であるということ。
シリーズファンである筆者の悪癖であるが、「過去作品との繋がりはない」とされていたとしても、過去作品との繋がりを疑ってしまう。
『AC4』『ACfa』で登場した「リンクス」は、「AMS」という生体制御システムに適性があり、神経接続で稼働する「ネクストAC」を駆る傭兵である。
また、『ACfa』のエンディングの一つでは、人類の宇宙進出の可能性が示唆されている。
そこに新作『AC』において上記設定である。『ACfa』で実装された「アサルトアーマー」に類似した攻撃(丁寧に「原理は違う」と説明されているが)等があることも加味すれば、「主人公はリンクスの成れの果てなのでは?」という妄想が出来てしまう。
妄想はあくまで妄想だが、それでも楽しいものだ。
「AC」デザイン
「AC」のデザインは大きく3種類あると考えている。すなわち、『初代AC』から『ACLR』までの「レイヴンのAC」、『AC4』『ACfa』のスタイリッシュな「リンクスのネクストAC」、『ACV』『ACVD』の重厚感あふれる「ミグラント・ストーカーのAC」である。
新作『AC』の機体デザインは、割とクラシックであり、上記で述べた「レイヴンのAC」という印象である。
ロングインタビューによると、新作『AC』は「『AC』シリーズの新たな一歩」と位置付けられており、これからもシリーズが続くことを期待させるが、新たな一歩において原点(=レイヴン)回帰というのも意識されたのではないだろうか。
なお、プレイトレーラーにおいて、
識別名「レイヴン」 リスト上位、優先排除対象だ
という台詞があったことから、フロム・ソフトウェアにとっても『AC』における「レイヴン」は特別な意味を持つのだろうと思う。
筆者は「地底人」(『AC3』から『AC』を始めたプレイヤーを指す古い呼称)であるから、「レイヴン」には思い入れがある。
ノスタルジーではあるが、フロム・ソフトウェアも「レイヴン」を大切にしているのは、やはり嬉しかった。
新要素
新作であるからには新要素も期待されるところである。
脚部ごとに特性が付与されるというのも面白い点であるが、個人的に注目しているのは「新武装」と「スタッガー」である。
『AC』シリーズにおいて、近接武装はそこまで種類が多くなかった。
伝統的な「レーザーブレード」、一撃必殺の威力を持つが当てにくさも随一である「射突型ブレード」(とっつき)、建物破砕用の「ドーザーブレード」、爆発物を押し付ける「HEATパイル」、何故か実装が遅かった「実体刃ブレード」ぐらいか。すなわち「ブレード」か「パイルバンカー」しかなかったのである(しかも全種類が揃うタイトルはない。)。
しかし、新作『AC』においては「レーザーランス」「チェーンソー」の実装が名言されているほか、プレイトレーラーには「レーザーウィップ」とでも言うべき武装が確認できる。
この近接武装の多様化には、『SOULS』シリーズ等の経験が活かされているのではないだろうか。
また、肩武装として「シールド」が実装されるようである。
シールド自体は『AC2』から『ACLR』、『ACVD』で存在するが、いずれも手持ち武器であった。
肩にシールドって…格好良いよね。レーザーランスと併せて素敵性能を上昇させよう。
なお、「展開後1秒前後は出力が高くなる」という仕様は、「“敵の動きを見て対処する”アクションゲームであることを重視し、攻防が見て取れるレベルまではあえてスピードを落とした」という発言と併せて、『SOULS』シリーズにおける「パリィ」に通じるものを感じる。
もう一つの新要素である「スタッガー」も面白い。
「スタッガー」という用語自体は『ACV』で実装されているのだが、新作『AC』における「スタッガー」は、ロングインタビューによると、「衝撃力は言わば崩し性能とも言えるパラメータで、蓄積により敵の姿勢制御システムをダウンさせ、“スタッガー”と呼ばれる数秒間の動作不能状態に陥らせる」「スタッガー状態に陥った敵への追撃はすべて直撃扱い」とのことである。
過去作においても、強い衝撃を受けると一瞬操作不能になることはあったが、ハイスピードアクションにおいて、数秒の動作不能は致命的であるため、「スタッガー」がバトルを左右することになりそうだ。
なお、これが『SEKIRO』における「体幹システム」を想起させるとして、新作『AC』について「MECH」+「SEKIRO」=「MECHIRO」といった愛称を与えるユーザーが出現したようである。
新作『AC』においては、「これまでのさまざまなタイトル開発から得られた知見や経験、蓄積されたノウハウを活かして、元来『AC』シリーズが備えているメカカスタマイズの根幹のおもしろさと掛け合わせて、いまのフロム・ソフトウェアだからこそ作ることができる新しいメカアクションゲームを作ろう」として開発されたようであるが、特にバトルに関して、そうしたノウハウが活かされているのだろう。
総括
「AC」デザインについて、「原点回帰というのも意識されたのではないか」と記載したが、ゲーム全体としては「レイヴンのAC」だけではなく、今までの『AC』シリーズの要素が抽出されているように思う。
操作感においては『AC4』『ACfa』の「ネクストAC」に近いと思われるし、システムにおいても「PA」(「ネクストAC」において実装されている、機体の周辺に展開する粒子防護膜)に似たバリアや、「PA」を攻撃に転用した「アサルトアーマー」に類似した攻撃が確認できる。
また、プレイトレーラーにおいて、『ACV』『ACVD』で採用された「スキャンモード」(攻撃はほぼ出来ず敵機の情報収集に特化したモード)を想起させる場面もあった。
デザインについても、巨大兵器と思われるものについては、『ACfa』の「AF」(「ネクストAC」の個体依存性に恐怖した企業が採用した、凡庸な多数の人間で稼働する巨大兵器)や、『ACV』『ACVD』で登場した巨大兵器を思わせるデザインである。
『機動戦士ガンダム』シリーズ等で顕著であるが、長く続くシリーズにおいては、各シリーズに固有(それも愛情が深い)ファンがいる。
そこに10年ぶりに新作を発売するのである。
各人が思う『AC』は、当然各人によって違う。それでも『AC』であると思わせるためには、各『AC』シリーズの最大公約数+新要素の作品になるのではないかと思う。
以上、長々と述べたが、筆者は上記のとおり、新作『AC』は正統な『AC』であると考えているし、それ故に大いに期待している。
そしてその期待に応えてくれる作品であることを心から願っているが、いまだ不安を感じるレイヴンたちには以下の言葉を贈ろう。
お前にはそれを知る権利と義務がある