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乙女は紡ぎ、機(はた)を織る


 これはまんがタイムきららキャラットで好評連載中のちうね先生による「紡ぐ乙女と大正の月」のネタバレを含む妄言となります。
 2021年8月号を読まれた方かネタバレの類を一切気にしない方のみ先へどうぞ。そして考察の類を文章化したのは初めてなので乱文はご愛敬。

 紡のほっぺた!
 今月は特にもちもちほっぺ増量中でしたね。大福のようにうにょんとしててマシュマロのようにふにっとしてて求肥のようにふるふるしてるほっぺたが大盤振る舞い! なんてお得! 大好き!

・写真の意義

 さて、雪佳編も大団円を迎えたところで気になる部分が出てきました。
 未来への言及と写真の変化。物語が動き出す予感をひしひしと感じますね。
 「紡ぐ乙女」の中でも過去と未来をつなぐ象徴的なキーアイテムとなっているのが黒く煤けた写真です。
 大正×年の卒業記念写真アルバムから意味深にまろびでた一葉の写真。
 これは明確に紡が2019年から持ち込んだものとして描かれています。

 それは今までただ黒いだけ。百年の時を遡り右も左もわからない紡自身を象徴するように閉ざされたものでした。
 そして今回。満を持して映し出されたのは
 旭、初野、雪佳、唯月、紡の5人。
 紡がこの写真に見覚えが無いことから、煤けた写真は1921年11月4日(原敬首相の暗殺事件)よりも後に撮られたと推測できますね。ちなみに写真の変化と夜雨さんの報告が(ほぼ)同日といえるのは月の満ち欠けからもわかります。
 本作品では作中の日付が明確に設定されているのは単行本の章タイトルからもご存じの通りなので、原首相の件は末延家の立場から考えても触れない方が不自然といえるでしょう。

 写真がいつ撮られたものなのかはとりあえず置いておいて、重要なのはこの写真が2019年の視点から大正時代を観測できる唯一の装置ということ。
 それが何を意味するか。
 何らかの影響で未来が変わったとき、限定的ながら過去の時点で確認できるということになります。
 そう、例えば誰かが……なんてね。

 ちなみにですが写真の出処は(現時点より未来の)紡自身なんじゃないのかな、と考えています。
 紡なら2019年5月10日の自分自身が手に取るアルバムに写真を仕込むことは容易ですし、地震に合わせて本棚を倒すこともできますよね。果たして転倒防止のために底面が広くなっている本棚が、中の本が散乱していない程度の揺れで転倒するんでしょうか? 例えばこの日の図書館には“先客”がいたとしたら? そして既に起こった出来事を自らの手で再現したのだとしたら?
 「STEINS;GATE」の観すぎですね。それでも可能性の一つとしてはありえるんじゃないでしょうか。

・煤けた写真の謎

 作中で写真に動きがあったのは
 ①紡が唯月に保護された後
 ②唯月が紡を家族として受け入れた後
 ③雪佳と唯月の溝を埋めた後

 ではなぜ図書館で見た写真は煤けていたのか。そしてなぜ今になって見えるようになったのか。
 いくつか仮説を立ててみましょう。

①単に汚れていた
 まさか、可能性がゼロとまでは言いませんが。それは考えにくいでしょう。

②タイムパラドックス回避のため認識が阻害されていた
 いわゆる世界による補正みたいなやつですね。最初から5人の写真はそこにあった、だけど紡には煤けているようにしか認識できなかった。
 多少ご都合主義的ですがこれが一つ。ただしこの説は紡の見ていない状態で変化が描写されている「家族」の後に対する説明が少し弱くなります。

③紡が4人と縁を結んだことによって見えるようになった。
 ありえそうですよね。いかにもありえそうだけど仮説の立て方がふわっとしすぎていて決め手に欠ける。

 決め手に欠けるなら補強していきましょう。
 縁を結ぶ、少しリリカルに表現してみましょうか。縁を紡ぐ、と。

・紡ぐ乙女は何を紡ぐのか

 ここにきてタイトル考察じみた問いかけだなんて、時期尚早の感が否めない節はありますがまぁいいでしょう。今ならまだ好き勝手言えますからね。
 具体的な展開予想じゃなくてふわっとしたテーマ論だから許して。

①五色の糸
 人の縁は古くより糸にたとえられます。
 縁の概念は仏教由来ですが、仏教の糸にはこのようなものがある。
 青・赤・黄・白・黒の陰陽五行説に由来する五色の糸。
 これは阿弥陀仏が人を極楽浄土に導く糸とされています。
 紡の持つ写真に写る人数とも一致する……んですが関連してくるワードが臨終と救済なのでいささか不吉に過ぎるきらいがありますね。
 もっとも五行思想はあらゆる分野に影響を与えているのでシンボリックな数字として気に留めておいてもいいかもしれません。

②運命の糸
 続いては西洋の概念。ここでいう「運命」とは通常寿命を意味します。
 人の運命は女神によって定められている、というものですね。
 過去・現在・未来をつかさどる三姉妹として描かれることも多い神々です。
 該当するのはモイラ(ギリシャ神話)、パルカ(ローマ神話)、ノルン(北欧神話)あたりでしょうか。
 やや概念が大きすぎる気がしますが「未来をつかみ取る」という流れならあるいは……。

③アリアドネの糸
 ギリシア神話におけるミノタウロスの伝承に登場するアリアドネの糸。勇者テセウスがこの糸をたどって迷宮ラビュリントスを脱出したことから「困難な状況を打開するような問題解決の糸口」という意味の慣用句になっています。
 紡が発端となって周りの問題を解決していく、という展開に沿っているようにも思えますね。
 ただ一説にはアリアドネはアルテミス(月と乙女をつかさどる女神)に射抜かれるとされている点が気になりますが。

④運命の赤い糸
 本命はコレ。いわゆる恋仲の男女を結ぶ見えない糸とされていものです。
 登場人物はみんな女の子じゃないかって? まぁそうなんだけれどあくまでもモチーフとして。
 引っかかる理由は赤い糸の原典にあります。赤い糸の話が収録されているのは中国唐代の『続幽怪録』、そして北宋代の『太平広記』内の「定婚店」。
 内容としては、婚姻をつかさどる冥界の役人「月下老人」は婚姻が決まった二人の足首に赤い縄を結ぶ。そうして縄の結ばれた二人は必ず結ばれる。とまぁそんな話。
 月と糸と北宋がまとめてリンクしてるから関係性ありそうじゃない? という安易な予想ですね。
 ほら、ちうね先生の著者近影は徽宗帝(北宋第8代皇帝)の描いた桃鳩図じゃないですか。

 紡いだ糸はどうするか。
 それはもちろん織るわけです。
 経糸(たていと)に緯糸(よこいと)を織り込んで布にしていく、そして完成した暁には……
 布を手に入れることがゴールとなるお話に「羽衣伝説」があります。
 月下で水浴びをしていると羽衣を奪われてしまい天上へ帰れなくなる。そう、天女様のお話ですね。
 初野が紡のことをどうして天女だと思ったのか。
 「古の物語」とは蜂須賀の収蔵品にある古書であったのかもしれません。
 古書は伝奇の基本。蜂須賀家の蔵や千歳様の読んでいた本にタイムスリップのヒント、例えば紡以外の時間遡行者についての説話なんかがあるかもしれませんね。

・紡が跳んだ意味とは

 個人的には歴史を変えるような過去改変が主目的にはならない。と思っています。
 当時を生きた人々の営みによって紡がれた歴史。それは良きものでも悪しきものでもなくただそこにあった事実として存在するものです。人は歴史を探求し、ときに評価する。けれど決してその流れに介入することはできない。
 人が歴史に介入することができるとするならばそれは未来に対してのみなのではないでしょうか。
 唯月たちは紡にとって(そして読者にとっても)過去の存在です。
 止まらない歴史の先頭を走るのが紡。
 であるならばこの物語は紡が変える物語なのではなく紡が変わる物語とした方がしっくりくるように思うのです。
 周囲に影響を及ぼしながら紡自身が成長していく。その過程で踏み出し、変えていくことはあるでしょう。けれどその客体は歴史という大きな流れではなくあくまでもかけがえのない個人である。
 そうして紡いだ絆をもって現在を生きる少女は令和の歴史を紡いでいくんじゃないでしょうか。


 さぁつらつらととりとめのない空言を書き散らかしてきましたがこのあたりで終わりにしておきましょう。
 単行本2巻の発売も2021年8月26日に決まりましたしこの先も楽しみですね。
 紡本当かわいいもちっとしてへにゃっとして何も考えてなさそうで少し考えてるところとか自己評価低めなのにポジティブ思考なところとかしれっと大正期の風俗に馴染んでる環境適応能力とか無自覚人たらしなところとか大好き。

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