
ビックモーター社の不正事件から学ぶ医療組織のあり方
こんにちは、株式会社Tobe-Ruの戸澤です。
以前中古車販売会社最大手のビックモーターの不正に関するニュースが多く取り上げられました。
本件の不正は経営計画通りに事業推進するための目標値がノルマ化され、潜在的社内圧力により保険金不正請求が行われたわけですが、一体この事件の本質的要因はどこにあるのでしょうか。
そして、この問題から医療組織経営に置き換えてどのようなことが学びとなりましたでしょうか。
まず、この問題の本質的要因は明らかに「企業風土」です。
ワンマン経営により、誰も逆らえず、社員が顧客ではなく、上司や会社に目がいくことで行動の良し悪しが判断できなくなった典型的な悪質事例です。
「こんなこと、当院であり得るわけないでしょう。。。」
そう思われる方も多いかと思いますが、当然このレベル感での不正までは無いにしても、医院文化形成を見誤ることで
・医療事故
・横領
・社員ボイコット
・不正医療費請求や不必要な治療の推進
と繋がっていきます。
最初は小さいヒヤリハット事案でも見過ごすと大問題に発展するケースもありますので、自分事として改めて自院で振り返ってもらえたらと思います。
やはり数値目標は持たない方がよいのか?
院長先生方に「院内全体で共有している数値目標はありますか?」と聞くと「昔は数値目標はあったけど、スタッフにプレッシャーがかかり雰囲気が悪くなったから今ではやめてしまった」と返ってくることが時々あります。
個人的な見解では、院内で共有する数値目標はあるべきだと考えます。
なぜならば数値目標は、診療方針や医院ビジョンに近づいているかどうかのモノサシ(全員が共通した判断材料)になるからです。
数値目標がないと、モノサシがない(人によって異なる)ということと同じ意味となるため、結果として共通価値観や仕事観を統一することが難しくなります。
医療機関は一般的に営業マンが存在したりするわけではありませんので個人予算があったり、営業ノルマがあるわけではありませんが、組織を成長させるという点では数値目標や数値意識の共有化は不可欠です。
例えば、消化器系の医院さんで「胃癌・大腸がんの死亡率0の社会へ」という理念を掲げていたとすると、内視鏡件数が増えることで死亡リスクを軽減する(早期発見率を向上する)ことに繋がるわけです。
数値目標があるからこそ、理念に近づいていることが全員で認識でき、数値を1つずつクリアすることの喜びを共有できるわけです。
問題なのは数値目標の現場への落とし方、プロジェクト運営の進め方です。
医療と企業の一番の違いは医療機関には「株主が存在しない」ことです。
幸い株主が存在しないことで外部から圧力がかかることは少なくとも企業よりは少ないはずです。
しかし、前述した通り、組織成長には、数値目標は持つべきなので、目標設定やフィードバック、プロジェクト推進に取り組んでいく必要があります。
落とし方、プロジェクトの進め方のポイントは
①「ノルマ」ではなくあくまでも「目標」であること
②数値目標に根拠があり、目的が存在していることを理解させること
③1人1人に役割と責任の所在を明確にすること
④役割の責任者に自ら考えさせること
⑤定期的に次の新たな行動が生まれるためのフィードバックを行うこと
この5点です。
③~⑤を整えるために特に重要なことが②です。
ただ単純に
「当院の目標は内視鏡検査数200件/月間です」
「当院の目標はインビザライン月間5件目標です」
ではスタッフさん達は全く関心を示しませんし、行動に移らないでしょう。
そこに「なぜ」を十分に伝えられているかどうかが重要です。
ここが伝わることで③~⑤は簡単に整えることができます。
多くのスタッフが正しい行動姿勢や仕事観を持つためには?
数字目標が共有されても不正を許容したり、質が低い状態で達成しても何の意味もありませんし、いつか医院の看板に傷が付きます。
歯科医院だとよくあるケースですが、歯科医師の給与体系が歩合であることから、点数さえ稼げばよいという認識になるのもこの部類です。
特に医療の場合、質が患者さんに伝わりづらい分、よりこのような傾向が見られることになります。
正しい行動姿勢や仕事観を持った上で目標を目指すことが大切です。
そこで必要となるのがコアバリュー(行動指針)となります。
コアバリューには
・日々認識した上で仕事に取り組んでもらいたい行動姿勢
・絶対に行ってほしくない行動基準
が含まれます。
クレドカードを作ったり、朝礼で唱和することは当然やった方がよいのですが、それ以上に実践できているかどうかを確認することが大切です。
そのために有効な手法が360度評価となります。
当社サービスでも360度評価を実施される方々が7月から一気に増えましたが、早速、効果が出始めている医療機関さんが現れて参りました。
360度評価とは、1人の行動を周りのスタッフがフィードバックする仕組みのことです。
この360度評価を年に数回ではなく、毎月~3ヵ月に1回の高頻度で実施することで、コアバリューが刷り込まれ、行動改善が生まれたり、その人個人の長所の掘り起こしができます。
この文化が定着することで、院長先生やチーフの前や一部の患者さんの前だけではなく、常時正しい行動姿勢を持って、働き続けることができ、将来的には同じベクトルで多くのスタッフが働くことができます。
医療機関の場合、多くは成功体験や自己肯定感ややりがいは、院内からではなく、患者さんを通じて得ることになります。
上司の顔色を伺いながら働くのではなく、院外(つまり患者さん)に目を向けて、最大限のパフォーマンスが発揮できる環境を作ること、この積み重ねが結果として院内目標達成に繋がるでしょうし、これこそが本質的な医院文化の基盤となります。
今回は1件の企業の不正事案をもとにお送りさせていただきましたが、皆様自身でも他にも多数学びがあったかと思います。
他人事ではなく、自分事としてこのようなメディア報道を捉え、反面教師にしながら、自院の正しい成長の道を描いてみてください。