マガジンのカバー画像

とある二人のお話。

6
運営しているクリエイター

#恋愛

ある二人のお話。 その3

仕事辞めたんだね!いつこっちを離れるの?

彼女からのメッセージが届く。
長い間お疲れ様でした、という気遣いと共に。

ああ、見たんだな、と自分のSNSの投稿を思い出して返信する。

 月末まではいる予定。20日に引越し業者が荷物を取りに来るけど、状況見てどうするか決める

少し前から流行り出した新型ウィルス。その影響で、彼は長距離の移動を必要とする帰郷をいつにするか考えあぐねていた。

 それま

もっとみる

彼女のその2。

『ああ、もう!なんでこんな時間まで!』

取引先との食事や酒の席を嫌っているわけではない。
ただ、帰れないのが嫌なのだ。
暗黙の了解、忖度、”当たり前”という圧。

『「好きにやってね。」なんて、先に帰ったら後からネチネチいう癖に!』

フリーランスの彼女にとって、一本一本の仕事はとても大事だ。
しかし、割りに合わん!と思うことも稀にある。基本的には感謝をもって相手に臨むし、give&takeとい

もっとみる

とある二人。その2

玄関を開ける。

「おつかれー。」と言いながら入ろうとする彼女を一旦制し、彼は自分の靴を片付ける。

中に入り扉に背を預けて彼女は踵に手を掛け、一段上がって自分の靴を揃える。

『大人と小人みたいだわ…。』

大きな靴にある種の感動を覚えながら、

「ねえ、靴のサイズって幾つ?」

投げかけられた素朴な疑問に彼はサラリと答える。

「でっか!」

見つけるの大変そうだなぁ、などと思いながら、部屋の

もっとみる

彼女のその1。

「なんであんなこと聞いちゃったんだろ?」

平日、午前中のオフィス街を酒の残り香と共に越え、自宅のベッドで突っ伏して彼女は悶絶する。深酒の次の日にこういうことは確かによくある。

あー、恥ずかしい恥ずかしい、と繰り返しながら、醒めてきた意識と同時に生まれる敗北感と罪悪感、尤も勝ち負けなどない筈なのだが?と思い直したりしてみる。

敗北感は自分でなんなりと出来る。”そういう事”を期待しているように思

もっとみる
とある二人。 その1

とある二人。 その1

彼は彼女の質問にこう答える。

「それはないね。」

彼女の質問はこうだ。

「ねえ、こういう感じから好きになることってある?」

服も着ないまま、二人はこういう会話を紡ぎ出す。

彼女は安堵する。
彼はそれを見て思う。そんな事、重要?と。

ドアを閉じればそこにはその空間が出来上がるし、

ドアを開ければそれぞれの日々の現実に戻るだけ。

彼も彼女もそういう関係を好んでいる。

彼は知っている。

もっとみる