逡巡の二十秒と悔恨の二十年|感想・レビュー ★3.5
読了したのは少し前なのですが感想です。
なお、以前の感想・レビューでも書いたように、私は小林泰三氏のファンです。
短くまとめると
氏の持ち味がしっかり出ている、非常にバラエティに富んだホラー短編集。
過去作へのオマージュも含まれるので、そういった点もファンにとっては嬉しい収録。
氏の作品が好きなら買って損は無いと思うが、わりと刺激が強めな作品が多い(と思う)ので、氏の作品に読み慣れていない方は他の作品から入ったほうが無難。
概要
本書は、小林泰三氏の作品のうち雑誌などにのみ掲載された、これまで短編未収録だった作品を集めた短編集です。
以下の10作品が含まれます。
玩具
逡巡の二十秒と悔恨の二十年
侵略の時
イチゴンさん
草食の楽園
メリイさん
流れの果て
食用人
吹雪の朝
サロゲート・マザー
ファンの方は『玩具』や『食用人』などのタイトルで察するところもあるのではないでしょうか。氏の他作品と似たテイスト(テーマ)の作品やオマージュ(マッシュアップ?)もありましたが、元の作品を読んでいなくても楽しめると思います。
角川ホラーということもあり、エロ・グロ描写はそれなりにあります。『食用人』などは氏の作品の中でもキツめかと思います。
感想
記憶に強く残るような傑作的な作品はありませんでしたが、バラエティに富んでいてどれも面白かったです。先述しましたが、氏の他作品を彷彿とさせるような作品も含まれており、ファンとしてはそういった視点でも楽しむことができました。
個人的には『侵略の時』や『草食の楽園』、『サロゲート・マザー』などがとくに気に入りました。自分たちの常識や倫理観が揺らがされるような氏の意外性のある哲学的な切り込み方は、別の視点を与えてくれるようなアート作品を彷彿とさせます。
なお、『食用人』は同テーマの他作品が好きだったのですが、わりと描写がエグくて正直なところきつかったです(苦笑)
謝辞
おそらくこれが小林泰三氏の名を冠した最後の出版物となるのではないかと思います。
未収録だった短編を集めて文庫として出版して下さった『角川ホラー』さんに大変感謝いたします。